米独立リーグ、フロンティアリーグのジョリエット・スラマーズが、本拠地であるイリノイ州ジョリエットに残る旧ジョリエット刑務所跡地で、来年4月30日にオープン戦を開催すると、大リーグ公式サイトが伝えた。チーム名の由来(スラマーは「刑務所」の俗称)となった当刑務所で88年間、受刑者たちが実際に野球をしていたグラウンド(庭)で行うことが話題になっているという。

 この刑務所は1980年に公開されて人気を博した映画『ブルース・ブラザース』で、有名になった場所でもある。ジョン・ベルーシ演じる「ジョリエット」ことジェイク・ブルースが映画の冒頭で仮釈放されるシーンで使われた。

 今回、この企画を立てたのはオーナーの一人、ナイト・トレイン・ベック。2024年1月にスラマーズの営業マーケティング担当執行副社長に就任し、共同オーナーとなった。今季はある試合で、満員の観客に向けてヘリコプターからホットドッグ2600個を投下するという企画を行っている。彼の祖父は野球殿堂入りもしているビル・ベック。1951年ブラウンズのオーナー時代、3フィート7インチ(約109センチ)の、メジャーで最も背の低いプレーヤーと言われたエディ・ゲーデルを代打として起用したことでも知られる。祖父譲りの奇抜なアイデアマンのようだ。

 刑務所で米プロ野球が行われた過去の事例は当記事には書かれていない。では日本ではどうだろうか。1952年3月28日、戦争犯罪人、いわゆる“戦犯”が収容されていた巣鴨拘置所(通称巣鴨プリズン)で2軍ながら巨人と毎日が行っていた。

 同年同月29日付けの報知新聞1面では、「きのう巣鴨で慰問の巨・毎二軍戦」との見出しで、写真とともに記事が紹介されている。

 「雲一つなく晴れ上がった28日、午後一時から巣鴨拘置所グラウンドで戦犯慰問の巨人―毎日二軍戦が行われた。外野の芝生にも緑がちらほら、のどかにカゲロウももえて“釈放の春”を待つ戦犯たちは一投一打に晴れやかな歓声をあげた」。「場内アナウンスの軍隊口調がちょっと気になる」。試合は毎日が9―3で勝利した。

 松井正さんの「二軍史」(啓文社書房)によれば、それ以外にも同年5月19日、巨人、毎日に加え国鉄を含めた3チームが巣鴨拘置所で慰問野球を行った。3月の試合では後に殿堂入りする山内和弘さんがプレー、5月には当時スター選手だった毎日・別当薫さんが特別参加して打撃練習を行った、とある。

 いずれにせよ、米国も日本も拘置所に受刑者のために、野球ができるグラウンドがあったことがうかがえるのは興味深い。

 ※参考資料 米大リーグ公式サイト、米野球殿堂公式サイト、松井正著「二軍史」(啓文社書房)、スポーツ報知アーカイブ

 蛭間 豊章(ベースボール・アナリスト)

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