●「おいなりさん」の愛称で知られる稲荷寿司。東京にある名店を10店舗を食べ比べし、各店の味と特徴、個性に迫る!
小腹が空いたときに、ちょっとしたお土産に、はたまたお花見などの差し入れに何かと重宝する稲荷寿司。
東京にはこの「おいなりさん」の名店が複数あり、味やコンセプトも多種多様。そこで今回は、「おいなりさん」の名店と言われるお店を10店巡って食べ比べ、各店の個性に迫りたいと思います。
市場で働く人を支える濃いめの味わい|『菅野商店』(築地)

まずは、築地場外市場にある『菅野商店(かんのしょうてん)』から。『菅野商店』は、魚介の弁当をメインにしたお店ですが、おいなりさんも複数ラインナップしており、人気を博しています。ここでは「いなり(昆布)」300円をいただきました。

濃いめの味付けのお揚げと強めに握られたシャリがいかにも家庭料理的で、優しい味わい。添えられた昆布とわさびが複雑な味わいを醸し出していて、これまた美味。築地界隈で働く人たちの胃袋を支える庶民派おいなりさんで、昼ごはんにもう一品加えたいときなどに重宝しそうです。
●SHOP INFO

店名:菅野商店(かんのしょうてん)
住:東京都中央区築地4丁目9番5号
営:4:00~14:00
休:日曜、祝日
おにぎりの名店のおいなりさんはやはりデカかった!|『おにぎり屋 丸豊』(築地)

続いて、同じく築地にある『丸豊』です。『丸豊』は「大ぶりおにぎりの名店」として連日行列ができる人気店ですが、果たしておいなりさんの味はどんな感じなのでしょうか。ここでは、「いなり(山菜)」280円をチョイスしました。

看板商品のおにぎり同様、大ぶりのおいなりさんですが、味は極めて繊細。お揚げの味付けは上品で、シャリの酸味も控えめ。
●SHOP INFO

店名:おにぎり屋 丸豊(おにぎりやまるとよ)
住:東京都中央区築地4-9-9築地場外
営:5:00~15:00
(営業時間・定休日は異なる場合があります)
休:日曜
歌舞伎座観覧や贈答用の上品おいなりさん|『銀座 白金や』(銀座)

続いて、東銀座の歌舞伎座の裏手にある名店『銀座 白金や』のおいなりさんをいただきます。「白金や」と書いて「ぷらちなや」と読みます。その場で食べる弁当やおにぎり的なものではなく、贈答やお土産用のおいなりさんです。複数のおいなりさんがありますが、ここでは、一番人気の「連獅子(いなり2種)」をオーダーしました。

「連獅子」には、「山椒」と「胡麻」の2種が入っています。比較的小ぶりですが、お揚げに焦げ目を加えて香ばしさを引き出しており、生姜感も強め。サッパリいただけます。
「山椒」はよりすっきりした味わいで、「胡麻」はお揚げの甘さを引き立てる王道な味わい。そのオシャレな包装と合わせて、お土産や手土産でもらったら誰もが間違いなく喜んでくれるおいなりさんと言えそうです。
●SHOP INFO

店名:銀座 白金や(ぎんざ ぷらちなや)
住:東京都中央区銀座4丁目13番16号 歌舞伎座横
営:10:00~16:00(営業時間は異なる場合があります)
休:歌舞伎座に準ずる
メディアでも話題! 老舗のおいなりさん|『川直氷室』(北区・滝野川)

続いてやってきたのは、北区・滝野川にある『川直氷室』。こちらのおいなりさんは、某雑誌の「お土産ランキング・いなり寿司部門」で1位にも輝いたこともある逸品です。滝野川の「台仲とおり商店街」にある小さなお店で、屋号の通りメインは「氷屋さん」。ですが、おいなりさんや、今川焼きなども販売する昔ながらの甘味屋さんでもあります。こちらでは「おいなりさん(5個)」をオーダーしました。

