アルナシームといえば、キュートな瞳にほんのりピンク色の鼻、厩舎での元気いっぱいの姿が思い浮かぶ。担当の五十嵐公司調教助手が更新しているSNS「アルしゃん」のアカウントも人気で、多くの競馬ファンから親しまれた。

現在は脚もとの様子をみながら、乗馬に向けてのリトレーニングを開始している。

 現役時代、レースの前は毎回、不安と戦っていた。五十嵐助手は「競馬場の馬房で、指1本触れさせないんです。立ち上がるし、前脚を出すし、競馬嫌だ、苦しいって。でも、10分くらいすると、納得したのか手入れをさせてくれる。その時に覚悟が決まるのかな」と準備段階での裏側を明かした。それでも、パドックでは楽しそうに外めを周回。「お客さんの前ではルンルンで“魅せる”ように歩きますが、1時間前は猛獣のように襲ってきます。最後の京都大賞典(6着)までそうでした」と振り返る。

 繊細な心の持ち主と向き合う日々は、4年以上も続いた。「一歩間違えば、競馬で走ることが嫌になっていたでしょう。でも、これまで乗ってきてくれたジョッキーが全員、あの子の気持ちを考えて乗ってくれた。

だからここまで成長出来たと思います」。五十嵐助手が丁寧に調教してきた姿を、騎手たちも見て、また感じていたのだろう。

 2歳時から芝のマイルから中距離戦線で活躍。6歳の今年は中山金杯を勝ち、秋は有馬記念を目標にしていたが、11月に右前脚の種子骨靱帯炎を発症し、現役引退となった。「有馬記念で、成長したアルナシームをお見せしたいと思っていました」。それでも、無事に次のステップに進めたのは幸いなこと。五十嵐助手は「(ライオンレースホース代表の)田畑利彦オーナーが面倒をみるからと言ってくださった。人を引きつけるオーラやキャラクターは唯一無二。間違いなく僕の宝物です。皆さんの応援もエネルギーになりました」と感謝する。

 五十嵐助手は実はこれまで、一度も「アルしゃん」と呼んだことはなく、仲良くなりたいという気持ちを込めて「友達」と呼んでいた。先日、アルナシームが過ごすラクエドラゴンホースパーク(滋賀県大津市)で再会。

栗東トレセンからも近い場所だ。「すぐ会いに行けるところに来てくれてありがとう。君はどう思っているかわからないけど、僕はうれしいよ」と友達に呼びかける五十嵐助手の表情は、今までのどの瞬間よりも優しかった。良かったね、アルしゃん。(山下 優)

編集部おすすめ