「世界に冠たる即席ラーメンの発売三十周年を記念して日本即席食品工業協会が、ラーメンを題材にした短歌や俳句、川柳、広告コピーを募集したところ、愛好家から7月までに計一万点の作品が寄せられた。十一月初めの発表日はすぎた。
1988年の秋、日本は重々しい空気に覆われていた。同年9月から昭和天皇の体調悪化が報じられ、記念行事や派手なイベントごとが軒並みキャンセル、または縮小された。強制力を伴わない、いわゆる“自粛”である。プロ野球ではリーグ優勝した中日ドラゴンズと西武ライオンズが恒例となっていたビールかけを取りやめ、お昼の人気バラエティ番組『笑っていいとも!』(フジテレビ系)からはオープニングの「ウキウキウォッチング」の歌唱が消えた。あるケーキ店では年末の生産計画を前年比で2割程度減らしたしたという。前出の『朝日新聞』によれば日本即席食品工業協会は同年11月、池袋サンシャインシティで「メンピック‘88」と題したPRイベントを予定していたが、9月の時点でそうそうにイベントの無期延期を決定。集まった川柳や俳句がどうなったのかは定かではない。
時はバブル経済真っただ中。多くの日本企業から高価格・高機能・高付加価値の新製品が続々と投入され、潤沢な広告宣伝費がそれらを後押しした。
ところが放映開始から間もなくして、CMは同じような設定の別バージョンに差し替えられてしまう。新しいCMは明らかに合成で制作されており、工藤さんのセリフもカット、出演もわずか3秒ほどになってしまった。真相は定かではないが、前バージョンの「その日が来ました」というセリフがいわゆる“Xデー”を連想させるとして差し替えの判断が下ったとの噂が、まことしやかに囁かれた。現代から振り返れば過剰反応にも映るが、同時期には日産自動車が「セフィーロ」のCMから井上陽水の「みなさんお元気ですか?」というセリフを無音に差し替え、トヨタ自動車は「カリーナ」のCMからキャッチコピーの「生きる歓び」を削除していた。多くの企業は広告宣伝そのものを自粛し、広告業界では“菊冷え”なる隠語も生まれた。
「V.I.P.チョコレート」のCM差し替えから数週間後、時代は昭和から平成へ移り変わった。
【岸田林(きしだ・りん)】









![日清食品 ラーメン山岡家 醤油ラーメン [濃厚豚骨スープの旨みが広がる] カップ麺 117g ×12個](https://m.media-amazon.com/images/I/51YlvYcaKyL._SL500_.jpg)