その味は、お揚げの食感をしっかり主張しつつも、全体的に優しい味付けでとても繊細。シャリは柔らかめで、食べやすくてどこか懐かしい。「これぞおいなりさんだ」と思わず膝を打ちたくなる味わい。都心部からやや離れた場所にある『川直氷室』ですが、おいなりさん好きなら必食のお店です。
●SHOP DATA

店名:川直氷室(かわなおひむろ)
住:東京都北区滝野川6-39-11
営:9:00~19:00
(営業時間・定休日は異なる場合があります)
休:日
塩大福の行列店はおいなりさんも絶品|『元祖塩大福みずの』(巣鴨)

続いて、巣鴨商店街にある『元祖塩大福みずの』のおいなりさんです。その名の通り、塩大福の有名店で、連日行列が絶えないお店ですが、実はおいなりさんも人気で、「塩大福」と一緒に買っていくお客さんも多数。筆者も並んで「いなり寿司」(5個・450円)をゲットしました。

見た目は『川直氷室』とよく似ていますが、お揚げの質感はやや粗め、そして濃いめの味付けです。シャリは程よい硬さで口の中で絶妙にほどけ、作り手の技を感じさせます。
●SHOP INFO

店名:元祖塩大福 みずの(がんそしおだいふくみずの)
住:東京都豊島区巣鴨3-33-3
営:9:00~18:30
休:不定休
和菓子のような上品な味わいにうっとり|『いなり寿司 神田明神下みやび』(神田)

続いては、神田明神の参道沿いにあるおいなりさんの名店『いなり寿司 神田明神下みやび』です。看板メニューは、お弁当や笹寿司ですが、もちろんおいなりさんも人気。たっぷりの出汁で煮詰めたお揚げがこだわりで、複数の味を展開しています。今回は、ちょっと珍しい「餅いなり」(800円)をオーダーしてみました。

「餅いなり」というくらいなので、シャリのかわりにお餅が入っているのが特徴。注文後に作りはじめるので、数分、待つことになります。サーブされてからすぐにいただきましたが、お揚げが和菓子のような上品な甘さで、しっかりした味付けです。そして、中のお餅はふっくらモチモチで伸びも良く、お揚げとの相性も抜群でした。
まさに新感覚のおいなりさんです。
●SHOP INFO

店名:いなり寿司 神田明神下みやび(いなりずし かんだんみょうじんしたみやび)
住:東京都千代田区外神田2-18-13
営:11:00~17:00
休:年中無休・年末年始はお問い合わせください
まさに東京式おいなりさんの基本形|『浅草志乃多寿司』(浅草)

続いては、浅草雷門から数分のところにある『浅草志乃多寿司』のおいなりさん。志乃多寿司ブランドを掲げるおいなりさん専門店は、東京都内に数店がありますが、1877年創業の人形町『志乃多寿司』が発端のようです。江戸時代より庶民の間で親しまれていたおいなりさんを「志乃多」と名付けて売り出したところ、結果的に140年以上も続く人気商品に。というわけで、「6個入り」(640円)をオーダーしました。

「6個入り」という商品名からして、いかにもせっかちでストレートな江戸っ子的ですが、肝心のおいなりさんの味もしっかり東京風。一つ一つはかなり小ぶりですが、甘じょっぱく煮上げられたお揚げは噛み締めるほどにお出汁がにじみ出るしっとり感。そして対照的にシャリは酸味強めでサッパリしています。この甘・酸のコントラストこそが東京式おいなりさんの醍醐味。シーン・季節を問わずいつでも美味しくいただけるおいなりさんです。
●SHOP INFO

店名:浅草志乃多寿司(あさくさしのだずし)
住:東京都台東区雷門1丁目1-10
営:9:00~17:00(閉店時間が早まる場合あり/営業時間・定休日は異なる場合あり)
休:毎週水曜・祝日の場合は営業
80年間継ぎ足し続けるタレのダイナミックな味が光る|『向島まつむら』(向島)

