◆ミラノ・コルティナ五輪 ▽スピードスケート(20日、ミラノ・スピードスケート競技場)

 女子1500メートルが20日に行われ、同種目世界記録保持者で2大会連続銀メダルの高木美帆(31)=TOKIOインカラミ=は1分54秒86で6位にとどまり、3大会連続の入賞もメダル獲得はならなかった。今大会ラストとなった4種目、6レース目。

金メダル獲得を目指した本命種目で課題のラスト1周を克服できず。悲願の頂点までは0秒77届かなかった。アントワネット・ライプマデヨング(オランダ)が1分54秒09で優勝した。

 男子で14年ソチ、18年平昌五輪代表のウイリアムソン師円氏(30)は、高木を中心した「チーム・ゴールド」のコーチとして挑戦を支えてきた。選手時代から近くで見てきた高木の柔軟な姿勢や、スケート靴のブレード(刃)の試行錯誤の背景にあった1500メートルへの思いの強さを語った。

 師円氏は23年3月、高木やデビット・コーチから打診を受け、テクニカルコーチとして加わった。当初は兼業だったが、昨季を前に「これだけの選手に中途半端なサポートはできない」と山形・蔵王温泉の老舗旅館を退職。ミラノまで全力で支える決意を伝えた。

 1歳上の高木は取り組む種目が共通し、現役時代からトレーニングや食事など意見を交わす機会が多かった。コーチとして情報を提供する側に回ると「取り入れるべきものと排除するべきものは自分で判断が付くから。思い切って話して」と促された。スキージャンプの指導者にビー玉を敷き詰めて木の板を置き、真上に乗って体の軸を作る練習法を聞いて伝えると、すぐに材料を集めて実行する柔軟な姿勢で接してくれた。

 用具に対しても変化を恐れなかった。高木は北京五輪後、スケート靴のブレード(刃)を10年以上愛用する「ナガノスプリント」から世界で主流となった「アイコン」に変えたが、適応に苦しんだ。師円氏も全く同じ過程を踏み、元に戻した経験があった。当時の感覚を正直に伝え、高木も今季から戻す決断を下した。

 師円氏の分析によれば、アイコンは「勝手に氷を捉えてくれる」。常に80~90%の出力で滑れる利点があるが力の制御が難しく、スピードを持った高木は1500メートルで想定以上に体力を奪い取られ、終盤に脚が持たない課題を抱えていた。そのデメリットは距離が短い1000メートルでは薄く、昨季の世界距離別選手権で優勝。現状維持なら五輪で2連覇した可能性は「かなり高かった」とみていた。

 だが、こだわったのは1500メートルだ。ナガノスプリントは繊細な技術が必要だが、50%以下から最大出力の100%まで力の出し入れができる。壁を破れる可能性に懸けたブレードに限らず「美帆さんは1500メートルで金メダルを取るための選択をずっとしていた」。1500メートルの頂点だけを見据えた選択は最後までぶれなかった。

(林 直史)

 ◆ウイリアムソン師円(ういりあむそん・しえん)1995年4月28日、北海道・浦河町生まれ。30歳。山形中央高3年時の14年ソチ五輪に初出場。卒業後は日本電産サンキョーに進み、18年平昌五輪は3種目に出場。男子団体追い抜きで20年世界距離別選手権銀メダル。全日本選手権は14年から総合3連覇。北京五輪代表を逃し、22年3月に現役引退。師円の名は西部劇映画「シェーン」に由来。

編集部おすすめ