長野県のほぼ真ん中に位置する辰野町(たつのまち)。JR新宿駅から約3時間、人口約1万8000人、ゲンジボタルの発生数日本一の20万匹というのどかなまちが、今じわじわと注目を集めています。
シャッターが閉まっていてもいい。飛び飛びの店舗を歩いて巡れる商店街に

多彩な肩書きを持つ赤羽孝太さん。40代にして、どこか仙人のようなたたずまい(写真撮影/五味貴志)
その名の通り、楽しげな商店が飛び飛びに点在する「トビチ商店街」をブランディングし、エリアリノベーションを手がけているのが、「○と編集社」代表理事の赤羽孝太さん。通りを歩けば軽トラが止まり、「あそこの工事の件だけどさ~」と話しかけられ、どの店をのぞいても店主やお客さんとの会話が弾み、笑顔が伝播する、商店街の顔のような存在です。
肩書きは、総務省 地域力創造アドバイザー/長野県空き家利活用推進アドバイザー/まちづくりアーティスト/一級建築士/宅地建物取引士/陶芸家見習い……とずらり。赤羽さんは一体どんな商店街、まちづくりを目指してきたのでしょうか。

洋装店の建物を改装し、3階に○と編集社の事務所が。1階はレンタルスペース、2階は個人向けシェアオフィス(写真撮影/塚田真理子)
赤羽さんは辰野町出身で、大学院卒業後、都内の設計事務所を経て独立。2016年から2019年3月まで辰野町集落支援員に就任し、首都圏と辰野町の二拠点で暮らしながら、空き家・空き店舗を活用したまちづくり、エリアリノベーションに取り組んできました。本格的に辰野町に拠点を移し、○と編集社を立ち上げたのは、集落支援員だった2018年のこと。
「当時はシャッター商店街で、新しい店はなく、商店は年々減っていくばかり。商店街に場所を借りて、今度ここで会社を始めますと商店会に挨拶に行ったとき、店主のおじさんたちが『おまえのところ、いつ店閉めるの?』という話をしていて、これはみんなで一緒に、一丸となってなにかやりましょう!っていうのはできないと思いました。変に折衷案になって、お互い無理したり、我慢したりしなくちゃならないから」
商店街の価値ってなんだろう。通りにたくさんの店がずらりと並んでいて、にぎわっている風景を想像しがちですが、「全部開いていなくても、歩いて楽しいまちはつくれる」というのが赤羽さんの考えです。
「歩いて巡って楽しいのが商店街の価値だと思うんです。でも、すべての店が営業していなくてもいい。ショッピングモールだって楽しいけど、お客さんは全部の店に入るわけじゃないですよね。そもそも、商店街の人たちが『いつやめる?』っていうのだって悪いことじゃない。歳を取ってきて、これからは年金もらいながら生活するということですから。シャッター商店街って、店が閉まっているからといって誰もいないわけじゃなくて、3割は店舗兼住宅で、奥や2階に人が住んでいるんです。だから、店のシャッターが閉まっていることも肯定したい」

(写真撮影/五味貴志)
楽しい商店街とはなにかを突き詰めて考えたら、「全部」じゃなくて「組み合わせ」でいい。自分のお気に入りの場所が、目に留まる範囲に点々とあれば、楽しく歩いて巡れるはず。
「当時は閉塞感がめちゃくちゃありましたよ。未来に希望がもてない、でも打破できない、なんともいえない感じ。だから僕たちは、未来を楽しくしたい、心躍るような明るい未来をつくりたかった。『○と編集社』は『○の未来にワクワクする人を増やそう』というのがミッション。○=地域だったり、店や個人だったり。それが行動原理だから、頼まれてもワクワクしないことはしないし、頼まれなくてもワクワクすることならやる」
そうして、商店会とは別の活動として、○と編集社独自の事業がスタート。一般の不動産会社が扱わない市場価値の低い空き家などの不動産を扱い、改修して店をやりたいという人に仲介したり、デザインディレクションやブランディングをしたり。空き家の片付けで出てきた古材などは必要とする人に渡せるよう、古物商の資格も取得するなど、空き家にまつわるさまざまな取り組みを行っています。
またレンタサイクルステーション「grav bicycle station(グラバイステーション)」を運営し、まちを自転車で巡る楽しさも提供しています。
大事なのは、それぞれのお店が目的地になること、と赤羽さん。
「辰野町の人口は約1万8000人ですが、車で1時間の範囲は商圏だと思っています。松本、諏訪、伊那で40万~50万人の市場がある。僕たちも松本に1時間かけて遊びに行きますよ。ということは、松本にないことを辰野町でできれば松本の人を呼べるはず。そしてせっかく来てもらったなら楽しんで帰ってほしいから、『あっちにもおもしろいお店があるよ』と紹介し合うコミュニティを再編集して、巡って楽しい商店街をつくりたいと考えたのです」
もう1人の推進役は大手デベロッパー出身。ダンススタジオも経営しカルチャーを牽引