続いてご紹介するのは、下町ならではの、つゆたっぷりのおいなりさんを提供する名店『向島まつむら』のおいなりさん。中に入る具材を年2回、変えるというこだわりのおいなりさんです。都心部からは少々アクセスしづらいエリアにあるお店ですが、筆者が訪れた日も、遠方ナンバーの車が多数買いに来ていました。
ここでは「いなり寿司(6個)」(600円)をいただきます。

まず見た目。粗めのお揚げと、具材の入ったシャリの色合いが上品で可愛らしいです。しかし、いざかぶりついてみると、その味は極めてダイナミック。濃いめの味付けで食べ応えも十分です。聞けばお揚げには80年間継ぎ足しのタレを使用しているとのこと。上品でありながらインパクトのある味は、このタレがポイントのようです。食べごたえも十分で、普段遣いはもちろん、お土産にもピッタリ。ヤミツキになりそうなおいなりさんでした。
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店名:いなり寿し 向島 松むら(いなりずしむこうじままつむら)
住:東京都墨田区東向島築地1丁目15-12
営:7:30~18:00
休:火曜日
ゆずの香りがほのかに漂う繊細なおいなりさん|『おつな寿司』(六本木)

六本木の東京ミッドタウンの斜向かいにある『おつな寿司』。江戸前寿司の名店として知られるお店ですが、お土産用のおいなりさんも大人気。秘伝のお出汁で煮込まれたお揚げは、1枚1枚丁寧に裏返し、一晩置いてなじませています。この「裏返し」が『おつな寿司』のおいなりさんの肝で、テレビ業界では「『裏』番組を食う縁起モノ」として、差し入れの定番なのだとか。今回は、8個入りの「いなり寿司」(1160円)を実食。

サイズは小ぶりですが、その分、お揚げがたっぷり使われており、シャリよりもお揚げの味わいが強いです。甘さが際立つ味ですが、やや酸味のあるシャリと、そのシャリに加えられたゆず皮がキリッと全体を引き締めています。職人技を感じる繊細な味わいで、今回食べ比べた10店のうち、最も洒落た感じのするおいなりさんでした。
●SHOP INFO

店名:おつな寿司(おつなすし)
住:東京都港区六本木7丁目14-4レム六本木ビル1F
営:月~土10:00~21:00、日10:00~13:00(持ち帰り)
休:正月、GW、お盆(祝日は不定休)
口紅をつけたまま食べられる棒状のおいなりさん|『西麻布いなりや呼きつね』(六本木)

さて、いよいよ最後です。同じく六本木にある『西麻布いなりや呼きつね』。その名の通り、西麻布にある名店の六本木支店ですが、芸能界ではよく知られた名店です。ヨックモックのシガールをふくよかにしたような、小ぶり&棒状のおいなりさんで、女優さんが口紅をつけたまま食べられるよう配慮してできた、とも言われています。いただいたのは「いなり寿司」(1600円)。

このおいなりさん、お揚げの味が極めてサッパリしており、どちらかと言うとシャリの酸味のほうが立っています。しかし、食べ進めていくと、このお揚げの繊細な味わいが口の中に徐々にじわじわと広がっていきます。この変化が楽しい。六本木や西麻布でおいなりさんを買う際には、『おつな寿司』と両方買って食べ比べるのも楽しそうです。
●SHOP INFO

店名:西麻布いなりや呼きつね(にしあざぶいなりやこきつね)
住:東京都港区六本木7-8-5 藤和六本木コープII
営:10:30~19:00
(営業時間・定休日は異なる場合があります)
休:年始のみ
まとめ

そんなわけで、東京のおいなりさんの名店を10店、食べ比べしながらご紹介してきました。筆者個人的には、日常食的に楽しむのなら、滝野川の『川直氷室』が一番美味しいと思いました。
贈答などにも使えるオシャレ系おいなりさんでは六本木の『おつな寿司』。春先の進物の候補にしたいと思います。
もちろん、これ以外の各店も「名店」の名に相応しく、それぞれ個性的で美味しいのはもちろんです。ぜひ自分好みのおいなりさん探してみてください。
(撮影・文◎中西ふみえ・松田義人)