かどや製油は5月29日、ウェブで決算説明会を開いた。北川淳一社長は冒頭、公正取引委員会が5月14日、独占禁止法の規定に基づき、同社に対して行った排除措置命令と課徴金納付命令について、「業務用ごま油と食品ごまの一部取引に対し、独禁法の疑いで2024年3月に公取から立ち入り検査を受け、調査に全面的に協力してきた。
その結果、今回の命令を受けるに至った」と経緯を振り返った。

その上で、「命令の根拠となる事実認定などについて見解の相違があることから、東京地方裁判所に対して本命令の取り消しを求める訴訟を提訴した。今後は司法の場で当社の考えを説明し、公正な判断を求めていく」と説明した。

北川社長は新体制による取り組み方針について説明した。「当社は167年にわたり小豆島でごま油の製造を続けており、日本と米国のごま油市場でトップシェアを持っている。しょうゆが世界で広がったように、当社のごま油が世界中の食卓に並んでいる未来を実現したい」と展望を語った。

仮に日米両市場で5,000万人が週に2回、小さじ1杯分5gのごま油を新たに利用することになると、年間で2万6,000tの需要を新たに創出できるという。前期の同社のごま油の販売数量は2万8,000tとほぼ同量だったことから、その新たな需要創出によって、「単純計算で営業利益は26億円増加する」と説明した。

◆米国に拠点設立検討、メインストリーム市場掘り起こす、食品用素材で搾りかす事業化



同社は4月1日付で組織体制を見直し、ファンベース経営の推進を担うブランドマーケティング部を社長直轄組織として新設した。同時にごまの価値を極限まで高めていくための研究開発本部も新設した。米国市場の成長を加速させるため、今年度中を目途に米国での拠点設立も検討しているという。

ごま油の新しい需要を創設するため、飲食店にごま油を置いてもらう取り組みを働きかけていく考えだ。
「例えば居酒屋でピザにごま油ラー油をかける、鶏のから揚げにごま油をかけて味変してもらうなど、新たな需要創造に取り組む。ごま油は中華料理や韓国料理と相性がいいが、洋食にも合うような全く新しい風味のごま油の開発にも取り組んでいく」と構想を語った。

前期のごま油の海外売上高は86億円だった。海外比率は2007年の12%から直近では29%まで拡大しており、輸出先の9割近くが米国となる。「主戦場はオリエンタル市場(アジア系)が中心だが、今後はその15倍の規模があるメインストリーム市場(非アジア系)の需要を掘り起こす」と力を込めた。

ウォルマートやホールフーズといったメインストリーム市場にも、アジア食材棚には同社の商品も並んでいるが、本格的なアクセスはできていないという。「出張ベースだけでは需要を創造していくには距離的な制約がある。設立する拠点はメインストリームの開拓が役割となる」と説明した。

ごまは収穫時に実がはじける性質があるため手収穫が必要だ。そのため人件費が安価なアフリカでの生産に依存しており、地政学リスクも高く、在庫は厚めに保有する必要がある。一方、近年は収穫時に実が弾けない種子を用いた機械収穫によるごま栽培が南米で拡大しており、現在40万t規模の生産量に達しているという。「南米からの安定スキームを構築し、原料在庫期間の短縮などに取り組む」とした。


関税の影響について、米国におけるごま油のシェアは日本以外にメキシコ、台湾、インド、中国などで構成されており、メキシコを除いて各国一律10%の関税がかかっているという。「メキシコ企業が有利な状況にあるが、当社の商品はプレミアムゾーンでメキシコ製のごま油とは異なり、直接的なバッティングはない。足元では関税の著しい影響はない」とした。

同社は年間2万8,000tのごま油を製造している。ごまの種子の油分は50%のため、ほぼ同量の搾りかすが副産物で発生している。飼料などとして販売しているが、「搾りかすには良質なたん白質が約4割含まれ、強い抗酸化作用のあるセサミノール配糖体、豊かな香味があり、食品用素材としてポテンシャルが高い」と強調する。3月に脱脂ごまを使ったグラノーラを1袋200g、1,500円で販売したが、好評でほぼ完売したという。新本部を設立し、食品用素材として搾りかすの事業化を進めていく考えだ。

〈大豆油糧日報 6月2日付〉
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