●蕎麦が好きでお酒が好きな小宮山雄飛が、美味しいお蕎麦屋さん、そして蕎麦屋呑みの魅力を伝える連載。今回は牛込神楽坂にある蕎麦呑みの名店『蕎麦の膳 たかさご』です。

 明治期から続く牛込神楽坂の名店『蕎麦の膳 たかさご』のご主人・宮澤佳穂(みやざわよしお)さんは、実は僕の“蕎麦の師匠”なんです。

 蕎麦の師匠ってどういうこと? と思うかもしれませんが、実は僕は、宮澤さんの教室に通って蕎麦打ちを直接学んだので、文字通り僕にとっての“師匠”というわけです!

【小宮山雄飛 蕎麦呑みの名店】老舗『たかさご』で味わう唯一無二のそば会席。「たかさごさんは僕の“蕎麦の師匠”です」
三代目・宮澤佳穂さん(右)と四代目・宮澤和彦さん(左)

 昭和初期まで機械打ちだったお店ですが、3代目である現ご主人の代から手打ちの十割蕎麦にこだわり、蕎麦粉も農家さんから直接蕎麦の実を仕入れ、お店で自家製粉されています(ちなみにご主人は教室で蕎麦打ちを教える時も、すべて十割にこだわっています)。

【小宮山雄飛 蕎麦呑みの名店】老舗『たかさご』で味わう唯一無二のそば会席。「たかさごさんは僕の“蕎麦の師匠”です」
落ち着いた雰囲気の店内風景

 蕎麦のみならず、食そのものへのこだわりの強いご主人だけに、こちらに来たらまずは蕎麦前もゆっくり楽しみたい。この日いただいたのは、お昼限定の店主おまかせ会席コース(8800円)。

 まずはお酒、なんと“酒造りの神様”とも呼ばれる、農口尚彦さんのお酒を直接仕入れているんだから、美味しくないわけがない!

 その農口尚彦研究所の本醸造・無濾過生原酒プレミアムヌーヴォーは、軽やかな口当たりながらしっかりと芯のある美味しさで、アルコール度数19%と高めなので、ガツンとパンチもあります。

【小宮山雄飛 蕎麦呑みの名店】老舗『たかさご』で味わう唯一無二のそば会席。「たかさごさんは僕の“蕎麦の師匠”です」
おいしい蕎麦前料理を至極の日本酒と楽しむ

 そんなお酒に合わせるのは、ホテルオークラで13年の和食調理経験を持つ4代目・宮澤和彦さん(息子さん)のお料理。まずはこの季節ならではの「ハモの梅肉和え」。

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ハモの梅肉和えはコースの一部。季節ごとに料理が変わる

 しっかりと骨切りされたハモ自体の美味しさもさることながら、白髪ネギかと勘違いしてしまうほど細く切られたキュウリと、上品な味の梅肉との相性は抜群。

 ひと言で蕎麦前料理とくくってしまうのも申し訳ないほど、完成された和食の一品料理です。

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思わず笑みがこぼれるおいしさ

 つづいて蕎麦屋の定番、厚焼玉子。定番といっても、当然素材1つ1つへのこだわりが。長野県の『みたぼら農園』の平飼い有精卵を使用していて、とにかく玉子の味が濃い! 優しい甘さはきび砂糖、そこに出汁の美味しさが合わさって、これまた最高の一品。

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厚焼玉子(単品は1000円)

 さらにハモのお吸い物。江戸の蕎麦屋さんで、ハモのお吸い物が飲めるなんて、なんとも贅沢! 葛で軽くコーティングされた表面が、トゥルっとしていて、食感も楽しい。

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ハモの吸い物(コースの一部)
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「ウマッ!」思わず声が漏れるハモの吸い物

絶対はずせない名物「そばがき」

 そして、こちらのお店に来たら絶対に頼んで欲しいのが、「そばがき」。

【小宮山雄飛 蕎麦呑みの名店】老舗『たかさご』で味わう唯一無二のそば会席。「たかさごさんは僕の“蕎麦の師匠”です」
そばがき(2250円)。店のそば粉はすべて店主が厳選した国産玄そばを石臼でひき、製粉しています

 見てください、この見事なかたち!

