うどん専門店「丸亀製麺」などを展開するトリドールHDが、新たな経営方針として、人の心を起点とした「心的資本経営」を進めている。
来店客の満足度と従業員の幸福度をスコア化し、店舗の売上増につなげる取り組み。
従来の店長制度を見直し、業務内容や報酬体系も変更する。店長の年収は、これまでの500万円前後から、成果に応じて最大2000万円まで引き上げるという。

従前の「人的資本経営」とトリドールの「心的資本経営」
〈粟田社長「感動体験は人にしか生み出せない」〉
トリドールHDの創業者である粟田貴也代表取締役社長兼CEOは、9月17日に開催したメディア説明会で「心的資本経営」の導入背景や実績について説明した。
近年の外食業界では、コロナ禍を経て、慢性的な人手不足や物価高を背景に機械化・省人化が加速している。そういったなか、トリドールの経営理念である「食の感動体験」の実現には、働く人の心が重要だという。粟田社長は「感動体験は人が生み出すものであって、機械にはできない。そのため我々は、時代に逆行して独自の道を歩んでいきたい」とした。

焼き鳥店「トリドール三番館」の看板
2025年で創業40周年を迎えたトリドールHDは、兵庫県の加古川で粟田社長が夫婦で始めた焼き鳥店「トリドール三番館」が始まり。その後、香川の製麺所を訪れた際に感銘を受け、2000年から「丸亀製麺」の展開を開始した。
「焼き鳥店の出店を進める中で、自分の店の強み・決定的な差別化を見つけられずにいた。そんな折、香川県の製麺所の行列を見たときに、大きなヒントを得た」(粟田社長)。
それまでは、商品を売ることが飲食業だと思っていたが、製麺所にて客の目の前で作られるうどんを見て、体験することに価値があると気が付いた。当時、そういった体験価値を提供する飲食店が少なかったこともあり、製麺所の体験を共有する業態として、丸亀製麺の創業に至ったという。
〈顧客と従業員の満足度を可視化〉
今回スタートした「心的資本経営」に話を戻すと、従業員が幸せになることでモチベーションが上がり、それが来店客の店舗体験や売上の向上につながる。そのような好循環を生み出すことが狙いだ。トリドールHDは「ハピネス」と「感動」を組み合わせた独自の造語“ハピカン繁盛サイクル”を掲げている。

トリドールHD 粟田貴也代表取締役社長兼CEO

トリドールのハピネスモデル
「心的資本経営」のベースとなるのは、来店客の感想を吸い上げる「丸亀感動スコア」と、従業員の満足度の指標「丸亀ハピネススコア」。それぞれ、2024年4月と2025年7月に丸亀製麺の全店で導入済み。
来店客の満足度を計る「丸亀感動スコア」は、レシートのQRコードなどからアンケート形式で感想を受け付けており、毎月全店で計16万件ほど寄せられるという。

トリドールHD「丸亀感動スコア」
従業員の幸福実感を計る「丸亀ハピネススコア」は、音声対話型AIを活用した測定システム。こちらはアンケート形式だと従業員の本音を引き出しにくいとのことで、ヒット商品「丸亀うどーなつ」のキャラクターを使った対話形式をとった。外国籍人材も増えているため、ベトナム語やミャンマー語などにも対応している。対象とする3万人の従業員のうち、1万人以上の実証が完了したという。

トリドールHD「丸亀ハピネススコア」
これら取り組みにより、お褒め件数は前年比24.5%増、離職率は同12.9%減となった。2025年3月期連結業績の売上収益は2682億円で、全セグメント過去最高を記録。粟田社長は「少しずつ心的資本経営(=ハピカン経営)の効果が見えてきた」と自信を見せる。
〈従来の店長制度から「ハピカンオフィサー制度」へ〉
あわせて、従来の店長制度に代わる「ハピカンオフィサー制度」を導入する。店長は従業員のエンゲージメントや店舗体験の向上に注力し、これまで店長の業務で多くを占めていた管理業務は、1年ほど前に新たな役職として設けた副店長へ移管する形だ。
報酬制度も抜本的に見直す。ハピカンオフィサーは店舗での“ハピカン繁盛サイクル”の実践レベルに応じて報酬が変動し、4つの階層の最上位である「グレートハピカンキャプテン」は最大で年収2,000万円とした。この「グレートハピカンキャプテン」は3年で10人の輩出を目指すという。

ハピカンキャプテンの階層
〈子育て世帯を対象とした新たな福利厚生「家族食堂制度」も〉
また、2025年12月から「丸亀製麺」「天ぷらまきの」「焼き鳥とりどーる」「長田本庄軒」「とんかつ とん一」の店舗で働く従業員を対象に、「家族食堂制度」を開始する。15歳以下の家族が、所属するブランドの全国の店舗で、いつでも無償で食事を楽しめるというもの。今後、上記以外のブランドへの展開も視野に入れている。
粟田社長は「いま既存店の売上がかなり伸びており、このハピカン経営が少しづつ形になっているのではと感じている。報酬制度の見直しや家族食堂制度などで還元してきたい」「心的資本経営は、単なるフィロソフィー(哲学)で終わらせるのではなく、わが社の成長エンジンにしていく」と意気込んだ。

トリドールHD 粟田貴也代表取締役社長兼CEO

トリドールHD「心的資本経営」
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