吉野家ホールディングスは、2025年5月27日付で代表取締役の異動を実施し、成瀨哲也取締役アジア統括本部本部長が代表取締役社長に就任した。事業環境の変化に迅速に対応し、グループの中長期的な成長と企業価値の向上を図るねらい。


成瀨社長は、大学在学中に吉野家でアルバイトを始め、1988年6月に吉野家ホールディングスへ入社。2007年10月に同社執行役員兼カレーうどん専門店「千吉」社長、2012年9月にはなまる社長、2021年1月に吉野家(中国)投資有限公司董事長(現任)、2023年3月に吉野家ホールディングス取締役アジア統括本部長(現任)を歴任し、現在に至る。

海外事業の責任者を務めてきた経験から、中国・東南アジアのマーケットや現地の食文化、味付けに精通しており、「昨今増えているインバウンド客に向けたメニューの開発など、お客様に喜んでいただけるような新しいことへ挑戦していく」と自信を見せる。
吉野家HD成瀨新社長、海外経験を生かした事業変革へ/麺メニューや店舗改革で新たな客層を獲得
吉野家HD、成瀨哲也社長
吉野家HD、成瀨哲也社長

〈ラーメン事業を第3の柱に〉


吉野家ホールディングスは5月19日、2029年度を最終年度とする「グループ中期経営計画」を策定。その中で、30年2月期に売上高3000億円(25年2月期2049億円)、営業利益150億円(同73億円)を目標に掲げた。「『変身』と『成長』」をテーマに、既存事業の変革(変身)と新たなドライバーの成長を基本方針としている。

攻めの戦略では、牛丼・うどんに次ぐ第3の柱として、ラーメン事業に注力する。29年度には、24年度の約5倍となる売上高400億円をめざし、既存ブランドの積極出店とマルチブランドM&A戦略を推し進める。

既に24年4月には、ラーメン店向けの麺・スープ・タレ等の開発・製造・販売を行う『宝産業』を子会社化した。これにより、27年には現行比で製造能力150%、保管能力200%を見込んでいる。海外向けのハラルスープ対応化や欧州スープ製造拠点の拡大など、グローバル需要への対応をすすめるという。

〈客数増へ向けた取り組み〉


2025年、牛丼チェーン「吉野家」は創業125周年を迎えた。「客数はお客様からの支持のバロメーターと捉え、トッププライオリティとしている」(成瀨社長)とし、客層を広げることで客数を増やすため、店舗での体験価値を進化させる取り組みを進める。

客層の拡大を目的に展開する「クッキング&コンフォート」型店舗は、25年5月末時点で吉野家全店1200店舗のうち463店舗に達した。
黒色の看板が目印で、レジで注文・会計の後、完成した商品を受け取り、席まで自分で運んでもらうセルフ方式としている。開放感のある客席やドリンクバーの設置により、女性やファミリー層の利用が増えているという。
吉野家HD成瀨新社長、海外経験を生かした事業変革へ/麺メニューや店舗改革で新たな客層を獲得
吉野家「クッキング&コンフォート」型店舗・内装イメージ
吉野家「クッキング&コンフォート」型店舗・内装イメージ
また、グループシナジーを生かした『吉野家×はなまるうどん』のコラボ店舗のほか、2023年2月には牛かるび丼・スンドゥブ専門店『かるびのとりこ』、24年12月には唐揚げ専門店『でいから』、ビーフカレー専門店『もう~とりこ』といった新業態を拡大し、量的な成長も図っている。『かるびのとりこ』と『もう~とりこ』では牛肉を、『でいから』では鶏肉を使用し、いずれも吉野家の食材を一部活用。業態ごとに独自の調理技術を編み出している。
吉野家HD成瀨新社長、海外経験を生かした事業変革へ/麺メニューや店舗改革で新たな客層を獲得
吉野家HD新業態の3店
吉野家HD新業態の3店

〈創業125周年を機に吉野家初の麺メニュー発売〉


さらに、2025年7月4日には、中期経営計画の『変身』をテーマに、吉野家初の麺メニュー「牛玉スタミナまぜそば」(店内税込767円、テイクアウト税込753円)を発売した。8月末までの夏季限定メニューで、期間中に200万食の販売をめざす。
吉野家HD成瀨新社長、海外経験を生かした事業変革へ/麺メニューや店舗改革で新たな客層を獲得
吉野家「牛玉スタミナまぜそば」
吉野家「牛玉スタミナまぜそば」
外国人観光客にも人気があることから、麺料理を採用したという。成瀨社長は「多様化するお客様のニーズ、そして混ぜる前後で見た目や味わいが変化する『まぜそば』が、今回の『変身』というテーマに合致していると考えた」と語る。

商品開発には約半年を要し、同品のために開発した特製たれの調整と麺の品質に苦労したという。特製たれは、味の濃さや粘度にこだわり、さっぱりとしながらコクのある、毎日食べても飽きない味に仕上げた。また、つるつる・もちもちとした食感の麺を提供できるよう、麺の品質にこだわっている。
今回、初めて吉野家の店舗で麺を調理するため、現場とともに調理工程の試行錯誤を繰り返したという。

成瀨社長は「インバウンドや女性、ファミリーなど、新たな客層の獲得に向けて、今後とも『挑戦』をキーワードに、商品開発を進める」と意気込む。
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