2021年東京五輪柔道男子100キロ級王者で新日本プロレスに入団したウルフアロン(29)が4日、東京ドーム大会でデビュー戦を迎える。日本の五輪金メダリストのプロレス転向は初めて。

“キング・オブ・ダークネス”の異名を持つ極悪レスラー・EVILとの一戦を前にスポーツ報知のインタビューに応じ、初陣への決意を語った。(取材・構成=林 直史)

 ウルフアロンは超満員の東京ドームを思い浮かべ、闘志を高ぶらせた。棚橋弘至の引退試合との相乗効果で前売りチケットは、98年4月4日のアントニオ猪木引退試合(観衆7万人、主催者発表)以来の完売。注目が大好物の29歳にとって、これ以上ない舞台が用意された。

 「半年間、本当にプロレスに向き合ってきた。『デビュー戦でこんなに大きな舞台で大丈夫なのか?』と思う気持ちもありながら、このチャンスは絶対ものにしたい」

 6月に転向後は金メダリストの肩書を封印し、練習生として新日本の道場で週6度、1日3時間半の練習や雑用に励んできた。受け身、ロープワーク、投げ技と地道に段階を踏み、胸板やふくらはぎに厚みが増した。長髪にひげも伸ばして野性味あふれるワイルドなウルフに。半年間で思考も風体も“プロレス仕様”に仕上げた。

 「しゃべり方も変えて曖昧な言い方、濁す感じはやめました。恨みや嫉妬、負の感情も最終的には力になる。柔道の時とは違って、『こいつが嫌いだから倒したい』というのがあってもいい世界だと思う。

感情を口に出してぶつけていきたい」

 初陣で激突するEVILは非道な振る舞いを許せず、10月の両国大会でリングインして止めに入った因縁から対戦を志願した。負の感情を存分にぶつけられる相手だ。

 「卑怯(ひきょう)ですよね。1対1の戦いに(率いる極悪軍団)ハウス・オブ・トーチャーが介入してくるし、凶器攻撃もある。でも普通に戦っても強い。強い選手が卑怯なことをするのは一番たちが悪い。今まで対戦したことがない人間」

 過去の映像も研究しているが、介入などのダーティーな戦いは未知の領域だ。ただ、相手の必殺技「EVIL」は大外刈りの変形。柔道五輪王者は攻略に自信を見せた。

 「僕は大外刈りで投げられることはまずないですから。大学以降、1年の時の全日本選手権で高橋和彦選手に技ありを取られたぐらいで、一本負けは一度もない。上半身の動きで出してくる技は分かる。

かけられるもんならかけてみろ、と」 

 一方でほぼ完成しているいう自身の必殺技に話題が及ぶと、途端に歯切れが悪くなった。

 「何系? 横浜家系、かな。濃厚な技? うーん、うーん。まあ当日のお楽しみで」

 いましがた、否定したばかりの曖昧な言葉を連発。「濃厚なひげを蓄えた男は濃いめの濁しを残し、立ち去っていった…」と、自らナレーションを入れて、さりげなく取材を切り上げようとしたものの、目指すレスラー像を問いかけられると精悍(せいかん)な表情を取り戻し、デビュー戦の必勝を誓った。

 「力強いレスラーになっていきたいですね。僕は飛んだり跳ねたりはできないタイプ。ストロングスタイル【注】ではないですけど、地に足をつけた力強さで見ている全員を鼓舞したい。1・4が迫るにつれて、ボルテージもモチベーションも上がってきている。初戦が一番倒したい相手なので。全てをぶつけて、必ずEVILを倒します!」

 ◆1・4(イッテンヨン) 新日本プロレスが主催し、1992年から毎年1月4日に東京ドームで開催されている日本プロレス界最大の興行。観客動員数の過去最多は98年の長州力の引退試合の6万5000人(1月4日興行、主催者発表)。

UWFインターとの全面戦争など数多くの名勝負が生まれた。2007年から大会名は「WRESTLE KINGDOM」。今大会は新日本のエース・棚橋弘至社長の引退試合がメイン。22年ぶりにテレビ朝日系全国ネットで放送される。

 ◆総合格闘技に転向した主な柔道選手

 ▼吉田秀彦 92年バルセロナ五輪78キロ級金

 ▼秋山成勲 02年釜山アジア大会81キロ級金

 ▼滝本 誠 00年シドニー五輪81キロ級金

 ▼石井 慧 08年北京五輪100キロ超級金

 ▼泉  浩 04年アテネ五輪90キロ級銀

 ◆ストロングスタイル 新日本の創始者、アントニオ猪木が提唱した概念。相手の最大技を受けきってなおかつ、打撃、投げ、間接技と小細工なしの真っ向勝負に徹する。その象徴が黒のショートタイツ。

 ◆ウルフアロン 1996年2月25日、東京・葛飾区生まれ。29歳。6歳から春日柔道クラブで競技を始め、東海大浦安高2年時に高校3冠。東海大を経て了徳寺大、パーク24に所属。17年世界選手権、19年に無差別で争う全日本選手権、21年東京五輪を制し、男子で史上8人目の「柔道3冠」を達成。

左組み。得意技は大内刈り、内股。身長181センチ。家族は両親と兄、弟。

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