三菱食品は母体である菱食の前身、北洋商会が1925年に設立されてから2025年3月に100周年を迎えた。その節目の年に、TOBにより三菱商事の完全子会社となり、次の100年へ向けた101年目のスタートを切る。
4月1日付で社長に就任し、新たな舵取り役となる伊藤和男新社長に同社の現在と未来について話を聞いた。

――新社長就任にあたっての率直な感想と抱負を


当社は生活者の暮らしに直結する食品流通を担い、多くの取引先や社会からの信頼の上に成り立っている企業です。一方で食品流通業界は、現在あらゆる意味で転換期にあり、事業環境は非常に激しく変化しています。そうした中での社長就任であり、非常に気が引き締まる思いです。

また、三菱食品は2025年に三菱商事によるTOBを受け、親会社との新しい体制となりました。この新体制で当社がどう変わるのか、皆様から強い関心と期待を寄せられていると感じており、その責任の重さに強い覚悟を持って臨みます。

ちょうど設立100周年を経て101年目という節目でもあり、次の100年も世の中に必要とされる企業であり続けるよう、努力を重ねていきたい思いです。

――新社長として変えたい部分はありますか


京谷裕社長のもとで策定した経営計画「MS Vision 2030」がありますが、私も親会社の立場でこの計画策定に直接かかわってきた経緯があり、これを大きく変えることはありません。ただし、計画始動から数年が経過し、策定当時には想定していなかった環境変化も起きています。舵取りを任された今、進捗を精査し、うまく機能している部分はさらに強化し、必要に応じて修正や調整を加えることで、2030年の目標に向けて最適化を図っていきます。

――過去5年ほどの貴社の状況と課題について


業績面を見ても分かる通り、着実に収益力を高めてきました。採算性向上などにより24年度まで4期連続で過去最高益を更新し、今期も第3四半期まで堅調に推移しています。これは、三菱食品ならではの機能を磨き上げた結果、その価値が認められてきた証左だと捉えています。今後は、これまでの自社機能に加え、三菱商事グループが持つ多様な機能をより効果的に融合させていきます。社内外の機能を顧客ニーズに合わせて有機的に組み合わせることで、一層頼りにされる存在を目指します。


一方で、顧客であるリテール側の動きが非常にダイナミックになっていることが、今の大きな環境変化の1つです。現在の課題は、そうした顧客が荒波の中でも成長を続けられるよう、我々がどう寄り添い、サポートできるかということです。顧客のニーズを深掘りするだけでなく、先回りして課題を予測し、解決策を提示する力が求められています。既存の取引先をしっかりと守り抜くことはもちろん、再編が進む業界内で誰とどのように歩んでいくかも重要になってくるのではないでしょうか。

――三菱商事の完全子会社化での意義やメリットは


上場を維持していた頃は、少数株主への配慮や手続きに多くの経営資源を割く必要がありました。完全子会社化により、親会社と戦略が完全に一致した状態で、激しい環境変化に応じた迅速な意思決定が可能になります。また、これまでは三菱商事の海外拠点などとの連携において、独立した上場企業同士としての遠慮や敷居が少なからず存在しましたが、それがなくなります。経営資源をより弾力的に活用し、スピーディーに協業できることが最大の価値だと思います。

――物価高が続く中での需要喚起策や、商品戦略について


インフレ下で消費が簡素化され、食の楽しみが損なわれるリスクがありますが、我々は逆にそこを活性化させる役割を担いたいと思います。品揃えを絞り込むのは合理的かもしれませんが、それでは市場の息が詰まってしまいます。厳しい時代だからこそ、新商材や新企画を積極的に導入し、消費者の多様なニーズに応える必要があります。データの分析を通じて「売るべき商品」を開発し、売り方そのものも提案していく。卸としての品揃えに加え、オリジナル商品の開発や、惣菜・中食分野での企画提案も強化し、新たな需要を創出していきます。