「goodhood」代表の鈴木雄洋さん。「&garage」の壁のイラストは、毎年アーティストに描いてもらっている(写真撮影/五味貴志)
もう1人、トビチ商店街の新たなるキーパーソンがいます。千葉県船橋市出身の鈴木雄洋(すずき・かつひろ)さん。大手デベロッパーに6年間勤務し、都市開発事業企画という花形部署を経て、辰野町でのまちづくりに携わっています。
「人口減少時代で空き家は増え続ける一方。新築によるまちづくりよりも、既存のストックを活かしたまちづくりに興味を持ち始めて。新築とは真逆の、あるものを活かした、ローカルだからこそできるおもしろいまちづくりがしたいなと、自然環境の豊かな地方のまちづくりに好奇心がそそられたのです。
その日のうちに赤羽さんと、スーパー公務員と呼ばれる辰野町職員の野澤隆生さんと出会い、2020年に辰野町の地域おこし協力隊として移住。2023年に株式会社goodhoodを設立しました。公民連携による未活用公有財産の再生事業(「goodhouse」、「むらとしょ」)、文化事業(「&garage」)、教育事業(総合進学塾「螢照会」)など、「今の辰野町にあったらいいな」と思う事業を展開し、住まい・教育・文化の3本柱でまちづくりを推進。○と編集社とも業務提携し、赤羽さんの一世代下の推進役として、エリアリノベーションに関わっています。

県内外からダンサーを講師として招き、定期的にダンスレッスンを行っている。写真はダンスバトルイベント風景 (写真提供/goodhood)
実はダンサーでもある鈴木さん。長年使われていなかった旧伊那バス営業所の洗車場ガレージに、2021年、ミックスカルチャースペース「&garage」をオープンさせました。伊那バスのターミナルだったこの場所には、既存のコインランドリーのほか、古着店やのちほど紹介するピザの店も現在入居しています。
「このバスターミナルエリア全体にものすごく可能性を感じて、エリアリノベーションしたいと思いました。最初にやるべきなのは、消費を目的にしない施設をつくること。海外なら教会がまずあって、そこに広場ができて、カフェができて、という順に広がっていく。ダンススタジオに来る人は、消費じゃなくてクリエイティブが目的。この技を極めたいとか、この振りを踊りたいとか。僕が移住してきたときはコロナ禍真っ最中だったけど、そんなときでも普遍的なものって絶対続くんです。役場や銀行、学習塾と同じで」
カルチャースポットとしての広がりも、鈴木さんの狙い通りに。「ビンテージバイク500台が集結したイベントを開いたり、そこにアパレルやパーツ屋がショップを出したり。ダンスバトルのイベントや、古着屋のマーケットイベント、持ち寄りのフリーマーケットといったコンテンツを提供することで、多様なカルチャー好きな人が集まってきます。そうなると、フロントである古着屋さんやピザ屋さんの商機をどんどんつくれる」と鈴木さん。「&garage」という名前に「ダンス」も「スタジオ」も入っていないのは、こうした可変性を持たせる意味合いがありました。
赤羽さんにとっても鈴木さんの存在は絶大。

