◆プロボクシング ▽WBC世界バンタム級(53・5キロ以下)挑戦者決定戦12回戦 〇同級2位・那須川天心―同級1位・フアンフランシスコ・エストラダ●(11日、東京・両国国技館)

 WBC世界バンタム級挑戦者決定戦で、同級2位の那須川天心(27)=帝拳=が元世界2階級制覇王者で同級1位のフアンフランシスコ・エストラダ(35)=メキシコ=を下した。昨年11月24日にWBC同級王座決定戦で井上拓真(30)=大橋=に判定負けして以来5か月ぶりの再起戦を勝利で飾り、WBC王者への挑戦権を手にした。

第9ラウンド終了後、相手陣営が棄権を申し入れてTKO勝利となった。白星を手にした天心は、重圧から解き放たれたのか、関係者にねぎらわれると涙を流して喜んだ。

 リング上のインタビューでは「泣いてないよ」と笑顔で否定しつつ「皆さん、本当にありがとうございました。勝つって、こんなうれしいんですね」としみじみ。再起への道に触れると「初めて自分を信じられないことがけっこうあって…」と涙声になり「皆さんに支えられて勝つことができました。ありがとうございました」と感謝した。

 「崖っぷち」に立たされた天心が、ついに覚醒した。「強いやつとやって乗り越えるのが自分」との言葉通り元2階級制覇王者を下し、再び世界への挑戦権を手にした。

 拓真戦で格闘キャリア公式戦55戦目で初の敗北を喫し、徹底的に打ちひしがれた。「メンタルが病んでどうしようもない時もあった」。自分自身の気持ちと向き合う日々。自身に対して「なめんじゃねぇよ」「こんなもんじゃねぇよ」と怒りの感情が芽生えた。

拓真戦の映像も、何度も見返した。「自分自身に勝ちたい。もう自分には負けたくない」と覚悟を固めた。

 ボクシング転向後「こうじゃなきゃいけないという枠の中にいた」と感じ、ボクシングを「枠の外」から見つめ直した。昨年12月、ドジャース・山本由伸投手(27)と約2週間、合同トレーニングを行った。誕生日がわずか1日違いの山本とともに汗を流し、「ずっと高みを目指している」姿に刺激を受けた。投球動作の体重移動を、ボクシングのパンチにも応用した。

 原点回帰も図った。昨年末から、キック時代にボクシングを教わっていた元帝拳ジム・トレーナーのGLOVESジム・葛西裕一会長(56)とのコンビを再結成。拓真戦で課題が浮き彫りになった接近戦での打ち合いに取り組んだ。ガードを高く掲げ、先手で打ち込む「ハイガード・プレス」や、超至近距離でのショートパンチ「10センチの爆弾」も習得した。週に一度は、古巣であるTEPPENジムの父・弘幸会長(56)のもとにも足を運んだ。

「これで負けるなら納得できる、と思えるまでやり切りたい」と貪欲に進化を追求した。

 すべては、拓真に借りを返すためだ。「やり返さないと気が済まない。前回の試合で預けたものは大きい。しっかり返してもらわないと」。拓真は5月2日に東京ドームで井岡一翔(37)=志成=との初防衛戦を控える。天心は勝者への挑戦権を得たが、ターゲットが拓真との再戦であることは揺るがない。「人生の岐路」と位置づけた勝負で、一度は負けた自分自身への借りは返した。生まれ変わった“神童”が、逆襲の狼煙(のろし)を上げた。

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