旅慣れた人は「旨いものが食いたければ、タクシードライバーに聞くのが一番」と言います。というわけで、B級グルメに詳しい現役運転手の荒川治さんに聞いてみました。

はじめての塩ラーメンに衝撃!

 今回ご紹介するのは、埼玉県新座市にある超人気ラーメン屋『ぜんや』です。私がお店の存在を知ったのは4年前のとある深夜。新宿から「新座の野火止(のびどめ)」までご乗車いただいたお客さんの情報です。

 ちなみに、こうした深夜&遠距離のお客様に出会えるのは、タクシー運転手にとっては非常にラッキーです。そのお客様とついラーメン話が弾み、「野火止の交差点近くに、開店以来行列が絶えないラーメン店がある」という情報を教えてもらいました。それが『ぜんや』でした。

 後日、私用で埼玉方面に行った際、そのことを思い出して『ぜんや』に寄ってみたら、思った以上の長い行列。私も並んだのですが、残念なことに前方でスープが無くなり終了、結局、食べられなかったんです。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 塩ラーメンの最高峰、埼玉・新座市『ぜんや』に19年間、行列ができ続ける理由

 こうなると私の“食いしん坊魂”に火が付き、すぐ翌日に再チャレンジ。開店前から並んで食べることができました。そして大衝撃を受けたのです。それは今まで食べたことがない「すごい、うまい塩ラーメン」としか言いようがありませんでした。

 この日を境に、他店でも「塩ラーメン」を食べる機会が増えました。

でもやっぱり『ぜんや』の味が忘れられないんですね。そこで、機会があれば新座に行くようになりました。そしてある時、ご主人とお話しする機会があり、ここの塩ラーメンの奥深さを思い知ることになったんです。

あるようでない唯一無二の塩ラーメン

旨い店はタクシー運転手に訊け! 塩ラーメンの最高峰、埼玉・新座市『ぜんや』に19年間、行列ができ続ける理由

『ぜんや』の味は創業以来たった1つ。塩ラーメンです。「ぜんやラーメン」(750円)を基本に、チャーシュー増しの「チャーシューメン」(950円)、メンマ増しの「メンマラーメン」(900円)、両方増しの「チャーシューメンマラーメン」(1,100円)がありますが、すべて塩味です。ちなみに大盛りは全て100円増しです。

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 スープの色は透明な黄金色。麺は濃い目の黄色い縮れ麺。そこにチャーシューが2種類(豚バラ肉と豚モモ肉)、ほうれん草、ネギ、メンマが入っています。一見、どこにでもありそうなラーメンですが、一口スープを飲み、麺をすすれば、他店では絶対に味わえないことがわかります。

 塩の尖り感がなく、まろやかで、とにかく味わい深いスープ。そして、これは誰もが感じるのですが、「なんとなく懐かしい」。

でも、いろいろな塩ラーメンを食べ歩きましたが、なかなかそう思う味はないんですよね。懐かしい=やさしい味なんだと思います。塩は、醤油や味噌といった旨み成分が多い調味料とは違うので、その分、スープの味がダイレクトに伝わる。おそらくスープ作りは非常に苦労されたと思うのです。

研究熱心な元・公務員の店主

旨い店はタクシー運転手に訊け! 塩ラーメンの最高峰、埼玉・新座市『ぜんや』に19年間、行列ができ続ける理由

「豚ガラスープ×塩」の難しい組み合わせ

『ぜんや』がオープンしたのは19年前の1999年。ご主人の飯倉洋孝さんは、元・経済産業省(当時の通産省)の職員でしたが、国家公務員としてのキャリアを捨て、ラーメン界に入った面白い方なんですよ。

「開店当初は、醤油や味噌、豚骨はあっても、塩ラーメン専門店はほとんどなかったんです。何も知らないものですから、塩なら簡単そうだなと、ラーメン修業もせずに独学で始めたのです。が、案の定、とても難しかった」と笑います。

旨い店はタクシー運転手に訊け! 塩ラーメンの最高峰、埼玉・新座市『ぜんや』に19年間、行列ができ続ける理由

「最初は鶏ガラでとろうとしていたスープですが、どうも思ったようなコクが出ない。そこで豚ガラでとると、今度はちょっとキツくて食べにくい。目指していたのは、毎日食べられるラーメンだったので、コクがありつつさっぱり感を追求した結果、ダブルスープに行きつきました」と飯倉さん。

 今は、豚ガラを弱火でゆっくり、じっくり煮込んで透明なスープをとり、そこに、別鍋で濃い目にとった昆布出汁を合わせているそうです。肝心の塩は、様々な塩を取り寄せて試した結果、甘味とコクが特徴の中国福建省産の自然海塩にたどり着いたと言います。

「オープンして1カ月ぐらいして、TVに出る機会があり、その後もいろんなメディアにご紹介していただき行列していただけるようになりました。一過性の人気だろうと思っていたのですが、おかげさまで、何年間もこんな辺鄙なところまで来て並んでいただいているんです。本当にありがたいことです」

 ご主人の穏やかな人柄と同じ、優しい味の塩ラーメン。ぜひ食べに行ってみてください。

(撮影・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

旨い店はタクシー運転手に訊け! 塩ラーメンの最高峰、埼玉・新座市『ぜんや』に19年間、行列ができ続ける理由

店名:ぜんや

住:埼玉県新座市野火止4-10-5
TEL:048-479-6664
営:11:30~スープがなくなり次第終了
休:火・水

●プロフィール

荒川治

東京都内在住のタクシー運転手。B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。中年になってメタボ率300%だが、「死神に肩をたたかれても、美味いものを喰らって笑顔で死んでやる」が信条。写真検索で美味しそうなモノを選び、食べに行って気に入ればとことん通い倒す。でもじつは、自分で料理を作ることも好きで、かなりの腕と評判。

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