◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 23年7月、大相撲の新弟子検査でウクライナ出身の19歳を取材した。後の新大関・安青錦(安治川)だ。

ロシアによる侵攻を逃れて来日したエピソードを流ちょうな日本語で語る姿に、「なぜ言葉が上手なのか?」と驚かされた。取組で負った顔のあざについても「男前になったかな」と冗談で返す。その姿を見て、語学習得は出世に大きく影響するのだと思った。

 角界では史上3人目となる英国(97年中国返還前の香港を含む)出身力士を目指し、ニコラス・タラセンコさん(16)が6月から湊部屋で稽古に励んでいる。何度も父と来日し、相撲部屋を探した。約2年前、当時三段目だった安青錦、安治川親方(元関脇・安美錦)と会食。自身の母のルーツがウクライナで、親しみを持つとともに日本語で話す安青錦の姿に刺激を受けた。元々勉強は好きではなかったというが、英国に戻ると決意して午前4時半に起床。時差のある日本とオンラインで語学に取り組んだ。7月の取材では、たどたどしくも目をまっすぐ見て日本語で語ってくれた。

 26年夏場所での初土俵を目指し、日本相撲協会の面接が控える。今は単語カードにローマ字で日本語を書いて毎日20単語を覚える。

「3日に一度復習の日を設けている」。12月に会うと翻訳アプリは必要なくなっていた。師匠の湊親方(元幕内・湊富士)は「普通に日本語で話していますよ」と成長に目を細める。

 10月には母国でロンドン公演が開催された。「安青錦関のレスリングみたいな技を覚えている」と映像を食い入るように見た。憧れの存在は新大関となり、16歳の励みになっている。(相撲担当・山田 豊)

 ◆山田 豊(やまだ・ゆたか)09年入社。23年に大相撲担当。

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