バスの営業所だった場所は、ヨーロッパの古着をそろえる『十月十日』に(写真撮影/塚田真理子)
ちなみに、このバスターミナルエリアの土地と建物は、別法人の株式会社MMMstudioを設立して購入(オーナーチェンジ)し、各店に賃貸しています。「&garage」はピザ店のイートインスペースとしても開放しているため、なんと180平米で家賃1万5000円という破格の安さ!賃料が安いことで、商店街でなにか始めたいという人にとって、チャレンジしやすいという状況が生まれています。
ほかにも、トビチ商店街で店を営む店主たちに話を聞いていきましょう。
もと薬局の建物で、個性豊かな3店舗が営業。22歳の若きオーナーも
薬局だった建物を再利用しているのが、「Equinox STORE(イクイノックス ストア)」。トビチ商店街の先駆けとして、2021年3月にオープンしました。店内は壁などで仕切ることなく、コーヒースタンド、洋服メインのセレクトショップ、美容雑貨店がゆるやかに三等分してワンフロアを共有しています。

2021年3月20日にオープン。イクイノックスとは春分の日という意味。左から、鈴木雄洋さん、伊藤萌袈さん、大槻絵美さん、高木徹仁さん、赤羽孝太さん(写真撮影/五味貴志)

ガラス窓は調剤室の名残。奥は美容雑貨店のスペースに(写真撮影/五味貴志)

「High-Five COFFEE STAND」は黄色がイメージカラー。小窓からテイクアウトもできる(写真撮影/五味貴志)
「High-Five COFFEE STAND」は、松本に1号店を持つ、自家焙煎のスペシャルティコーヒースタンドです。「3店舗でひとつの場所を借りることになったのは、辰野町でイベント出店をしたのがきっかけ。洋服屋さんの元オーナーさんと、美容雑貨『Kaymakli』の大槻さんとで、辰野で店をやりたいねという話になり、じゃあ広い店舗を借りて一緒にやろうと、赤羽さんに何軒か紹介してもらったんです」と、オーナーの高木徹仁(たかぎ・てつひと)さん。
当時は4号店としてここをオープン。学校帰りに立ち寄る高校生も多く、「辰野町にはスターバックスがないから、コーヒースタンドができて喜んでくれているみたいです。平日はほぼ地元のお客様ですが、ほたる祭りで夜営業したときやイベントを機に、遠方からも足を運んでいただけるようになりました」
最近力を入れているのは、ドリップバッグの通販。家でもスペシャルティコーヒーを楽しんでほしいと話します。
赤羽さんは、「松本のマーケットは24万人プラス観光客と大きいけれど、松本にコーヒースタンドやカフェは何十軒とある。でも辰野町にコーヒースタンドはここだけ。1万8000人を1軒で引き受けられる。ブルーオーシャンですよ」と評価。
競合店がないということは、やり始めれば即トップランナーになれるというわけです。
ちなみに釣りが趣味という高木さんは、ルアーを自作し、仕事帰りに天竜川と横川川の合流地点でニジマス釣りをするのが楽しみなのだとか。辰野町の自然を満喫しているようです。

「Soyogi」オーナーの伊藤萌袈さん。オープン1周年記念にオリジナルのTシャツも(写真撮影/五味貴志)
洋服や雑貨のセレクトショップ「Soyogi」を営むのは、お隣の伊那市出身の伊藤萌袈(いとう・もえか)さん。「以前この場所にあった洋服屋さんで働いていて、オーナーがこの場所を引き継いでお店をやってみないかと提案してくださって。いつか自分の店を開くのが夢だったので、ぜひやりたいとお返事しました。店名の『Soyogi』は、日常に豊かなそよ風を送りたい、という意味を込めて。質がよく、長く着ていただける洋服をそろえています」
実は伊藤さん、若干22歳。Equinox STOREの家賃が月額4万5000円、3店舗でシェアしているため1店舗あたりわずか1万5000円という破格の家賃だからこそ、若きオーナーがチャレンジに踏み出せたのです。

洋服や靴下のほか、シンプルで使いやすい器も扱う。ギフトにも人気(写真撮影/五味貴志)
「僕が小さいころは、商店街でなんでもそろった。初めて買ったCDもファミコンも、ミニ四駆も、初めてのジーンズも。なにかっていうと商店街で、楽しい思い出。空き店舗なんてなかったし、空いたとしても当時は家賃がとても高かったはず。今はそれが逆、選びたい放題。路線価もなくなって、家賃が落ち切って安い、だからチャレンジしやすい」と赤羽さん。
やるつもりはなかったけど、いろいろなお店がなんとかやれている雰囲気を間近で見ていると「自分でもできるんじゃないか」とマインドが変わってきて、トビチ商店街で店を始める人もいるそう。お客さんを得るためというよりは、自分のやりたいことを実現させるのが第一。そこをバックアップしてくれる赤羽さんや鈴木さんの存在は、なんとも心強いものです。

