◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 2020年2月、巨人2軍のキャンプ地・宮崎ひむかスタジアムには緊張感が漂っていた。前年で現役を引退し、指揮官として再出発した阿部慎之助2軍監督。

その一挙手一投足が注目されていた。ある日、報道陣にピリリとした空気が走った。

 「監督がカメラマン全員に話があるので集まってほしいと言っている」。広報からの突然の招集。「誰か何かやらかして怒らせたか」。不安そうに待つ我々の前に現れた阿部監督の口から出たのは、予想外の要望だった。「このキャンプ中、俺は選手に相当過酷なメニューを課すから、その練習する姿を俺に遠慮なく間近で激写してくれ」

 通常は練習の妨げにならないよう設けられている、取材規制を撤廃。にじみ出る汗や涙が分かる至近距離での撮影を求めた。意図は明確だった。注目されることで限界を引き出し、その姿が紙面に載ることで自覚とやる気を刺激する。まさに阿部流の演出。倒れ込んだ選手には必ず歩み寄って声をかけた。

「今の苦しみが明日の飯の糧になる。自分のためにやるんだ」。ファインダー越しの若手の表情には、苦しさの中にも確かな充実感が宿っていた。

 今季、高卒2年目で1軍キャンプに参加した石塚裕惺が阿部流の洗礼を受けた。大股開きで構えて地面すれすれの低い球を打つ、地獄のメニュー「強化ティー打撃」。絶叫して倒れ込む姿を夢中で連写した。「すごくありがたい」と感謝する若き大砲候補へ、指揮官は「強化じゃないよ、サラン(韓国語で愛)だよ」と笑顔で語った。厳しさという名の愛情が巨人の伝統として、若き才能に受け継がれていく姿を見守りたい。(写真担当・上村 尚平)

 ◆上村 尚平(かみむら・しょうへい) 1989年入社、第1回WBCやアテネ五輪を取材。宮崎キャンプは長嶋監督の時代から15回。

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