開業3年目を迎えた千葉直人調教師=美浦=のこだわりの新厩舎から多くの活躍馬が誕生しそうだ。第42回フェアリーS・G3(1月11日、中山競馬場・芝1600メートル)には京成杯オータムHを2019、20年に連覇したトロワゼトワルを母に持つ良血のピエドゥラパン(牝3歳、父エピファネイア)がスタンバイしている。

 指揮官は「イメージとしてはジッと我慢して、しまいを爆発させる形にしたい。(2馬身半差をつけて初勝利の)前走のような競馬がどのクラスでもできるようになればいいですよね。ここで結果が出ればクラシックでも楽しみです」。デビュー前から指揮官が大きな期待をかける素質馬が、3戦目での重賞取りを狙っている。

 美浦トレセンの北馬場として利用されていた土地に、ピエドゥラパンなどが過ごす新厩舎が誕生。続々と引っ越しが行われているなかで、早々と10月上旬に移転を済ませたのが千葉厩舎だった。開業時の旧厩舎から、39歳の千葉師が70歳の定年まで使う拠点へ。思い描く理想の厩舎にようやく着手できた。開放的な区画には、大きなウォーキングマシンやガラス張りのゲストルームを備え、厩舎の至る所に厩舎ロゴのフクロウが目に留まる。「フクロウにしたのは“人馬ともに苦労がないように”というのと、フクロウのように“広い視野を持って馬を見られるように”」。目指すべき厩舎像への思いが込められている。

 「こだわったのは人馬ともに、より良い環境を提供すること。

モチベーションが上がって、居心地のいい人馬ともに魅力のある厩舎をイメージしました」。新厩舎は考え込まれた思いが随所に見て取れる。新鮮で質がいいカイバを与えるために、馬糧庫は密閉できる空間に冷房を完備。湿気が多くなる夏場でもカビの発生を防ぎ、季節を問わず新鮮な状態を保つ。また、厩舎内には大型のクーラーを設置しているのはもちろん、馬房内はゴム素材の床に細かいチップ、粗めのチップを敷くことで、滑ったり、寝違えを防ぐ構造になっている。

 配慮は馬だけではない。ウォーキングマシンは馬の運動量を確保するのと同時に、スタッフの負担を軽減する効果を見込んでいる。休憩所の大きなガラスの前には木馬を置き、騎乗後、すぐにフォームをチェックすることも可能に。他にも道具を置く場所なども作業の動線を想定した配置となっており、馬とともに従業員の働きやすさも十分に考えられた造りになっている。

 “広い視野”もテーマに掲げているだけに、馬のわずかな変化にも気づけるようにと工夫を凝らしている。敷地内の地面はコンクリート、砂、ゴムの3種類を採用。「軟らかい地面なら爪、脚の疾患であれば硬い地面の上で歩様を抑えたり、反応が出る。

色々な症状を見せる疾病があるので、少しでも見落としがないように」と説明する。

 他にも様々な科学的なデータを把握するため、EQUTUM(エクタム)というアプリを導入。調教時の最高スピードや最大心拍数、心拍の戻り具合の情報を取得。また、脚に機器をつけることで脚への衝撃波や踏み込み、蹴り上げの角度などの歩様解析もできるようになっている。トレーナーは「最終的に頼るのは関わっているスタッフや牧場やオーナーの皆様の一頭一頭に込められた思いや感性を大事にしていますが、科学的な根拠も必要な部分かなと思いまして。今の状態を数値化できるのは、調教区分やレース選択のいい指標になるのではないかと思っています」と数値を有効活用している。

 その成果は形になって現れている。千葉師は「踏み込むときの衝撃波を指標にしっかり馬場をとらえられているのかも分かるので、叩きすぎる子は基本的にダートの方がいいとか、ピッチ走法の子はどちらかというと短距離の方がいいのかなという感じですね」。千葉厩舎で預かった馬に対しては“付加価値をつけて生産者に返したり、キャリアを一歩前進させる”ことを目指しており、固定概念によって選択肢をつぶしてしまうことがないように、人の経験、感覚を踏まえた意見とともに科学の力もその助けになっている。

 これからも良いものであれば、カスタマイズしていく方針に変わりはないが、現状の工事はひと区切り。最後に取り付けられたのは、重賞出走時の立ち写真などで背景となる厩舎ロゴ入りの垂れ幕だった。「この場所で写真をいっぱい撮ってもらえれば、うれしいですね」と多くの管理馬が大舞台に挑んでいく将来をイメージする千葉調教師。

厩舎の名前を広めるような馬たちが、ここから送り出されていくことになる。(記者コラム・浅子 祐貴)

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