7代目、8代目と2人の尾上菊五郎が「通し狂言 鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ)」(27日千秋楽)上演中の東京・新国立劇場を沸かせている。そろっての共演は7か月ぶり。

新年の国立を飾ることで定着している音羽屋。昨年は8代目菊五郎、6代目尾上菊之助と大名跡の襲名披露があった。今年はどんな「らしさ」を見せてくれるのか。開幕後の“2人の菊五郎”に話を聞いた。(内野 小百美)

 「女忠臣蔵」とも言われる「鏡山」で、源頼朝を演じる7代目菊五郎の登場は大詰め。場内の雰囲気はガラリと変わる。しかし本来、この場面は存在しない。「正月の芝居だけに、やっぱりお客さまには明るい気持ちで帰ってもらわないと。本来なくても今回は許してもらえるんじゃないかな。ずっと女の世界だったのが、ラストで男の世界に持ってくる、という感じでね」

 命がけで忠義を果たす“召使いお初”を演じる8代目との親子共演は昨年5、6月の襲名披露以来。「(8代目にとって)この時期にお初を演じることだけでなく『鏡山』を17年ぶりに見せられる、ということに意味があると思うな」

 名女形・7代目尾上梅幸を父に持った7代目が、菊五郎を継いだのは1973年。53年になる。

襲名関連で昨年は8代目を取材する機会が多かった。しかし、次第に7代目は自身の襲名時、何を考えていたのか、知りたいと思うようになった。

 「う~ん、モヤモヤしてたよ。とにかく自分は立役(男役)がやりたくて。父が女形だから上の方も親のやってるものばかり持ってきて参ったよ。『菊五郎になったんだから違うんだよ』と言いたかった。でも、当時はとても発散的に言えるような雰囲気じゃなかったしな」と半世紀前を懐かしむ。

 襲名の転機を「いま思えば、本当にやりたい気持ちを、ため込んでおく時期だったね。私の場合。やりたい役をする先輩の芝居をジーっと見てたね。ため込んでいるうちに芝居が体のどこかで発酵していく、というかさ」。“その時”に備え、演じる前から役に命を吹き込んでいたということだ。

 映画「国宝」の大ヒットで歌舞伎界への関心は一層、増している。一連の注目に「いま変わる必要、変える必要はないよ」。リアル人間国宝が発する言葉は重い。浮つくことなく、いまこそ古典をはじめ、歌舞伎らしいものをしっかり見せなければならない。

 10月で84歳。この数年、脊柱管狭窄(きょうさく)症とも闘う。そのため、左脚の動きに制約が伴う。「力が入りづらくて。全然痛くもなんともないから、突然治ったりするんじゃないか、と思ったりするんだ」

 ユーモアの人でもある。昨年5月に襲名披露が始まる直前“ダブル菊五郎”で呼び方に悩む人たちに向け、「七ちゃん、八ちゃんと呼んでくれ」とアイデアを話したこともあった。実際どうなのだろう。「それが、まだ全然、一度も呼ばれたことないんだよな」と少し残念そうだった。

 ◆鏡山旧錦絵(かがみやまこきょうのにしきえ) 嫉妬、陰謀が渦巻く奥御殿での女たちの争いを描く。源頼朝(7代目菊五郎)の娘・大姫(中村玉太郎)に仕える御殿女中たちは誠実な中老の尾上(中村時蔵)と局岩藤(坂東彌十郎)の2派に分かれていた。謀反をたくらむ性悪な岩藤は大姫に気に入られた尾上に激しく嫉妬。嫌がらせが始まり、尾上の召使いお初(8代目菊五郎)は主人を守ろうとする。「鏡山」を「加賀見山」とも。初演は約250年前の人形浄瑠璃で“大奥もの”の原点とされる。

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