俳優の柄本明(77)は芸能生活56年。数多くの映画や舞台に出演しているが、志村けんさん(2020年死去、享年70)とのコントが「一番難しい仕事だった」と語る。

「次元が違って、太刀打ちできない」と志村さんに敬意を表し、自身を「アマチュア」と認識している。柄本なりの俳優論や往年の銀幕スターを演じた映画「レンタル・ファミリー」(HIKARI監督、27日公開)の撮影エピソードを聞いた。(有野 博幸)

 初対面の記者が名刺を手渡すと、柄本から「今年の報知映画賞は何でしたっけ?」と問いかけられた。さりげない質問だが、こちらに興味を示してくれたことがうれしい。一人の人間として受け入れてもらえた気がして、温かい気持ちになった。

 記者が幼い頃に志村さんとのコントを夢中になって見ていたことを伝えると「あれはこわかったですね。自分の人生の中で、あれが一番こわかったし、難しい仕事ですよ。やらせていただいて光栄でしたね」と回想した。40年ほど仕事を共にした盟友に思いを巡らせて「志村さんが亡くなってしまって、芸者コントはもうできない。残念です」としみじみと語った。

 アドリブのような、息の合ったやり取りが絶妙だった。どのように作り上げていたのか。

「志村さんが朝から晩まで撮影をしていて、昼くらいに私が現場に行くでしょ。それで、食事休憩の時に台本のセリフ合わせをして、はい本番。ね、こわいでしょ」。まさに職人同士の真剣勝負。「仕事が終わって、お酒を飲みに行くこともありましたけど、志村さんはシャイな人だから、そんなに多くはしゃべらない。撮影は毎回、必死でしたね」と思い返した。

 舞台「浅草パラダイス」、映画「やじきた道中 てれすこ」で共演した中村勘三郎さん(12年死去、享年57)にも刺激を受けた。「志村さんや勘三郎さんは次元が違う。『プロだな~』と思うし、太刀打ちできない。自分は『アマチュアだな』と思い知らされる。僕は自宅にご近所さんを呼んで、無料の朗読会をやっているんです。それがライフワーク。

志村さんも勘三郎さんも、そんな僕だから、呼んでくれたんじゃないかな」

 劇団東京乾電池の座長を務め、98年の映画「カンゾー先生」で報知映画賞、日本アカデミー賞の主演男優賞など映画賞を総なめにした名優には独自のこだわりがある。「芸者商売ですから、呼ばれてナンボ。お座敷がかからなかったら、失業者です」。映画など、自身の出演作について語るのが苦手で「スクリーンに映っている自分を見るなんて恥ずかしいでしょ。都合よく言わせてもらえば、恥ずかしがらなくちゃいけない。恥ずかしさと闘って、それを超越していくのが役者なんじゃないかな」

 東京・木挽町(現在の中央区銀座)の生まれ。「歌舞伎座の裏あたりです。間借りですから、貧乏でしたよ。両親は映画が大好きで、映画の話題しかない家庭だった。昭和23年の生まれだから、戦後から3年。ハリウッド映画がドドーンと入ってきて、おしゃれな冷蔵庫や洗濯機が出てくる。夢のような世界を見て気分がまぎれたのかな。

子どもの頃は映画が3本立てで50円くらい。映画館に行けば、嫌なことが全部、忘れられた」。その頃に見た夢を今も追い続けている。

 喫茶店が好きで、毎日のように通っている。妻の角替和枝さん(18年死去、享年64)との思い出の場所でもある。「和枝ちゃんと毎日、喫茶店に行きました。夫婦げんかをしていても、小休止して喫茶店に行きました。和枝ちゃんが亡くなっちゃったんでね、今は犬を連れて行きます。休日は喫茶店でコーヒーを飲むか、下高井戸シネマ、シネマヴェーラ渋谷あたりで映画を見てますね。映画館に行くのも大好きなんです」

 長男の佑(39)、次男の時生(36)も役者の道を歩んでいる。「英才教育をしたわけではなく、なりゆきです。佑は中学時代、和枝ちゃんのマネジャーに誘われてオーディションを受けたら、受かっちゃった」。

主演映画「美しい夏キリシマ」(03年)で俳優デビューした佑は「反抗期だったんですけどね。原田芳雄香川照之とか錚々(そうそう)たる役者がいる現場に行って、帰ってきたら、すっかり良い子になっていた。映画界に育ててもらったみたいなものです」

 東京乾電池の後輩である江口のりこ(45)のブレイクを喜んでいる。「彼女の活躍ぶりはうれしいですよ。面白いよね、あいつ。魅力は何だろうな。ぶっきらぼうな人ですよね。インタビューしても、困るでしょ。でも、ウソがないんですよ。調子のいいことを決して言わない。着飾らない。やっぱり、チャーミングだと思いますよ。

そういうところが、画面やスクリーンに映るんでしょうね」

 24年に6本、25年に5本の映画に出演するなど喜寿を迎えても意欲は衰えない。最後の質問で、今後の抱負を尋ねると「先のことは考えたり、考えなかったり。力が入ったり、入らなかったり。そんなに元気でもないしね」。つかみどころのない人だ。ゆったりと穏やかな空気を漂わせながらも、眼光は鋭かった。

 〇…「レンタル・ファミリー」はハリウッド俳優のブレンダン・フレイザー(57)が演じるレンタル・ファミリー社で働く主人公・フィリップが、あらゆる依頼に奮闘する物語。フレイザーと共演シーンが多かった柄本は「心も体も大きい人ですね。とても柔らかくて、普段の姿から平行移動でお芝居にすーっと入ってくる。人間性が素敵でした」と印象を語る。疑似家族を通じて、家族本来の温かみを感じさせる。

 ◆柄本 明 (えもと・あきら)1948年11月3日、東京都生まれ。

77歳。高校卒業後、商社に入社するも、2年で退社。劇団マールイ、自由劇場を経て76年に東京乾電池を結成。主な出演映画は「セーラー服と機関銃」(81年)、「うなぎ」(97年)、「カンゾー先生」(98年)、「ある船頭の話」(2019年)、「ロストケア」(23年)など。5月8日に映画「幕末ヒポクラテスたち」の公開を控える。

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