東京の巨大台所として知られる豊洲市場。ここには全国あるいは世界中から様々な魚介類が届き、それらを仕入れる業者が複数います。

日々仕入れた魚を、飲食店などに販売し続けているわけで、一般消費者はもちろんこだわりの飲食店の店主などをもうならせるほど高い眼力・知識をお持ちです。今回はそんな鈴木さんに、豊洲市場における自身の仕事の様子と、「本当にうまい魚を出す店」について話を聞きました。
多種多様の魚種を仕入れ、主に飲食店におろすのが鈴木さんの仕事!

豊洲に限らず、全国の市場では「仲買」「荷受」など、様々な業者がいます。素人にはこの構成が複雑で今一つ全体像がつかみにくいきらいがあるのですが、まず鈴木さんに市場における仕入れの流れ・業者の区分を聞きました。
「魚にまつわる各業者からの流通経路をザックリ大きく分けると、(1)漁師さん・生産者産・荷受けさん→(2)仲卸さん・買参権→(3)飲食店さん。のような流れになります。
このうち(2)にあたるのが我々です。ただし、少々難しいのが『仲卸』さんが、市場の中で売買できる一方、我々『かいせい物産』では『買参権』という『買う権利』のみを持っている業者で、市場内で『売る』ことはできません。しかし、市場の外には売ることができるため、主に飲食店さんなどに魚を卸しています」(鈴木さん)
『かいせい物産』で日々扱う魚種は多岐にわたるそうです。
「マグロなどの大物の魚種はもちろん、小物の魚、干物まで多く扱っています。我々は前述(3)の荷受けさんから魚を買うわけですが、『良い魚』を見極めながら『今日はこれが多く入ってるから、これくらいの値段でどう?』『いやもっと安い価格で』といった交渉をし、仕入れています。
外食の需要減少に加え、魚の高騰のWパンチで厳しい時期…
あらゆる判断で、良い魚を少しでも安く飲食店に卸そうと奮闘する鈴木さんですが、ここで気になるのがコロナ禍での外食需要の激減です。鈴木さんたちの業者も大きな打撃を受けたそうですが、それに加えて「ある問題」も近年高まっているそうです。
「飲食店さんの需要が減ったことの打撃はありました。特にエビ、カニ、ホタテといった冷凍で流通するものは、飲食店さんが動かなくなると、とたんに扱いにくくなります。高額で賞味期限もあるため扱いにくいものでした。また、最近ではコロナ禍の影響で飛行機や船の本数が減っていることや、たとえば海外の人たちが旅行ができなくなった一方、魚食支持の高まりなどもあり、各国に対して日本が買い負けてしまい仕入れしにくくなっている傾向があります。あらゆる魚種が値上げされていますので、以前よりも仕入れがやりにくくなっています」(鈴木さん)
厳しい時代でも絶対に「良い魚」を見極めつつ、卸し先の飲食店とも連携を密に!

こういった様々な事情がある中、鈴木さんは「より良い魚」を仕入れる一方、卸先である各飲食店とのコミュニケーションをこれまで以上に密にしているそうです。
「豊洲に入ってくる魚が必ず『良い魚である』とは限りません。例えば、水揚げされたもののすぐに豊洲に送れず、1日後に入ってくる魚(浜止まり)などです。これは実際に魚を見てみないと判断できません。こういった中で『本当に鮮度が良い魚』を見極めて買うようにしています。
また、我々の卸し先の飲食店さんは、たとえば居酒屋チェーンさんだと、ある程度定番の魚種を揃えておかないといけませんが、そうではなく『今日の良い魚』を優先的に買ってくれる飲食店さんとは、特に連携を密にさせていただくようにしています。
こういった理由から、卸し先の飲食店さんの中でも特に懇意にお付き合いいただけるお店の方とは一緒に視察に行ったり、魚の勉強をしたり、反省会をしたりしています。こうなると、我々が逆に『今この魚が残っちゃってる。
また、鈴木さんは卸し先の飲食店には、必ず「客」として食事に行くという。
「週5日くらいは卸し先の各飲食店で飲んだり食事をしたりしています。飲食店の方とのコミュニケーションもそうですが、我々が卸した魚が『本当に良かったのかどうか』を確かめるためです。また、そのお店の営業形態や客層なども見て、別の提案ができるかもしれないといった期待を持って行きます」(鈴木さん)
「良い魚」を食べられる飲食店の見極め方とは?

