菅義偉元首相(77)が、回顧録「官邸の決断」(ダイヤモンド社、2200円)を出版した。官房長官として約8年、首相として約1年、計9年間にわたり、官邸の中枢で下した数々の意思決定の深層とは―。

2023年から「週刊ダイヤモンド」で掲載された連載企画に30ページ以上の書き下ろしを加え、待望の書籍化となった。(久保 阿礼)

 菅氏は政治家として最も厳しい判断を迫られた場面について、新型コロナウイルスへの対応を挙げた。「全く想像もせず、前例がなかった」と吐露。安倍晋三元首相を近くで支え、その後、そのバトンを受け継ぐ形で未知の病と対峙(たいじ)した。専門家から対策を聞き取り、海外の例を調べる中で「ワクチン接種こそが事態を好転させる全て」と判断し、1日100万回の接種を記者会見で宣言した。

 日本では医療供給体制が整わず、出遅れもある中、ワクチンの供給不足の懸念に対しては、ファイザー社のCEOと直接交渉するなど、早期の供給の道筋をつけた。「最高責任者として、厳しい場面の連続でしたね」。賛否両論が渦巻き、1年の延期となった東京五輪・パラリンピックについても「中止すれば、日本の信用に関わる」と開催を決断。「終わってみれば、やって良かった」と振り返った。

 こうした「逃げない」政治姿勢の原点は、法政大時代に打ち込んだ空手にある。「厳しさに耐えられるか試したかった」という動機で入部し、毎日欠かさず、部活に足を運んだ。「物おじしない度胸が政治家として一番役立ちました」。

空手で培った精神力が政治信念の根底にあると語った。

 座右の銘は「意志あれば道あり」。秋田県から上京し、法大卒業後は小此木彦三郎元衆院議員の秘書となった。ただ、政治家に必要とされる「地盤、看板、カバン」を持たずに、1986年に横浜市議選に出馬。箱根駅伝が開催される中、ビラ配りやあいさつ回りなどをこなすなど1日300軒を回り、当選につなげた。「強い意志を持てば道は開ける」という信念は、首相時代に実現した携帯料金値下げや不妊治療への保険適用など、行政の縦割りを打破する政策実現の原動力にもなった。

 「決断しないリーダーは有害」と断言する菅氏。リーダーは、いかに組織を率いて、どう決断すべきか。ビジネスパーソンにとっても示唆に富む内容となっている。

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