突然ですが、「ホルモサ」という言葉をご存知でしょうか? これは昭和中頃に流行った言葉で、実は台湾を指す言葉。ポルトガル語で「緑の美しい島」(正式にはフォルモサ、Formosa, 福爾摩沙)を表すそうです。

 このホルモサを料理にした老舗が、東京・日本橋にあります。それが『元祖紙やきホルモサ本店』。昭和らしい雰囲気を持つこの料理は、昭和30年日本橋にて初代の櫻井道夫さんが考案した料理で、金網に和紙をのせ、そこに特製のジンギスカンダレを張ってラムやマトンや豚肉、イノシシ肉や野菜などを煮て食べるオリジナル料理とのこと。

 これは一度ぜひ食べてみたい! ということで早速行ってきました。

スパイスとナッツとハーブと羊のオリジナル料理

昭和30年から続く謎の羊料理「ホルモサ」を東京・日本橋で食べてきた

 まず、「なぜホルモサという料理名なんですか?」とこちらのお店の3代目に伺うと、「初代が当時の流行り言葉を店名にしたんですが、料理との関係は一切ありません」とバッサリ! 電気ブランの名前の由来(昔は「電気」が最新の言葉だった)のような理由でつけられたとのこと。このネーミングといい、その独創的な不思議な味と紙焼きという料理法も気になります。

 料理の画像を見ていただくと、味噌煮込みっぽいイメージかもしれませんが、まったく違うのです。味噌の「み」の字も感じません。想像をいい意味で裏切られます。実はこのスープ、野菜ジュースにたっぷりのナッツ、スパイス、ハーブを加えて作る、3代続く秘伝のスープで、野菜や果物は28種類、スパイスやナッツは数10種類を配合しているとのこと。

昭和30年から続く謎の羊料理「ホルモサ」を東京・日本橋で食べてきた

 今回いただいたのは「紙やきセット(マトン)」1人前1480円です。風味豊かな独特のスープに合うよう、こちらでは豪州産のマトンにこだわっています。

余談ですが、羊肉は国やエリアごとに、風味に大きな違いが出てきます。オーストラリア産は他の国に比べると羊の香りがしっかりと強めで、スパイスや強めの味付けにも負けません。納得のチョイスだと思います。

ラムとマトンとホゲットの違い
ラム(生後1年未満の羊)…柔らかく羊の香りが控えめ
ホゲット(生後1年から2年未満の羊)…ラムの良さと、マトンの良さを併せ持つ
マトン(生後2年以上の羊)…食べごたえがあり、羊の香りが強い

 食べてみると、野菜やフルーツがすり潰されたザラッとした感じがあり、ナッツとスパイスが、創作カレーのような雰囲気も醸し出しています。本当に奥深く独特すぎて、うまく説明できませんが、一つはっきりしているのは、ものすごくご飯に合う! ということ。独特のスープに店員さんがこれでもかと野菜とマトンを入れて煮込んでくれるのですが、スープと野菜とマトン、そしてスパイスが渾然一体となり、おかずにピッタリの味となるのです。

昭和30年から続く謎の羊料理「ホルモサ」を東京・日本橋で食べてきた

 また、卓上にたくさん並んでいる調味料での味変も楽しいんです。豆板醤を入れると中華風の味に、カレー粉だと本当にカレー風に、酢をかけるとさっぱりします。そのほかニンニク、一味、胡椒と多種多様なスパイスが置いてあります。世界で唯一、自分だけの味が作れるのも面白いポイントです。

 そして、前述の通り、金網に和紙をのせて直火にかけるという独特の料理法もこのお店の特徴。この技法がいかに生まれたのかは残念ながら伝わっていないそうですが、「初代は根っからの江戸っ子だったので、日常にはないエンターテインメント性を求める“粋”の精神から生まれたんじゃないでしょうか」と、3代目。

このあたりも、好奇心旺盛で新しもの好き、そしてみんなに上昇志向があって勢いのある高度成長期の日本らしい雰囲気を感じますよね。

 昭和30年代の古き良きニッポンの雰囲気を残しつつ、現代でもめちゃくちゃ旨い料理「紙焼きホルモサ」。文字や写真では表せないその味、ぜひ体験してみてください。

●SHOP INFO

昭和30年から続く謎の羊料理「ホルモサ」を東京・日本橋で食べてきた

店名:元祖紙やきホルモサ本店

住:〒103-0023 東京都中央区日本橋本町1-10-2
TEL:03-3272-1191
営:11:00~14:00(L.O. 13:30)
  17:00~23:00(L.O. 22:00)
休:土・日・祝日、GW、お盆、年末年始
http://horumosa.com/

●プロフィール

菊池一弘
羊齧協会主席。羊肉を常食する岩手県遠野市出身の父の影響で、羊肉料理に親しんで育つ。北京留学中に現地の味に触れ、その魅力に開眼し羊好きの消費 者団体「羊齧協会」を結成。

本業は、イベントの開催・運営、場作りのプロとしてのアドバイザー業務などに携わっている。最近は四川フェスの運営団体麻辣連盟の幹事長も兼務。監修書籍に「東京ラムストーリー」(実業之日本社)、「家庭で作るおいしい羊肉料理」(講談社)など。
http://hitujikajiri.com/