地方の豪家や、昔ながらの街並みが残る地域で時々目にする「蔵」。主に倉庫や保管庫として使われてきたもので、先祖代々の家宝が眠っていた、という話も聞く。

漆喰仕上げの大きな建物は、敷地の外から見てもかなりの存在感だ。

さて、蔵(土蔵)は昔の建造物と思われがちだが、実は今でも、まれではあるが新築されている。蔵はどのような方法で建てられているのだろうか? 蔵の新築や修復を手掛ける、原田左官工業所の原田氏にお話を伺った。

「蔵の大きさはさまざまですが、2間(3.64m)×3間(5.46m)前後が多いです。壁は土を約30cmも塗ることになるため、重量がかなりのものになりますし、それを支え得る頑丈な基礎も必要となります。頑丈な基礎をつくり、土の重量に負けない柱や梁を組み、土を塗っては乾かし、塗っては乾かししてつくっていきますので、完成まで時間がかかります。昔は2~3年かけてじっくりつくっていました。価格は一概には言えませんが、住宅を建てる程度はかかると思います」

ちなみ外観の仕上げ方にも何種類かあり、全体に漆喰を塗りこめるもののほか、板張りの蔵やなまこ壁(壁面に平瓦を並べて貼り、瓦の継ぎ目に漆喰をかまぼこ型に盛り付けて塗ったもの)の蔵もある。いずれにせよ、昔も今もその建築方式は変わらず、左官屋さんが手間暇かけてつくっていくのが蔵の特徴だ。内部のつくりに関しては、

「内部は、座敷として和室の設えをし、6~8畳のワンルームとして利用することが多いです。木材や土など、手に入る材料が違っているかもしれませんが、内部の構造もつくり方も、昔からほぼ変わっていません」

とのことだった。蔵は、その分厚い土壁のおかげで湿度がある程度一定に保たれ、また、夏は涼しく冬は暖かく、と気温を調節することもできる。

蔵は日本の気候に合うようにつくられた優秀な建築物なのだ。さらに、木の骨組みを隠すように土を塗り固めるため、防火性にも優れている。こういった性能を活かすべく、最近では蔵造りの住宅もちらほら見かけるようになった。古い蔵をリノベーションしてカフェなどに利用している例もある。

最後に、蔵づくりの醍醐味について伺った。

「住宅は大工が棟梁ですが、土蔵は左官が棟梁となって建てていきます。住宅とは土の量が違うので、しっかりした構造にすることが大切です。それを考慮しながら、土蔵特有の漆喰による細部の細工や、全体のプロポーションまで考えながら徐々に形づくっていくところは、難しい点ですが、逆におもしろい部分でもあります」

先述のように、蔵の性能や見た目の重厚感は今でも一目置かれており、住宅や店舗に応用されているケースも多い。蔵の倉庫としての需要は減っているかもしれないが、日本の伝統を継承し、残していくためにも、蔵をその時代に合った形で受け入れていく工夫が今後も必要になりそうだ。

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