一部でプロ級の舌を持つと噂のタクシー運転手・荒川治さんに教えてもらう「東京B級グルメ案内」。今回は、荒川さんが大好きな、街の天ぷら屋さん『天鈴』へ。

 天ぷら屋さんといえば、高級店やリーズナブルなチェーン店などいろいろありますが、私が大好きなのは“街中華”ならぬ“街天ぷら”。天丼が食べたくなったら、真っ先に板橋区・小豆沢にある『天鈴』さんに並びます。こちらは、創業54年の老舗ですが、気軽に行けて、リーズナブルで、しかも唯一無二の味を楽しめるお店だからです。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 死ぬまでに一度は食べておきたい天ぷら屋『天鈴』(板橋区)

 お昼に行くと驚くかもしれませんが、住宅街の片隅で行列ができているんです。ほぼ毎日、開店前からお客さんが並んでいるので、昼営業の閉店20分くらい前には並んでおくのが賢明です(ちなみに夜は予約のみです)。

 多くのお客さんは、私と同じように「天丼」(850円)がお目当てです。これは、私の見解ですが、死ぬまでに一度は食べておいたほうがいいと思う「天丼」です。どうしてかって? それは、実際に食べてみるとわかるのですが、いろんな意味で、旨いってこういうことだなぁと、しみじみ感じるからです。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 死ぬまでに一度は食べておきたい天ぷら屋『天鈴』(板橋区)

てんこ盛りなのに、あっさりしている天丼

旨い店はタクシー運転手に訊け! 死ぬまでに一度は食べておきたい天ぷら屋『天鈴』(板橋区)

 お昼はご年配のお父さんとお母さん、そして娘さんの3人で店を切り盛りしています。娘さんがお客さんから注文をとり、それをお父さんに伝え、お父さんは天ぷらを揚げ、継ぎ足しのタレにさっとくぐらせると、お母さんがご飯をよそって仕上げて、『天鈴』の「天丼」が完成します。

 正面から見ると、手前に大きなイカ天が敷かれ、その上にシイタケ天、インゲンのかき揚げ、海苔天。そしてその後ろには、大きなエビ2本が隠れています。まさに、天ぷらてんこ盛りです。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 死ぬまでに一度は食べておきたい天ぷら屋『天鈴』(板橋区)

 一つひとつの天ぷらでよく見ていただきたいのは、まず衣です。素材に合わせて絶妙な衣の量をまとわせてあり、サクサクッとした食感で、さっぱりしていて、何も言うことがないほどパーフェクト! ちなみに使っている油は、ゴマ油と大豆油だそうです。

 そして、創業以来継ぎ足して使っているという天丼のタレは、甘すぎず、あっさりしているのですが、ものすごく深みがあって。また、お母さんが炊いたご飯は、米粒一粒ひと粒の食感がしっかり残り、天ぷらの油とタレの染み具合が最高です。量はたっぷりですが、女性の方もぺろり。最後までくどくなく、また、食べ飽きることなく軽快に食べ進められるんです。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 死ぬまでに一度は食べておきたい天ぷら屋『天鈴』(板橋区)

ほのぼのとした、温かなもてなし

旨い店はタクシー運転手に訊け! 死ぬまでに一度は食べておきたい天ぷら屋『天鈴』(板橋区)

『天鈴』さんの魅力は「天丼」だけではありません。先ほどお話したように、ご夫婦と娘さんの3人の連携プレーが絶妙で、とても心が温まります。それはまるで、昭和の映画やドラマのワンシーンのようにほのぼのとしていて、大好きなんです。

 私は、たまに「定食」800円も食べます。注文時に、苦手な「なす天は抜いてください」なんてことを言うのですが、そうしたわがままを聞いてくださり、別の野菜天を臨機応変に入れてくれます。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 死ぬまでに一度は食べておきたい天ぷら屋『天鈴』(板橋区)

 この時はほぼ毎回、「穴子天」250円と「かき揚げ天」120円を必ず追加オーダーします。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 死ぬまでに一度は食べておきたい天ぷら屋『天鈴』(板橋区)

 ご主人は、高齢にも関わらず、いまでも週に数回、築地に行かれ、新鮮な魚を仕入れています。ぜひ、その天ぷらを塩で味わってみてください。

 実は昨年(2017年)、『天鈴』さんは、数ヶ月、休業されていた時期がありました。ファンのお客さんも私も皆、「どうしたんだろう」と、ものすごく心配していたんです。聞くと、ご主人がお怪我をされたそう。

 でも、こうしてまた前と同じように再開していただき、お父さんもお母さんも娘さんも皆、元気そうでホッとしました。

 ご主人とお話をしていると「休んでいたのに、いまもたくさんの方が並んでくださって本当にありがたい。でも、年寄りなんで、現状維持くらいで頑張っていきたいですね」とおっしゃっていました。しかし、やはり美味しすぎて、つい、私もこうして紹介しちゃいました。

 ぜひ、『天鈴』さんの心温まる「天丼」を楽しんできて欲しいと思います。

 最後に1つだけ。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 死ぬまでに一度は食べておきたい天ぷら屋『天鈴』(板橋区)
旨い店はタクシー運転手に訊け! 死ぬまでに一度は食べておきたい天ぷら屋『天鈴』(板橋区)

 ちなみに、夜に予約するとこんな素晴らしい料理が食べられます!

(撮影・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

旨い店はタクシー運転手に訊け! 死ぬまでに一度は食べておきたい天ぷら屋『天鈴』(板橋区)

店名:天鈴

住:東京都板橋区小豆沢1丁目6-16
TEL:非公開
営:12:00~14:00
  18:00~22:00(夜は要予約)
休:日・祝

●プロフィール

荒川治

東京都内在住のタクシー運転手。

B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。中年になってメタボ率300%だが、「死神に肩をたたかれても、美味いものを喰らって笑顔で死んでやる」が信条。写真検索で美味しそうなモノを選び、食べに行って気に入ればとことん通い倒す。でもじつは、自分で料理を作ることも好きで、かなりの腕と評判。

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