2022年のGW明けから今に至るまで、東京ではラーメン店の新店オープンラッシュが続いています。直近約10年間におけるラーメン史を俯瞰すれば、2012~2014年にかけてのオープンラッシュ(第1次)、2017~2018年のオープンラッシュ(第2次)に続く、「第3次オープンラッシュ」と位置付けられると筆者は考えています。

 この第3次オープンラッシュ。最大の特徴は、誤解を恐れずに言えば“フリースタイルである(型がない)こと”です。「スープだけでなく、麺にもこだわること」や、「過度な装飾を排した、クラシックスタイルへの回帰」。こういった大きな潮流こそ見受けられますが、概して、各店舗の店主さんは特定の型にはまることなく、思い思いにラーメン作りを楽しんでいるような気がします。

 今回ご紹介する『まぜそば 田なか 東中野駅前店』も、まさにそんなお店のひとつ。同店は、田中友規氏が代表を務める、『志奈そば 田なか』グループの一翼を担う1軒。『志奈そば 田なか 東池袋本店』(東京・向原)、『同いすみ店』(千葉県いすみ市)に続く3号店として2023年2月21日にオープンした新店です(※1)。

注釈
(※1)より具体的には、2020年7月15日に開業した『志奈そば 田なか 明神下店』(東京・末広町)が、入居建物老朽化に伴う建て替えのため、屋号を変え、提供メニューの一部をリニューアルする形で移転オープンを果たしたもの。

 ちなみに、グループの本店である『志奈そば 田なか 東池袋本店』は、都内を食べ歩きの拠点とするラーメンマニアの間では知らない者はいないほどの実力店。田中代表が本店を創業したのは2013年4月のこと。冒頭に述べた第1次オープンラッシュの真っただ中ということになりますね(※2)。

注釈
(※2)今般の第3次オープンラッシュ下における新店は、それ以前のオープンラッシュ時に生まれた店舗からの独立店や、その2nd・3rdブランドが多いことも大きな特徴のひとつ。

端的に言えば、お墨付きの実力者たちが新店を出している(=ゆえにハイレベルな店が多い)ということ。

 こちらの『まぜそば田なか』。ロケーションは、『東中野駅前店』という屋号が示すとおり、JR中央線・東中野駅の目の前。

煮干しの旨みが爆発! 『まぜそば 田なか』(東中野)の「煮干まぜそば」の魅力をラーメン官僚が語る
お店表口正面のファザードは、漆黒の壁を基調とし、随所に褐色を効果的に織り込んだ、適度にシックでセンスの良さを感じさせるもの。左が表口、右が裏口(裏口は出口専用)

「これまで出してきた店舗は、どのお店も駅から離れていたり、場所が分かりづらかったりしたので、この『まぜそば 田なか』は、これまでとは正反対の立地で営業することにしました。代償として、店舗スペースがかなり手狭になってしまいましたが(笑)」(田中友規代表)

 その言葉どおり、東中野駅の西口改札を出て、進行方向左側にある階段を降りれば、そこはもう店舗の真ん前です。表に回って入店すると、タッチパネル式の券売機が出迎えてくれました。

煮干しの旨みが爆発! 『まぜそば 田なか』(東中野)の「煮干まぜそば」の魅力をラーメン官僚が語る
店内風景。カウンター8席。最近は従来型の押しボタン式ではなく、タッチパネル式の券売機を設置するお店が急増中

 2023年3月現在、券売機に表示される麺メニューは、「にぼたん」、「煮干まぜそば」、「まぜ中華」の3種類。いずれの商品も、いわゆるスープOFFタイプのまぜそばです。

「厨房を含め、面積が狭い店の特徴を逆手に取って、寸胴でスープを炊き上げる必要がない汁なし専門店にしようと考えました。折しも『志奈そば 田なか 明神下店』で出していた『にぼたん』が「カップ麺」として発売され、評判も上々でした。汁なし専門店を出そうと考えたのは、そういう背景も手伝ってのことですね」(田中代表)

 ということで、「にぼたん」は、移転前の店舗で出していた商品の生き残り、「煮干まぜそば」と「まぜ中華」は、『まぜそば 田なか』を開店するに当たって新たに開発した新商品という位置付けになります。

 券売機のディスプレイには「にぼたん」が筆頭メニューとして表示されていましたが、「ここは未体験の味を!」と、純粋な新商品である「煮干まぜそば」をいただくことにしました。

魚介の味を濃縮した一杯!「煮干まぜそば」

煮干しの旨みが爆発! 『まぜそば 田なか』(東中野)の「煮干まぜそば」の魅力をラーメン官僚が語る
「煮干まぜそば」850円

 カウンターに着席し、待つこと5分弱。「煮干まぜそば」が完成し、恭しく眼前に供されました。

 ウネウネと波打つ大量の太打ち麺の上に、大ぶりの豚チャーシューと炙り鶏モモ肉がどっしりと腰を下ろし、丼面積の3分の1程度を占拠しています。チャーシューの対角線上には見目麗しき黒バラ海苔が載せられ、中央部には、刻み玉ネギと刻みネギが小さな塊を作っています。

