酒類業界全体の課題とされる「若年層のお酒離れ」。各社がさまざまな商品開発やプロモーションで需要喚起を図る中、若年層を中心に幅広く支持される総合ディスカウントストア「ドン・キホーテ」は、プライベートブランド(PB)から「ビールを飲むきっかけ」を創出している。
昨夏にはオリジナルブランド「情熱価格」からクラフトビール4種を発売。「IPA」「ヘーフェヴァイツェン」「ペールエール」「スタウト」と、その日の気分や嗜好で選べる幅広いスタイルと本格的な味わいを200円台の手頃な価格で提供し、市場の話題をさらった。

クラフトビール4種「IPA」「ヘーフェヴァイツェン」「ペールエール」「スタウト」
さらに今年6月には、日本で最も馴染み深いスタイルの「情熱価格 ラガービール」を発売。「ドンキ」らしい攻めのアプローチに加え、ドイツ産ホップやフランス産モルトを使った本格的な味わいでありながら、税込164円の「旨くて安い」を実現し、大きな反響を呼んでいる。同チェーンを展開するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の開発担当者井上遼太氏に取材した。
「きっかけは、商談時に試飲サンプルとして提供された無地のシルバー缶やベトナムのスーパー視察で見かけた簡易フィルム包装ビールとの出会いでした」と井上氏は振り返る。今春には国内ビールメーカーが出荷価格を値上げ。生活必需品も高騰する中、「美味しいビールを安く提供したい」という理念の実現に向けて画策し、価格と品質のバランスを実現できる生産拠点をベトナムに見出した。
「ラガービール」はフィルムパックの採用やモノクロ印刷によるパッケージの簡素化でコストを大幅に抑制。大規模なプロモーションが不要なPBの強みを活かし、圧倒的な価格競争力を実現した。

情熱価格 ラガービール 330ml
味わい設計においても妥協はない。東南アジアビールは全体にすっきりしたのど越しのスタイルが多いが、日本市場では飲みごたえも求められる。
そこで、アルコール度数を6%に設定することで、満足感あるビールに仕上げた。
品質面においても、社内の品質改善課による監査やISO規格の確認を徹底し、信頼性も担保している。
クラフトビールでは、「今日はドのビール?」と統一化されたパッケージデザインを導入し、飲み比べ需要の獲得にも成功。他社小売業には見られない多品種展開を進め、クラフトビール市場に新風を吹き込んでいる。
昨年発売したクラフトビールの販売数量は、年間4万ケース。6月に投入したラガーも初動から好調なスタートを切った。年内販売数量は15万ケース、クラフトと合わせて19.5万ケースを見込む。
年内には「ラガービール」に500ml缶を拡充し、クラフトビールのラインナップにも「ヘイジーIPA」と「パッションフルーツラガー」が加わる予定。来年以降も市場動向を見ながら、さらなるポートフォリオの拡大を進める方針だ。

発売予定「情熱価格クラフトビール」HAZYIPA / PASSIONFRUIT
今後も、若年層をターゲットに新規需要の創造に取り組むという同社。国内外のさまざまな酒類メーカーとの協業も模索しており、「国内市場には存在しないような味わい設計のRTD」の開発も検討しているというから楽しみだ。さらに近年成長が著しいテキーラでも「手に取りやすい商品の輸入開発を検討し、市場拡大に貢献したい」という。
若年層からの支持も高く、購買体験を楽しむ場として親しまれているドン・キホーテが、PB酒類で仕掛ける挑戦。価格競争力を超えたその斬新なアプローチが、酒類業界や飲酒文化の活性化に寄与することを期待したい。
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