2026年は午(うま)年。7月に還暦を迎えるJRA最年長の年男、柴田善臣騎手(59)=美浦・フリー=が新春インタビューで、「大好きな馬乗り」について大いに語った。

 柔和な笑顔と明るい口ぶりが、達観したベテランらしさを感じさせる。今年7月で還暦という節目の60歳になる年男の柴田善は、JRA現役最年長ジョッキーとして存在感を見せ続けている。デビュー42年目を迎えて、今も競馬に乗り続けている姿は自身でも想像がつかなかったという。

 「60だよ!? 正直、30代の頃は60って老人だと思っていた。実際、俺も孫がいるけど(笑)。俺らの頃って40歳を過ぎたら、みんな引退とか調教師の道とか考えていたからね。それが60だもんね。(現役を続けているとは)全然、思っていなかったです」

 ターフで切磋琢磨(せっさたくま)してきたライバルや年下の後輩ジョッキーが調教師に転身する姿を見て、選択肢として考えないことはなかった。それでもジョッキーとして、大好きな馬乗りの魅力にはかなわなかった。

 「少し考えたこともあったけど、40代くらいの時から競馬全体のシステム的なものが変わってきて、調教師に対しての魅力を感じなかった。調教師って、馬だけを育てればいいわけではないし、ジョッキーも育てないといけないし、家族がいる厩務員さんもちゃんと雇用しないといけない。すごく重要な職業だと思っていたから、自分はもっと気楽に楽しく馬に乗って、という“楽な道”を選んだ(笑)。

やっぱり馬に乗ると楽しいしね」

 1985年3月にデビューしてから積み重ねてきた勝利数は、JRA歴代6位となる2338勝と輝かしい数字だ。04年には自身の年間最多となる145勝をマークしたが、近年は騎乗数自体も減ってきている。それでも競馬に対する情熱は衰えるどころか、さらに楽しさが増したという。

 「やっぱり変わってきたし、より細かくなってきた。もっと好きになったかもしれない。たくさん乗っていた頃は忙しくて、今は一頭に対して細かく考えられるし、見られるし、逆に今の方が楽しいですね。(騎乗数が)少なくなったのはちょっと寂しいけど、逆にいろいろとそういう時間が持てて、楽しくやれています」

 そんな大ベテランは、忘れがたい一頭として若き日に出会ったホクトヘリオスの名前を挙げる。安田記念(88、89年とも4着)、マイルCS(88年2着、89年3着)など最後までG1には手が届かなかったが、90年の中山記念など重賞3勝をコンビで挙げた。

 「とんでもなく調教では引っかかるし、それなのにレースは進んでいかないんだもんね。本当に苦労させられたけど、『黙って背中に乗ってろよ。最後までちゃんと走るから』って、そういう馬の気持ちも分かったし、レースの全体を見ることも教わった。馬にはいろいろと教わっていますから」

 負傷した左肩の手術のため24年12月から長期休養を余儀なくされたが、昨年9月に約9か月ぶりに実戦へ復帰を果たした。

つらい地道なリハビリをこなす毎日で、「引退」の2文字が脳裏をよぎることもあったという。

 「(辞めようと思ったことは)ありますよ。最近だよね。手術したら痛みもあるし、今回なんかも(左)肩が全然上がらなかったから。ジョッキーどころか、普通の生活ができるようになるのか不安になった。これは無理だなと思ったけど、リハビリの先生とか担当医さんが一生懸命やってくれて、その支えがあって元に戻れた。『さすがだね、今の医学』って思ったよ(笑)。前だったら、けがが治らずに引退したジョッキーはたくさんいたはずだから」

 うま年の年男、60歳の還暦など大きな節目となる一年へ、あくまで自然体を貫くつもりだ。

 「自分が意識してなくても、周りが言ってくるんだもん。『ちゃんちゃんこ用意するから』とか、みんなにいじられてる(笑)。(武)豊とも話をしたけど、ジョッキーも定年をつくろうよと。辞め時を見失っちゃってるからさあ。

豊だって、痛いところはあるだろうしさ。でも、やっぱり馬に乗るのは楽しい。復帰した時に『いやぁ、いいなあ馬の背中って』と思ったもん。それだから辞められないし、本当に周りの人のおかげでもってますよ」

 新春の抱負として色紙にしたためた「楽」の文字には、何度も口にした「楽しい」「楽しむ」という思いが込められている。そしてその明るく元気な姿そのものが、今年も競馬を愛する人々を楽しませてくれそうだ。

(取材・構成=西山 智昭、坂本 達洋)

 ◆柴田 善臣(しばた・よしとみ)1966年7月30日、青森県生まれ。59歳。JRA競馬学校1期生として85年3月に美浦・中野隆良厩舎所属でデビュー。88年の中山牝馬S(ソウシンホウジュ)で重賞初制覇。93年の安田記念(ヤマニンゼファー)でG1初制覇。JRA通算2万2243戦2338勝(うちG19勝を含む重賞96勝)。現在、自身が持つJRA騎手最年長勝利記録を更新し続けている。

05年から10年まで日本騎手クラブ会長を務め、現在は相談役。21年に「第2回競馬功績者表彰」の農林水産大臣賞を受賞。22年春に黄綬褒章を受章。164.0センチ、53.0キロ。血液型A。

新年初重賞はピースワンデュックと参戦 

○…新年最初の重賞騎乗となる中山金杯で柴田善は、これまで全8戦でコンビを組んできたピースワンデュックと挑む。折り合いの難しさが課題でも、大ベテランが競馬を教えてきてオープンまで出世を果たした。管理する大竹調教師は「丙午(ひのえうま)の年に年男を乗せられるなんて、すごい時代ですよね。誰よりもこの馬のことを知っているのは善臣さん」と、全幅の信頼を寄せる。

編集部おすすめ