◆報知プレミアムボクシング ▽後楽園ホールのヒーローたち 第28回年末特別版【後編】

 2026年のボクシング界はどうなっているのだろう―。そう考えた時、言わずもがな、世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋、以下=尚弥)と3階級制覇チャンピオン・中谷潤人(M・T、以下=潤人)のスーパーファイトが話題を独占するだろう。

5月に東京ドームでの決戦。年末の27日にサウジアラビアで尚弥は防衛戦、潤人はスーパーバンタム級転向初戦を行うが、いずれも勝利は堅い。この2人は「リング」誌が発表する世界最強ボクサーランキング「パウンド・フォー・パウンド」で尚弥は3位、潤人は7位にランクされている(22日現在)。まさか、「パウンド・フォー・パウンド」に入っている日本人2人が試合をするなんて、ひと昔前なら考えられなかった。

 勝つのはどっちだ。2人が戦っている姿を頭の中で想像してみた。序盤は潤人が長い距離で相手を見る。そこへ、尚弥が鋭い踏み込みで接近してくる。お互い警戒するだろうから、激しい打撃戦にはならないような気がする。一発で試合が終わってしまう可能性もあるし、決着はKOだと思う。尚弥は9月のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)との試合で、足を使い相手を翻弄(ほんろう)するスタイルを披露した。相手に何もさせずに勝つという圧巻のスタイルだった。

一方の潤人は6月の西田凌佑(六島)とのWBC・IBF世界バンタム級王座統一戦で、これまでの長いリーチをいかして遠い距離から相手を仕留める形ではなく、接近戦を仕掛けKOに結びつけた。両選手ともに、眼鏡ではないが遠近両用のボクシングができ、穴がないのだ。

 スーパーバンタム級での実績なども考慮した上で、現状では6―4で尚弥が有利だ。ただ、27日のサウジアラビアでの試合で評価が縮まる可能性は十分考えられる。スーパーバンタム級初戦の潤人が、ウェートを上げ、どれだけ適応しているのか。ここがベストウェートなのかを判断してみたい。それにしても尚弥は数試合先まで相手が決まっているという、日本人ボクサーでは過去に例をみないスタイルで試合を行っている。これは海外のビッグスターと同じで、何もかもが異次元だ。気になる試合予想は、今後、折に触れて私見を述べていきたいと思う。

 今年はバンタム級で日本人ボクサーたちが世界のベルトをかけ、熱戦を繰り広げた。そのバトルは26年も続くだろう。まずは4階級制覇王者の井岡一翔(志成)のバンタム級転向だ。

大みそかにWBAの挑戦者決定戦に挑むが、結果次第ではバンタム級の戦線のキーマンになる。そして、無視できないのが井岡と同門の比嘉大吾(志成)だ。3戦連続で世界挑戦という恵まれた環境でリングに上がったが、僅差の判定負けから2戦続けての引き分け。本人はまだ世界を狙う気持ちがあるようで、世界ランクも上位をキープしている。井上拓真(大橋)と王座を争った那須川天心(帝拳)、前WBO王者の武居由樹(大橋)らの巻き返しも注目だ。

 世界王者が多く誕生している「95年組」。黄金世代といわれWBAの堤聖也(角海老宝石)、WBCの井上拓真が現役王者として君臨する中、復活を狙う「95年組」が軽量級を盛り上げそうだ。前述の比嘉もそうだが、寺地拳四朗(BMB)との統一戦に敗れたユーリ阿久井政悟(倉敷守安)、3月に王座を失った元WBO世界ライトフライ級王者・岩田翔吉(帝拳)らは必ず世界の舞台に戻ってくる。

 同じ95年組ではあるが、復活組ではないジャンルに坪井智也(帝拳)がいる。先月24日のプロ3戦目で、元世界王者のカルロス・クアドラス(メキシコ)を下し、世界挑戦を視野に入れた。対戦相手にとってはとにかく難敵だ。「相手が力を発揮できないまま試合が終わる」「相手の長所を殺すスタイル」と関係者は口をそろえている。

その言葉通り、本人も「相手に何もさせずに完封して勝つ」ことを第一にしている。KOする大切さを理解しながらも、「全ラウンドを支配して勝つ」と、倒すだけがボクシングではないという考えも持ち合わせる。相手が強くなればなるほど、坪井の良さが発揮されるはず。来年は、日本人初の世界選手権金メダリストの実力を証明する年になるだろう。

 坪井はスーパーフライ級で世界を取りに行くそうだが、同階級には今、世界中から注目を集めるWBA・WBC・WBO統一王者のジェシー・ロドリゲス(米国)が圧倒的な存在感を発揮している。スーパーフライ級で防衛戦を行うのか、1階級上のバンタム級に転向するのかは分からないが、どちらにしても日本人選手たちはその動向に少なからず影響を受けることになるはずだ。

 尚弥がベルトを独占するスーパーバンタム級までは多くの日本人世界王者が誕生している。その一方でフェザー級から上の階級では苦戦を強いられている。中量級での王者誕生は、よりボクシング界を盛り上げるだけに、期待したい。(元WBC世界バンタム級チャンピオン)

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