 必要にして十分な内容のトッピングを、視覚的な美しさにも配慮した形で配置。過剰でもなく過少でもない。このあたりのさじ加減の巧みさは、さすがのひと言です。

煮干しの旨みが爆発! 『まぜそば 田なか』(東中野)の「煮干まぜそば」の魅力をラーメン官僚が語る
麺は生麺を使用。食べる度に煮干しの旨みが口内を駆け巡る

 さっそく数本の麺を箸でつかみ、ズズッと豪快にすすり上げます。煮干しに由来する大海の滋味がたっぷり含まれた濃密なソースが麺にしっかり絡みついた状態で口元へと運ばれ、味蕾へと到達した瞬間、うま味のビッグバンが発生。口腔内で煮干しの大群が泳いでいるかのような感覚が、リアリティをもって襲いかかってきました。

 ちなみに、田中代表は好きが高じて千葉県外房エリアに移住までしたほどのサーフィン好きとして知られています。そんな同氏にとって、千葉県産の煮干しはスペシャルな存在。

「千葉の海に少しでも恩返しをしたいという気持ちから、これまで煮干しを使ったラーメンを欠かさず作り続けてきました。

この『煮干まぜそば』も、一切の妥協なしで気合を入れてつくり込んでいます」(田中代表)

 煮干しの“海”のうま味と、麺を構成する小麦の“土”のうま味が、まるで元々ひとつであったかのように舌上で一体化し、重層的な味わいを構築。舌がうま味に馴染むにつれ、煮干しに含まれるわずかな苦みや麺に含まれるかすかな甘みがじわりと味覚中枢へと伝わり、その複雑玄妙な食味に箸を持つ手が止められなくなる点も、特筆に値します。

煮干しの旨みが爆発! 『まぜそば 田なか』(東中野)の「煮干まぜそば」の魅力をラーメン官僚が語る
使用するタレにもこだわりが詰まっている

 実はラーメン職人になる前は、イタリアンのシェフとして働いていた経験もある田中氏。「まぜそばは、スープがあるラーメンと比べるとパスタに近いスタイルの食べ物。であれば、イタリアンの世界で会得したノウハウをもっとうまく採り入れられるんじゃないか…。今はそんなことばかり考えています」。

 ラーメン作りのノウハウとイタリアン(パスタ)の知見を柔軟に融合させる…。そんな、田中代表の発想は、この「煮干まぜそば」においては、とくに麺に色濃く投影されています。

「実は、麺の原料となる粉として、国産小麦のほか、パスタに使用するイタリア産のデュラムセモリナ粉を配合しています」(田中代表)

煮干しの旨みが爆発! 『まぜそば 田なか』(東中野)の「煮干まぜそば」の魅力をラーメン官僚が語る
パスタ的要素も感じさせる太平打ち麺

 まるで顎を押し返すかのような力強い弾力性が、鮮烈な印象を刻む太平打ち麺。濃厚なソースに全く引けを取らないほど堂々たる存在感を放っています。無我夢中になって食べ進めるうちに、いつの間にか丼が空っぽになっていました。

田中友規代表のプロフィール

煮干しの旨みが爆発! 『まぜそば 田なか』(東中野)の「煮干まぜそば」の魅力をラーメン官僚が語る

・東京都出身。

・関東エリアを代表する腕利きラーメン職人のひとり。

・イタリアンシェフから創作ダイニングのシェフを経て、2003年(23歳時)、ラーメン職人へと転向。都内の人気店『俺の空』、千葉県の実力店『三軒屋』等での修業を経て、2013年(33歳時)、向原に『志奈そば 田なか』を創業。

・趣味であるサーフィンは玄人派であり、サーフィン好きが高じて、千葉外房へと移住。千葉県産の素材を駆使してつくる1杯はラーメン好きからの評価も高く、数多くの常連を量産している。

・「いま提供する3種のまぜそばに関しては、ただ漫然と作るのでなく、それぞれにターゲット像を明確にイメージしながら開発を進めました。辛いものや担々麺が好きな人には『にぼたん』、老若男女を問わない万人に愛されるスタンダードな汁なしとして『まぜそば中華』。そして、今回お召し上がりいただいた『煮干まぜそば』は、ラーメン店『田なか』を象徴する1杯として提供しています」とのこと。

・今後は、さまざまな形での店舗展開や、場合によっては海外(世界)進出も視野に入れているという田中代表。これからも、その活躍から目が離せそうにありません。

●SHOP INFO

煮干しの旨みが爆発! 『まぜそば 田なか』(東中野)の「煮干まぜそば」の魅力をラーメン官僚が語る

店名:まぜそば田なか東中野駅前店

住:東京都中野区東中野1-58-15 更丸ビル 1F
TEL:03-4361-8531
営:昼の部11:00~15:00、夜の部17:00~21:00
休:木曜

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。

「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。

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