●香港にある広東料理の超名店『富臨飯店』の鮑料理の旨さの秘密とは?
香港でも屈指の高級広東料理店『富臨飯店』(銅鑼湾)をご存知でしょうか? 創業は1977年、スペシャリテは高級料理「煮鮑(にあわび)」です。
創業者・故・楊貫一氏は、別名「アワビの王」と呼ばれる人物。

筆者には、死ぬまでに一度は食べてみたいと思っている名物料理が世界中にいくつかありますが、ここの「煮鮑」はまさにそのひとつでした。しかし、『富臨飯店』は香港屈指の高級レストラン。その中でも特に高級な煮鮑は、噂に聞くだけの憧れの料理でした。

ところが先日、偶然にもこの『富臨飯店』のフルコースでいただける機会が訪れました。前菜からデザートまで連なるコースの中には、もちろん名物の「煮鮑」もあります。天にも昇る気持ちとはこのこと。
しかも嬉しいことに2代目の総料理長・黄隆滔シェフにもお会いでき、なんと「煮鮑」の美味しさの秘訣を伺うことができました……!
富臨飯店の料理は伝統と革新が同居する味わい

現在、『富臨飯店』の総料理長を務めている黄隆滔シェフが同店の厨房に入ったのは、1992年のこと。以来、創業者の楊氏の元で研鑽を積んで総料理長となり、2020年から6年連続でミシュラン3つ星を獲得し続けています。
今回いただいたコースは、その黄シェフが得意とする料理がズラリ。
例えば、メロンと魚の浮袋とサザエのスープ、伊勢海老のXO醤炒め、陳皮入り酢豚、パリパリチキンなどなど。いずれも、広東料理の伝統に敬意を払いつつも、革新的な味わいが楽しめる料理ばかりです。

印象的だった料理の一つが「陳皮入り酢豚」。
「陳皮」(チンピ)とは、漢方薬にも使われる素材で、みかんの皮を干したもの。酢豚×パイナップルはよくありますが、干しみかんの皮を酢豚に合わせるのが斬新。しかも陳皮は15年もの。見た目は真っ黒ですが、非常に味わい深い。豚肉はイベリコ豚です。
酢豚はカリッとした衣と柔らかくジューシーなイベリコ豚の濃い旨味が秀逸。タレの甘みと酸味のバランスも過不足なく、そこに陳皮の熟成したワインのような苦味と酸味が絶妙なアクセントとして光ります。

「伊勢海老のXO醤炒め」は、新鮮な伊勢海老を生かし、火の通り加減も絶妙で、噛むと弾けるようなプリプリ感。調味料のXO醤のさじ加減も絶妙で、海老の香りや旨味を損なうことなく、旨味を最大限に引き出していました。
そしていよいよ、スペシャリテの「煮鮑」。登場したのは、アワビと共にナマコと花しいたけも一緒に煮込んだスペシャルメニューでした。

アワビ、ナマコ、花しいたけ、どれも同じ色に染まっていますが、食べてみるとそれぞれまったく異なる食感と味わいが広がります。
ナマコはゼリーのような食感となめらかさ。花しいたけは肉厚で、濃厚な旨味がたまりません。そして主役のアワビ。しっかりした弾力がありながらも噛むと柔らかく、噛みしめると磯の風味、アワビ自体の旨味が押し寄せてきます。
味も食感も違う食材たちが、富臨飯店ならではの煮込みの技法によって、旨さが何倍にも増幅させられている印象。まさに“口福”の一言です。
総料理長が語る煮鮑の旨さの秘訣

総料理長・黄隆滔氏が、煮鮑の美味しさの秘訣について教えてくれました。まず、いちばん大事にしているのは食材と調味料だそうです。

「使用する干し鮑は、日本産の特級品だけ。日本産は生息環境が良いため、乾燥させても高品質で、特に創業以来、うちで使い続けているのは、岩手県産の吉浜鮑、青森県産の大間鮑などです」(黄氏)
また、食材本来の味を引き出すための調味料にもこだわっているとのこと。

「干し鮑は適切な温度で熟成させた干し鮑を、鶏や金華ハムなどでとった上湯(シャンタン)で長時間コトコト煮込んでいきます。アワビの芯は半液状になるまで煮込みます。仕上げはオイスターソースを加えて煮詰めるのですが、オイスターソースは最高ランクの『李錦記』のものしか使いません。
まとめ

余談ですが、シェフに家でも作れる美味しい広東料理はありますか? と聞いてみたところ、以下のようなメニューを教えてくれました。
「子供の頃、母が白切鶏(蒸し鶏)にオイスターソースをつけてよく食べさせてくれました。塩も使わず、鶏肉を蒸しただけのシンプルな料理ですが、オイスターソースをつけるだけで非常にリッチな味わいになりますよ」(黄氏)
さっそく家で真似してみると、確かにオイスターソースだけなのに絶品の美味しさでした。皆さんもぜひお試しあれ。てみてください。
●SHOP INFO
富臨飯店
住:香港銅鑼灣告士打道255-257號信和廣場一樓
TEL:(+852)28698282
営:11:30~14:30、18:00~23:00
休:なし
アクセス:MTR港島線銅鑼湾駅C出口から徒歩2分
(撮影・文◎土原亜子)