国から手厚い保護を受けている、日本の宝「重要文化財」。大きく分けて美術工芸品と建造物の2種類がありますが、どれも威厳や存在感を醸し出すものばかりです。
お話を伺ったのは、文化庁文化財調査官の長尾充さん。重要文化財の指定を受けるには、どのような手続きが必要なのでしょうか?
「建造物を重要文化財に指定するためには、綿密な調査が必要です。まずは地元での調査。大学の先生や建築士の協力を得て、報告書をまとめてもらいます。その報告書を基に、我々文化庁の調査官が現地調査や関連資料の調査をします。指定候補とするまでには1件につき調査から最低でも2年くらいを要する長丁場です。最終的には大臣が文化審議会へ諮問(しもん)し、答申をうけて指定を決定するという流れです」
その審査の基準は、各時代を代表するような用途・形態を持つ建築物であること。なおかつ以下5点のうち、いずれか1点を満たしているかどうか。
(1)意匠的に優秀なもの(2)技術的に優秀なもの
(3)歴史的価値の高いもの
(4)学術的価値の高いもの
(5)流派的または地方的特色において顕著なもの
現在、重要文化財に指定されている建造物の数は4607棟。そのうち、極めて優秀で、かつ文化史的にも意義深いものは「国宝」に指定されるそうで、こちらは現在266棟となっています(いずれも平成25年9月1日時点の数)。
ちなみに、文化財は市町村の条例によって指定することもできますが、国の重要文化財と二重の指定はできないとのこと。
では、重要文化財に指定されるとどのようなメリットがあるのでしょうか?
「大規模な修理を実施するときや、防災設備などを整えるときに一定の割合で補助金がでます。ほかにも固定資産税が非課税になるなどの優遇措置が設けられます。一方で、『現状の変更』や『保存に影響を及ぼす行為』(例:想定外の重量物の搬入や隣接地などの大規模堀削)をしようとする場合には、文化庁長官の許可が必要です。修理にも届が必要で、所有者の独断で建造物に手を入れることはできなくなります。そのため、企業が所有している建物や現在も人が住んでいる建物では、所有者側の意向で重要文化財登録の指定に至らないケースもあります」(長尾さん)
重要文化財の管理は所有者の責務。管理不行き届きによって、文化財としての価値が失われたとみなされた場合は、最悪、重要文化財指定の解除なんてこともあり得るという。ちなみに、今のところそういった理由で解除されたことはないとのこと。
重要文化財だけではない、登録有形文化財として残すという方法もあるでは、もし身の回りに文化財として残したい建物があった場合、個人宅などでも重要文化財に指定することは可能なのでしょうか?
「重要文化財は難しいかもしれませんが、所有者の残したい気持ちにこたえる制度として『登録有形文化財』があります。これは、より多くの文化財を保存していくことを目的に平成8年に創設されました。とても人気があって、現在建造物の登録は9250件。そのうち約半分近くは『住宅』です」(同)
こちらに登録するためには、原則50年を経過した歴史的建造物であることと、以下の3点のうち、いずれか1点を満たしていることが条件です。
(2)造形の規範になっているもの
(3)再現することが容易でないもの
「登録の手順ですが、まずは、地元の教育委員会にご相談ください。必要な資料を整え、文化庁の調査を経て、文化審議会で価値が認められれば登録されます。登録有形文化財は、建物を活かしながら残していこうという考え方です。そのため、内装の変更や設備の更新などの規制は、重要文化財に比べると緩やかです。ですから、修復してまちづくりに活かしたり、観光資源として利用する例も多くなっています」(同)
というわけで、重要文化財も登録有形文化財も、造りが優れているだけでなく、歴史上の位置付けが審査のうえで大事になるということが分かりました。
「その建造物を失ってしまうことで、日本の建築史が語れなくなってしまうかどうかが、非常に重要なポイントです。また、その土地土地の住まい方や造られ方が分かる建造物も、地域の文化を守るという意味で対象になりやすいですね」(同)
そうした精査を行う文化財調査官は、長尾さんを含め長年大学で建築物などの研究をされていた方ばかり。そのお眼鏡に叶うものとなれば、それなりの建造物ではないとダメだということですね。
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