美容師がセレクトする美容雑貨や香りのアイテムが並ぶKaymakli(写真撮影/五味貴志)

「Kaymakliはカッパドキアの地下都市から名付けた」と話す大槻絵美さん(写真撮影/五味貴志)
「Kaymakli(カイマクル)」は、近くの箕輪町で美容室を営む大槻さん夫妻による、オーガニックシャンプーと香りのセレクトショップです。「トビチマーケットというイベントで夫がHigh-Fiveの高木さんと意気投合。トビチ商店街に将来性を感じて、この店をスタートしました」と、大槻絵美(おおつき・えみ)さん。おしゃれなシェービング用品やオーガニックのスタイリング剤、ヨーロッパの香水や石けんなど香りのアイテムを取りそろえています。

シャンプーの量り売りは100g940円~。空き容器はなるべく持参して(写真撮影/五味貴志)
サロン専用のシャンプーは、気軽に試してもらえるよう量り売りに。薬局の調剤室をリノベーションした空間は、どこかラボラトリーのような雰囲気が漂います。
店の奥には、庭が見える和室も。「そこでいずれはフェイシャルエステなどもできたらいいな。トビチ商店街にはそういったお店がないので」
お客様と会話を交わすことも多い大槻さん。ごはんが食べられるお店を聞かれることも多く、「ピザの『メリオ』さんや、昔ながらの『神田食堂』さん、キッズスペースもあるミュージックカフェバー『ニュースタンド』さんをおすすめしています」
バスターミナルエリアの一角に、薪窯のピザ屋がオープン

マルゲリータ1300円(平日昼1000円)など、ナポリピッツァは約20種。生地の配合は毎日変えているという(写真撮影/五味貴志)

ピッツァ職人歴は12年以上という井上さん。店内は自らDIYでリノベーション。薪窯は特注したものをナポリから取り寄せた(写真撮影/五味貴志)
ナポリピッツァ専門店「薪窯Pizzeria Meglio(メリオ)」は、バスターミナルエリアにあった元スナックを改装し、2024年7月にオープン。店主の井上恵一(いのうえ・けいいち)さんは、東京の飲食店で18年腕を磨き、妻の実家がある辰野町に家族4人で移住しました。
「仕事をどうするか決めずに来たのですが、赤羽さんと知り合って、トビチ商店街を歩いたとき、ここでピザ屋をやりたいと思いました。移住者が新しく始めたお店もあって、雰囲気も良くて。物件はここどう?って紹介してもらって、即決でした。川沿いなのと電車が見えるのが気に入りました」
当初は薪窯のある厨房とカウンター席だけでしたが、赤羽さんが産廃業者のところにあったコンテナをもらってきて、イートインスペースに改装。「テーブル席ができたことで、家族連れや女性グループのお客様が増えました。たまに海外の観光客も来られますよ。日本人が旅先で和食が恋しくなるように、欧米の方も喜んでくださいます」

ガラス張りの建物に厨房とカウンター席がある。屋上と右のコンテナがイートインスペースに(写真撮影/五味貴志)

隣接する「&garage」でもイートインできるのがいい(写真提供/goodhood)
辰野町の魅力を井上さんに聞いてみると、「自然が多いところですね。子どもたちも自然の中で遊ぶのが楽しいようです。家から店までは車で5分。東京にいたときは日付が変わる前に帰宅できることはほぼなかったのですが、今は家族と過ごせる時間が増えました」
最新店は、家族で行きたいミュージックカフェバー

オーナーの柏木さん夫妻。前職を活かして妻の薫子さんがつくるスムージーや、辰野町のそば粉を使ったタコスなどがメニューに(写真撮影/五味貴志)
トビチ商店街でいちばんホットな空間は、今年6月にオープンしたミュージックカフェバー「neu stand.(ニュー スタンド)」。オーナーは長野県飯田市出身で、東京で20年ほど、音楽業界に携わってきた柏木勝(かしわぎ・まさる)さん、薫子(かおるこ)さん夫妻です。
「コロナ禍で地元のことを考えるようになって、これまで自分が携わってきた音楽で盛り上げられないか?と思ったのがきっかけ。飯田でやった自分のイベントで『goodhood』の鈴木さんと知り合って、辰野町が今おもしろいことになっているのを知って。飯田だとちょっと東京から遠いけど、辰野なら2時間半だし、鈴木さんの『&garage』でもいろいろなイベントをやっているのがいいなと思ったのです」
かつてフィリピンパブとしてにぎわった建物は、レトロな雰囲気を残しつつ、壁にしっくいを塗るなど自分たちでリノベーション。「DIYとかやったことなかったんだけど、商店街の人たちに刺激を受けて。町のみなさんがウェルカムな感じなのがありがたかったですね。新しいことどんどんやろうよ、っていう空気感があります」

