パリで話題を集め、日本でも絶賛拡散中。蔵の威信をかけた「加温熟成解脱酒」

 冬真っ只中。

日本酒は、いま新酒シーズンにあります。搾りたての日本酒が生酒として世の中に出回るなか、今回お届けするのは、新酒の真逆、熟成を重ねたお酒について。いわゆる熟成酒や古酒とも呼ばれるお酒なのですが、これが普通ではないのです。その名も「加温熟成解脱酒」。聞いたこともない、そのお酒がいま、パリのトップシェフの間などで話題を集めているのだそう。加温熟成とはなにか? 解脱酒とはなにか? その真相を紐解きました。

パリで大人気! ミシュラン三ツ星のシェフも惚れ込む日本酒「加温熟成解脱酒」とは?

 秋田酒類製造という酒蔵をご存知でしょうか? 秋田市に本社を持ち、1944年、秋田市周辺にある12の酒造家が合同で発足した酒蔵です。「酒質第一」を社是として、県内を中心に栽培される良質な米と、秋田の名水、長年培われてきた技術によって『高清水』をはじめとした銘酒を作り続けてきました。

 そんなどちらかといえば、職人気質な酒蔵が、新たに作ったお酒が「加温熟成解脱酒」です。はじめて、耳にする名前ですが、このお酒、日本での知名度はまだまだながら、ワインの国、フランス・パリでは、ミシュラン三ツ星のトップレストランのシェフやソムリエが一目を置く酒として、いま話題となっているそうなのです。
 そう聞けば、ますます気になるその正体。「加温熟成解脱酒」の謎がいま明らかに!

逆転の発想から生まれた挑戦

パリで大人気! ミシュラン三ツ星のシェフも惚れ込む日本酒「加温熟成解脱酒」とは?

 まず、その「加温熟成」とは何かを説明しましょう。日本酒は一般的に貯蔵・保存する際は、温度変化の少ない冷暗所が好ましいとされています。

急激な温度変化、紫外線の照射、高温度帯での保存は酒質の劣化につながることも少なくないからです。
 しかし、秋田酒類製造はそのタブーにあえて立ち向かったのです。それは、1944年の発足から、ひたすら旨い酒、新しい酒を追求し続けてきた秋田酒類製造の矜持でもありました。
 そして、秋田酒類製造が生み出した新技術が、強制的に日本酒を加温させることで、劣化ではなく熟成を進めるという境地にたどり着くことになります。

熟成感とフレッシュさの同居。新技術が可能にした「加温熟成解脱酒」の境地

パリで大人気! ミシュラン三ツ星のシェフも惚れ込む日本酒「加温熟成解脱酒」とは?

 日本酒に詳しい方なら解脱が何を意味するかわかるでしょう。日本酒を熟成させると、その中に滓(おり)が発生します。このいわゆる熟成滓が発生することを、「解脱」というのです。この解脱はまさに、優れた熟成酒の証。つまり、「加温熟成解脱酒」は、あえて日本酒を加温熟成させることで、解脱に成功したお酒のことをいうのです。しかし、「加温熟成解脱酒」には滓は含まれておりません。なぜか? それは「加温熟成解脱酒」の酒質に答えがありました。

 新技術を導入し、半年間、加温熟成を続けることで、10年クラスの古酒と同じ熟成感が生まれる「加温熟成解脱酒」。しかし、10年古酒のような熟成香と艷やかな色合いを放ちつつも、その味わいは果実を想起させる酸味があり、熟成味というよりフレッシュさを感じさせる味わいなのです。熟成感とフレッシュな味わい。その相反する要素がこの酒に同居しているからこそ、秋田酒類製造はあえて、そのフレッシュさをいかすために、熟成滓をろ過させたのです。そう他の熟成酒が到達できない境地に、「加温熟成解脱酒」は到達した酒だったのです。

トップソムリエも絶賛。試飲会でベールを脱いだ「加温熟成解脱酒」

パリで大人気! ミシュラン三ツ星のシェフも惚れ込む日本酒「加温熟成解脱酒」とは?
パリで大人気! ミシュラン三ツ星のシェフも惚れ込む日本酒「加温熟成解脱酒」とは?

 さる1月25日、そんな「加温熟成解脱酒」のペアリング試飲会が開催されました。会場となったのは、モダンベトナミーズで知られる外苑前『An Di』。ソムリエは『銀座レカン』出身のオーナー・大越基裕氏が務め、秋田酒類製造の取締役社長・平川順一氏や生産本部長の古木吉孝氏などの挨拶の後に、ベトナム料理3品とのペアリングを提案してくれました。

パリで大人気! ミシュラン三ツ星のシェフも惚れ込む日本酒「加温熟成解脱酒」とは?

 口火を切ったのは、タマリンドソースでいただく生春巻き。アナゴとマンゴー、ヘベスという柑橘が渾然一体となった味わいに、大越氏が合わせたのは7℃に冷やした「加温熟成解脱酒」。キリッと味わいが締まり、“フレッシュな熟成感”が生春巻きに寄り添います。

パリで大人気! ミシュラン三ツ星のシェフも惚れ込む日本酒「加温熟成解脱酒」とは?

 続くは、グリルしたイカ。ブールブランソースのまろやかさを、今度は温度帯を上げた「加温熟成解脱酒」で迎え撃ちます。すると、人肌にまで温められた「加温熟成解脱酒」が新たな一面を見せてくれました。爽やかな酸は感じさせつつも、甘みや旨みといった要素が丸く溶け合い、絶妙なバランスとなるのです。柔らかなイカの食感とソースのまろやかさのニュアンスに、「加温熟成解脱酒」がしっかりと結びつく印象でした。

パリで大人気! ミシュラン三ツ星のシェフも惚れ込む日本酒「加温熟成解脱酒」とは?

 最後に登場したのは、鴨肉のロースト。「加温熟成解脱酒」を熱燗まで温度帯をあげることで酸を際立たせ、鴨の脂をスパッと切る狙いでした。鴨肉の鉄と、「加温熟成解脱酒」の酸による抜群の相性は、熱燗にして個性際立つ「加温熟成解脱酒」の新たな一面を見せてくれました。

 三者三様の料理と酒の素晴らしきマリアージュ。何より驚かされたのは、半年ほど寝かせただけで10年古酒と変わらない「加温熟成解脱酒」の熟成感。そこに相反するフレッシュさが感じられる奥行きのある味わい。さらに、冷やしても、常温でも、燗にしても、その魅力を増す懐の深さ。

日本酒のタブーへの挑戦が切り拓いた、「加温熟成解脱酒」の境地をぜひ楽しんで下さい。

●DATA

加温熟成解脱酒

http://www.takashimizu.co.jp/products/html/ginjoh/211400980.html

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