「軽く一杯」という時、焼鳥はとても重宝する食ジャンルです。ビール、日本酒、ワインなど様々なお酒と相性がよく、片手で食べられ、量の調節も自由自在。
しかし、その気軽さとは裏腹に、焼鳥に関する技術は非常に難しく、鰻のように、「串打ち三年、焼き一生」と言われるほど。まさに生涯かけて習得する職人技です。今回ご紹介する『酉たか』は、まさにその職人技の結晶ともいうべき焼鳥を食べさせてくれるお店です。

まず『酉たか』の特長は焼鳥の種類の多さ。希少部位を含め、その数、なんと常時30種類以上。とくに「ちょうちん」、「きんちゃく」、「おたふく」など耳慣れない“鶏のもつ”も沢山あります。これは朝〆の新鮮な鶏を仕入れていることと、それを美味しく調理できる高い技術があるという何よりの証。

入店してまず目に飛び込んでくるのは、仕込みの終わった串の並ぶガラスケース。ムチムチの鶏肉がギュギュッと串に刺さり、ツヤツヤと光を放っています。これを見ただけで、寿司屋のネタケースを前にしたときのように、思わずうっとりしてしまいます。
言わずもがな、火入れへのこだわりも相当なもの。焼き場では、料理長の小澤さんが串から目を離すことなく絶えず手を動かし、紀州産備長炭で鶏肉を焼き上げていきます。
職人技を尽くした串焼きばかりなのですが、嬉しいのはそのお値段。串7本コース2800円、串10本コース3500円というお手頃価格なのです。そこで今回は、その希少部位の焼鳥の魅力をご紹介したいと思います。
こだわりの焼鳥の味わいは?

この日の「おまかせコースたか(7本)」は、みさき、ソリレース、ひざがしら、ふりそで、背肝、ちょうちん、野菜串のオクラ。普段はなかなか食べられない希少部位ばかりです。そこで、料理長の小澤さんにお話を聞きながらいただきました。

「“みさき”とは、雌の尾のことです。雄の尾の“ぼんじり”に比べると、身がキュッとしまっているのが特徴です。その旨みを感じていただくために塩と香草を練り込んだガーリックバターで味付けしています」(小澤料理長・以下同)
いただいてみると、表面のパリッとした皮目。プリッとした肉の食感。とてもジューシーなのに、“ぼんじり”ほど脂っぽさはなし。
「“ひざがしら”は、鶏の膝軟骨の周りのお肉。非常に小さな部位なので、1串に8~10羽分を使用しています。脂の旨みが濃いので、こちらは生醤油でさっぱりと仕上げています」

そして最も衝撃的だったのが「ちょうちん」です。見た目のインパクトも凄いのですが、食感がとても面白いんです。
「“ちょうちん”は、未成熟卵と卵管。2つの食感を楽しんでもらうために、オリジナルの焼き器を使って、火入れに差をつける工夫をしているんです。オススメの食べ方は、まず、黄身を1つと卵管部分を半分お口に入れていただき、2種類の味わいを楽しんでみてください」と小澤さん。
言われた通りに食べてみると、黄身がプチンと弾け、中から半熟の卵黄がとろりと広がります。続けて、卵管部分の弾力のあるクニャリとした食感と旨みが続きます。この2つが口の中で合体すれば、もう“最高”のひと言。

このように、7本の串それぞれに、職人の技と美味しさへの追求が詰まっていて、感動しっぱなし。

そして、今年の秋冬の『酉たか』の魅力は焼き鳥だけではありません。なんとオープン7年目にして初めて、鍋料理をスタート。それが「秋田県産 比内地鶏 発酵白菜鍋」(1人前3800円)です。

この鍋も焼鳥屋のこだわりがギュッと詰まっています。まず濃厚な鶏白湯スープ。そこに炭火で焼いた比内地鶏のもも肉や胸肉。さらに焼鳥で大人気のつくねもたっぷり入っています。
また、油揚げは、大正14年創業の歴史を持つ福井県の高級豆腐・油揚げの老舗『谷口屋』のもの。春雨は、奈良の昔ながらの天日干しの戎国産はるさめ。
ちなみにこの鍋は1人前から注文可能なので、焼鳥串のコースと鍋の両方をオーダーしてシェアするのもオススメ。ぜひ、今年の秋の夜長は、鶏と日本酒を思いっきり堪能してみては?
(撮影・文◎土原亜子)
●SHOP INFO

店名:酉たか
住:東京都世田谷区玉川3-21-21 ハイムカワベ1F
TEL:03-3700-0403
営:平日17:00~22:00、土日祝16:00~22:00
休:無休(年末年始・市場休場臨時休業あり)
http://toritaka.com