広い店内を利用して、DJ体験やフリースタイルバスケなどのイベントも(写真撮影/五味貴志)

前室のような空間では、センスが光るオリジナルTシャツなどを販売(写真撮影/五味貴志)
2日間にわたって行われたオープニングイベントでは、有名DJやアーティストを招いて大盛況。
「もう遊び尽くした、遊びから卒業した、という方にも、気軽に遊べる場所を提供したい。キッズスペースもつくったので、家族でも来てほしいですね。東京にいたころはやっぱり夜がメインで、自分も疲れちゃって。ここの営業は昼から18時ごろまで、イベント時でも22時くらいまで。音楽とともに、ごはんもお茶もお酒も好きなように楽しんでいただけたら」と柏木さんは話します。

広さは200平米弱。都内では考えられない格安の家賃で、しかも改装工事中は家賃免除だったという、ローカルならではの特例も(写真撮影/五味貴志)
5年間で32店がオープン、住民のQOL(クオリティオブライフ)は爆上がり!

橋のたもとにある元文房具店の建物は、ドーナツと本、文房具を扱う「文化公園 目地」(写真撮影/塚田真理子)
トビチ商店街では、5年間で18の建物を利用して32事業者がオープンしました。とはいえ「やってみたけれどだめだった」も当然ある、と赤羽さん。
「新たに始めたい人が出てきている、ということに価値があるんです。やってみてだめだったとしても、空いた場所でまた誰かがなにかやりたいという循環が生まれる。むしろ、若い世代が新しいことを始めやすくなるから、ポジションが空くのは大事なこと。あとは合っているかどうか。この地域、この場所に、自分が求める売上レベルや生活レベルが合う人が残ってくれればいいと思っています」
辰野町では毎年300人が減っているそう。空き家は今後もっと増えていきます。そんな状況をついマイナスに捉えがちですが、赤羽さんはここ5年でQOL(クオリティ・オブ・ライフ)が爆上がりしたと言うのです。
「以前は食べるところといえば、創業60年以上の『神田食堂』一択だったのが、ナポリピッツァにドーナツ屋、『ニュースタンド』のタコスにチキンオーバーライス……と充実してきています。おしゃれな洋服屋や、ひと休みできるコーヒースタンドもある。それは、低投資でやりたいことに挑戦できる空き家と、そしてローカルならではの環境があるから。マーケットは大きいが競合も多く莫大な初期投資が必要な都会と、自分のペースでできるところから小さくチャレンジでき、小さいマーケットの中でトップランナーになれるトビチ商店街。どちらにおもしろみを見出せるか、というところですよね」

今後は、辰野町みやげになるような雑貨店も計画中、と赤羽さん(写真撮影/五味貴志)
辰野町の空き家バンクの物件は350件あり、7~8割が決まっている状態。移住者の数でいうと年間100人ペースで増加中。赤羽さんがつくったベースを鈴木さんが発展させていき、今後は空き家・空き店舗というハードのほかに、小商いをやりたい人を育てるソフト事業にも力を入れていくと話します。
そして赤羽さんはあと3年で引退し、辰野町の里山に篭って陶芸家になる予定だとか。まちづくりの担い手においても新陳代謝が必要で、後進を育てるために席を空けることも大事、ということなのでしょう。ちなみに、今伸ばしている髪やひげは、山にこもるときはバッサリ切ってさわやかになる!と笑う赤羽さん(いや逆では!笑)。
陶芸家になって住むという里山はものづくりエリアとして、今後エリアリノベーションも考えているとか。トビチ商店街に加えて、さらに辰野町がワクワクするまちになるに違いありません。そうして、住む人のQOLはますます上がっていくことでしょう。
●取材協力
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