 ご主人曰く、そばがきとはそば粉を「掻く(かく)」ことと、柿の葉の「かき」を合わせたのが名前の由来だから、このように柿の葉の形をしているのが正式なんだと。もちろんこの形にするのにも技術がいります。

 そして、驚くべきはそのかたち以上に、そばがきの味! 蕎麦粉はその日の蕎麦と同じものを使っているそうですが、食感がとにかくすごい。

【小宮山雄飛 蕎麦呑みの名店】老舗『たかさご』で味わう唯一無二のそば会席。「たかさごさんは僕の“蕎麦の師匠”です」
ふんわりともっちりが同居する食感は唯一無二[食楽web]

 ふわっとろ、もっちりの絶妙な口当たりで、食べていてうっとりしてしまう美味しさ。

 作り方は、蕎麦粉を水に溶いて、ガンガンに強火にした鍋で、とにかくかき混ぜる。弱火でやるとこの食感は出ない、かといってのんびりしていると強火だからすぐに焦げてしまう。だから、とにかく一心不乱にかきまぜないといけない。

 しかも時間が経てばどんどん食感が悪くなってしまうので、注文が入るたびに一品一品その“一心不乱”をやらないといけないという、実は蕎麦屋泣かせの手間のかかる一品なのです。

【小宮山雄飛 蕎麦呑みの名店】老舗『たかさご』で味わう唯一無二のそば会席。「たかさごさんは僕の“蕎麦の師匠”です」
試食した取材陣からも歓声が上がるほどの旨さのそばがき

 でも、その労力がしっかりと味に出ています! そばがき用に、通常の蕎麦用より濃いめになっているつゆに付けると、もう最高の味! 一心不乱になってくれて、ありがとうございます!

 締めは「竹 天せいろう」。

本日の蕎麦は、秋田の八峰町の蕎麦と、茨城県の那珂市で採れる蕎麦を、どちらも農家さんから直接買い付け、独自にブレンド。十割らしいしっかりした蕎麦の香りを感じつつ、コシも喉越しもしっかりとある、見事な江戸の蕎麦です。

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竹 天せいろう(2100円)

 出汁の旨みと、辛さ・甘さのバランスが絶妙なつゆにつけると、スルスルといくらでも食べれてしまいます。

 ご主人の蕎麦打ちを間近で何度も見させてもらった生徒だから言えますが、この美味しさの奥には、それはもう長年の技術が詰まっているのです。カラッと揚がった天ぷらも美味しく、とにかく幸せな時間でした。

【小宮山雄飛 蕎麦呑みの名店】老舗『たかさご』で味わう唯一無二のそば会席。「たかさごさんは僕の“蕎麦の師匠”です」
そば湯を運んできた四代目と一緒に

 しっかりと蕎麦前と蕎麦を楽しんだ帰り道、不思議なことにあれだけ色々食べて、そしてお酒まで呑んだのに、実に体が軽いんです。

 食の安全を考えて、産地や製法までこだわった食材を使っているだけあって、食後の胃の重さがまったくなく、食べ終わった後の方がむしろお腹が空いてくるほど(笑)。

 美味しくて健康的なお蕎麦を食べに、みなさんも牛込神楽坂へぜひ! 宮澤師匠、ありがとうございました!

(撮影◎橋本真美)

●SHOP INFO

【小宮山雄飛 蕎麦呑みの名店】老舗『たかさご』で味わう唯一無二のそば会席。「たかさごさんは僕の“蕎麦の師匠”です」

蕎麦の膳 たかさご

住:東京都新宿区中町22
TEL:03-3260-3908
営;11:30~14:30、17:30~20:30(各30分前LO)
休:火曜・第2土曜

●著者プロフィール

小宮山雄飛

ホフディランのVo&Key担当。ミュージシャンの傍ら、グルメ番長として食のシーンでも活躍し、様々な雑誌やWEBサイトでの連載、レシピ開発なども行う。著書には『旨い!家カレー』『レモンライス レシピ』『小宮山雄飛 今日もひとり酒場』など。テレビ、ラジオ番組の出演なども多数。

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