四月大歌舞伎 初役「八重垣姫」

 中村時蔵(38)が、2024年の6代目襲名以来、大役の数々で高い評価を受け、正統派女形の地位を確立している。今月の歌舞伎座「四月大歌舞伎」(27日千秋楽)の「本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)十種香」では八重垣姫を初役で勤め、時姫、雪姫と並ぶ「三姫」を制覇した。

自身の使命を「先人たちが残した芸を受け継ぎ、次世代に渡す。奇をてらったことはしない」と語り、古典の王道を歩む決意を示した。(有野 博幸)

 前名の梅枝(ばいし)時代は役者仲間から「ばいちゃん」の愛称で親しまれていたが、現在は「とっきー」や「とってぃー」と呼ばれている時蔵。哀愁を漂わせながら恋心を募らせる八重垣姫を優美に演じ、観客を魅了している。

 八重垣姫が決まった時は「いよいよ来たかと思った」。2024年の襲名披露でも父の中村萬壽(70)から打診されており、満を持しての初役だ。歌舞伎の女形は耐え忍ぶ役柄が多いが、八重垣姫は恋心を隠さない。竹本に合わせてのクドキ(女性が心の内を語る場面)、柱巻き(柱に手足を巻き付ける演出)など、見せ場も豊富だ。

 「恋人の絵を見て、恋に恋する女性。歌舞伎のお姫さまの中でもダントツで難役だと思います」。それでも「謙信が出てくるまで(40分ほど)、八重垣姫、濡衣、勝頼の3人だけ。裏に事情を抱えて複雑に絡み合うストーリー。

クオリティーを突き詰めないといけない」と意欲的だ。

 配役では「濡衣役は中村七之助の兄さんにお願いしたい」と熱望した。「濡衣が狂言回し的な役割なので、腕のある方がやらないと、面白くならない。七之助の兄さんはずっと背中を追って尊敬している女形の先輩。『出るよ』と言っていただき、本当にありがたいです」

 「鎌倉三代記」の時姫、「祇園祭礼信仰記」の雪姫に続き、八重垣姫を勤めたことで歌舞伎の女形の大役とされる「三姫」を制覇した。「それは全く意識していません。ビンゴじゃないですから」と冷静だ。「三姫を制覇というより、それぞれ大役を任せていただいているということ。僕の役割は先人たちが残してくれた芸を受け継ぎ、次世代に渡すことですから」と力を込めた。

 八重垣姫は父の萬壽から教わった。「父が成駒屋のおじさま(6代目中村歌右衛門)、神谷町のおじさま(7代目中村芝翫)から教わったことを稽古で聞きました。父が元気でいてくれることが、非常に大きいですね。

いついかなる時でも軽いテンションで質問ができる。勝頼役で出てくれて、隣にいてくれるのも心強いです」と感謝している。

 6代目襲名から約2年。「明らかに大役を任されることが増えた」と実感している。その上で「女形一本で必要とされる役者でありたい。目指す役は『菅原伝授手習鑑』の戸浪や千代。最終的には『鏡山旧錦絵』の中老尾上、『伽羅先代萩』の政岡のような片はずし(位の高い武家の女性)です。まだまだ道のりは長いなと痛感しています」。しっかり地に足をつけ、発する言葉は力強く頼もしい。

 〇…古典に軸足を置きながら、近年は新作にも挑戦している。24~25年の「朧の森に棲む鬼」ではツナ将軍を感情むき出しに熱演。「新たな一面」と注目されたが、「いつも、あれくらいの感情を内包してますよ。

むしろ表面に出した方がやりやすい。あからさまに出さず、にじませるのが歌舞伎なんです」と涼しい顔だ。スーパー歌舞伎「もののけ姫」(7月3日~8月23日、新橋演舞場)では、エボシ御前役。「古典の畑にいる役者が、新作に出る意味がある」と話している。

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