――物流面でのビジョン、特にBLP社の役割について


ベスト・ロジスティクス・パートナーズ(BLP)社は、当社の物流事業を分社化した子会社として25年4月に事業を開始しました。これまで通り当社の物流ニーズに応えるだけでなく、物流の専門会社としてよりオープンな展開を期待しており、たとえば、メーカー物流の効率化や、食品以外の異業種領域への運用拡大などが挙げられます。
他業種の物品を扱うことで積載効率を高めることは一つの理想だと思います。 実際に、ドラッグストアとの取引に強みを持つ日用品卸最大手のPALTAC社との協業も進めています。お互いの得意領域を補完し合うことで、全体最適を進めます。こうした取り組みは、仲間が増えれば増えるほど効果獲得は大きくなることから、今後さらに拡大させていきたいと考えています。

――冷凍食品事業の展望と、自社商品の展開について


ライフスタイルの変化に伴い、冷食の利便性とクオリティはますます評価されており、非常に将来有望なカテゴリーだと確信しています。自社商品の開発については、メーカーと真っ向から競合するのではなく、メーカーが手がけない領域や、卸ならではの視点で価値を出せる領域に注力したいと思います。引き続き、この分野への投資と注力は継続していきます。

――海外展開のビジョンについて


海外事業については、三菱商事の経営資源や現地パートナーとの協業を通じ、成長事業領域として力強く成長させます。取引のある約6,500社のメーカーの中には海外を目指す企業も多いため、輸出支援で販路を広げるだけでなく、将来的には現地工場の設立支援など、包括的な海外進出サポートを手がけていくことも視野に入れています。

――持続的な成長を実現するために最も重要なことは


最も大切なのは、三菱商事の完全子会社化によって得られる経営資源を、当社が掲げるパーパスからぶれることなく“実行力”へと転換し続けることです。より具体的には、一過性ではない「絶対的な機能」を持ち、それを顧客ごとに柔軟に組み合わせる力だと思います。そのためには組織としての柔軟性が不可欠になります。特にデジタル活用、データ分析には注力しています。

当社は年間約12億件の取引データを扱っており、これにリテールから提供されるPOSデータを掛け合わせることで、オペレーションの効率化だけでなく、マーケティングとしての事業化や新たな需要創造に繋げています。物流だけでなく「情報流」としての卸の価値を確立し、それが収益を生むプロダクトとして評価されるレベルまで高めていきたいと思います。


また、当社は「人がすべて」の会社であり、社員一人ひとりの努力と創意こそが競争力の源泉、未来を切り拓く力となります。「MS Vision 2030」では、人的資本の強化を成長戦略の中核に据えており、その実現には社員一人ひとりの成長が必要不可欠です。その基盤として、2030年に目指す人財の在り姿を示した「人財ポートフォリオ 2030」を策定しており、これに基づいて人事施策をさらに推進していきます。

――将来的にどのような企業でありたいか、理想の企業像について


食品という普遍的で意義深い商材を扱う仕事に対し、社員があらゆる場面で強い誇りを持てる企業でありたいと思います。また、取引先様にとっても、一緒に仕事をしたい企業でありたいです。派手に目立つ必要はありませんが、「この仕事、この会社に関わってよかった」と思える文化を醸成したい。その結果として、業界全体を元気づけられるような存在になることが理想です。

【プロフィール】
いとう・かずお 1968年4月13日生、57才。東京都出身。91年3月慶応義塾大学経済学部卒、同年4月三菱商事入社(食品トレーディング部)。19年4月三菱商事食糧本部長、21年4月同社グローバル食品本部長、23年4月同社執行役員コンシューマー産業グループ CEO オフィス室長などを経て24年4月三菱商事執行役員食品流通・物流本部長、同年6月三菱食品取締役。26年4月1日付で三菱食品代表取締役社長。


〈冷食日報2026年3月27日付〉
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