ここまでの鈴木さんのお話で、豊洲での買い付けから卸しまでの様子をうかがうことができましたが、私たち消費者にとって肝心の「本当にうまい魚を出す店」とは果たしてどんな店なのでしょうか?
「魚個々の見極め方はさておき、一番は『よく回っている店』ですね。お客さんが比較的入っていて回転率が良いお店は自ずと魚も鮮度の良いものになってくると思います。また『養殖がイヤだ』という人もいますが、必ずしも『養殖よりも天然のほうが絶対に勝る』とは言い切れません。中には『養殖』のほうが美味しい場合もあります。こういったことを、きちんと知識をもってお客さんに提供しているお店には良い魚があると思います」(鈴木さん)
そんな中、鈴木さんが近年特に「うまい魚を出す店」として推したいのが、神田・新宿で営業している『俺の魚を食ってみろ!!』だそうです。
「オーナーの前原さんという女性とは、同性ということもあって特に仲良くさせていただいていますが、魚そのものはもちろん、魚をいただく際の醤油やタレなどの細部にまでこだわっているお店です。また、カニなどの高いものでも本当に薄利で出しているので、特にオススメですね。『本当にうまい魚を安く味わいたい』と思う方は『俺の魚を食ってみろ!!』に行ってみると良いと思いますよ」(鈴木さん)
鈴木さんが仕入れた魚をいただける『俺の魚を食ってみろ!!』の限定メニュー

というわけで鈴木さんイチオシの『俺の魚を食ってみろ!!』にも行ってみることにしました。この時期「春爛漫!毛蟹と桜鯛のしゃぶしゃぶを食べて甘エビ丼で〆るコース」という限定コースを実施していました。
「先付け」「国産毛蟹付き名物玉手箱」「料理長の一品」「桜鯛のしゃぶしゃぶ」「兵庫県産甘エビ丼」をセットでいただけて5千円(税別)だそうです。仕入れによって魚種が変わることはあるそうですが、筆者もこちらをいただくことにしました。
「国産毛蟹付き名物玉手箱」は鮮度抜群の刺身4種と毛蟹をいただけるもので、いずれの魚も鮮度抜群のプリップリの食感。都会の真ん中で、ここまで美味しい魚をいただけることが信じがたいほどの味でした。もちろん毛蟹も同様で、身と蟹味噌の濃厚な味をしっかり味わうことができました。

また「桜鯛のしゃぶしゃぶ」は、鮮度抜群の鯛をたっぷりの新鮮野菜と一緒にしゃぶしゃぶしていただけるもの。繊細な出汁にくぐらせた鯛の優しい風合いと野菜がベストマッチ。こちらもまた『俺の魚を食ってみろ!!』でしか味わえないものでした。

最後のシメにいただいた「兵庫県産甘エビ丼」は、一本一本丁寧にさばかれた甘エビといくらが添えられたもので、卵の黄身と和えながらいただくもの。ただでさえ美味しい甘エビといくらが卵のまろやかさと相まって、さらに濃厚にいただける絶品メニューでした。
厳しい時代だからこそ、流通を止めずに「本当に良い魚」を届けたい

この『俺の魚を食ってみろ!!』の「春爛漫!毛蟹と桜鯛のしゃぶしゃぶを食べて甘エビ丼で〆るコース」もまた、鈴木さんの尽力があってこそのメニューです。鈴木さんによれば、これもまた卸し先である『俺の魚を食ってみろ!!』との密なコミュニケーションによって生まれたものとのことです。
「『俺の魚を食ってみろ!!』のコースははかなり薄利でがんばって出しています。薄利でも実施するということは、『マンネリ化せず、お客さまに楽しんでいただけるように』というお店の思いがあるからだと思います。
特に今は、外食が控えられがちですが、そういう時期であっても魚をいっぱい仕入れ、いっぱい売り、流通を止めてはいけないと考えています。厳しい時期だからこそ最高の魚を目当てに、多くの人が飲食店に足を運んでいただけるよう、私たちもがんばっていきたいと思っています」(鈴木さん)
市場における仕入れの秘密と、その仕事にかけるアツい思いを鈴木さんからお聞きすることができました。このアツい思いが込められた、本当にうまくて良い魚を食べに『俺の魚を食ってみろ!!』に行ってみてください。
(撮影・文◎松田義人)
●SHOP INFO
店名:俺の魚を食ってみろ!! 神田本店
住:東京都千代田区内神田3-19-10 ソーシアルビル B1F
TEL:03-6206-9680
営:ランチ(平日)11:30~14:00、ディナー17:00~23:00、土日12:00~23:00
休:なし
店名:俺の魚を食ってみろ!! 西新宿店
住:東京都新宿区西新宿7-10-14 富士山ビル1F
TEL:03-6908-7481
営:ランチ(平日)11:30~14:00、ディナー17:00~21:00、土日12:00~23:00
休:なし