馬トク報知で過去の名勝負を当時の記事から振り返る【競走伝】。今回はイズジョーノキセキが勝った2022年の府中牝馬Sを取り上げる。

大人気だった白毛のソダシを差し切ったのは単勝12番人気の超伏兵だった。

 好プレーが光った。イズジョーノキセキが後方の内に控えて迎えた直線。岩田康の目の前には単勝1・8倍と圧倒的な支持を集めるソダシがいた。白毛のアイドルが進路を探して内に切り込んでくると、その後ろを迷わず確保。ライバルが内のアンドヴァラナウトとの競り合いで後続を引き離し、外にスペースができるとゴーサインを送る。上がり3ハロン33秒3の末脚で、悲鳴にも似た歓声を切り裂き、12番人気の伏兵が大本命馬をねじ伏せた。

 「ソダシについていけば道が開けると思った。この馬の末脚だから勝てた」。そう振り返る岩田康は地方・兵庫時代の自身の勝負服と同じ「白、青襷(たすき)」の勝負服を身につけていた。泉一郎オーナーとは兵庫時代からの厚い絆でつながる縁。「JRAの騎手試験に合格した06年の冬に夫婦であいさつに来たんです。

『お祝いは何にしよう』と聞くと、『お願いがあります。この勝負服をなくしたくないんで、できれば勝負服を替えてくれませんか』と。二つ返事でOKしました。2人とも園田から中央に移った馬主とジョッキー。いつか2人で重賞を取ろうな、とスタートしたんです」と泉オーナーはのちにスポーツ報知のインタビューで語っている。16年越しの約束がようやくかなった瞬間。二人は抱き合い、極上の喜びを分かち合った。

 イズジョーノキセキにとってはキャリア21戦目で手にしたタイトル。同年6月の垂水Sでオープンに上がったばかりだが、陣営は最大目標のエリザベス女王杯・G1に向け始動戦にここを選んだ。石坂調教師は「早くからこのローテと思っていた。馬体面、精神的にも成長してくれた。うちのスタッフなら取れると思っていた」とチームで手にした勲章を喜んだ。

 その後、優先出走権を手にしたエリザベス女王杯に2年連続の参戦(前年は5着)。しかし、馬上に岩田康はいなかった。その2週前に騎乗停止となったからだ。ルメールとの新コンビで参戦したが10着。続く有馬記念では岩田康との再コンビで4着と好走した。翌年も現役を続行したが、ラストランとなったチャレンジCの3着が最高。結果的に唯一の重賞勝利となった府中牝馬Sは、一世一代の大駆けと言えるだろう。

編集部おすすめ