毎週月曜日は東京新聞との紙面連動企画。今日は「歯科技工士苦境 入れ歯作り危機」という記事に注目しました。

言うまでもなく、高齢化社会が進んでおり、歯科治療の需要は増加しているのですが、その一方で、入れ歯や差し歯、かぶせ物などを作る歯科技工士さんの高齢化が進んでいます。

そのような状況を受けて、全国の開業医などで構成する、全国保険医団体連合会(保団連)が、全国の歯科技工所を対象としたアンケート調査を、2016年に続き実施し、その結果を記者会見を開いて公表した、という記事なのですが・・・。

過労死ラインの労働時間、週休は一日以下!!

どのようなアンケート結果だったのか。保団連事務局の治田直也さんに聞きました。

全国保険医団体連合会(保団連)事務局 治田直也さん

「結果は、一週間の労働時間が70時間超、過労死ラインというところになると思いますけれども、そういう方が4割。で、一週間の休日が一日という方が45%、ほとんど取れないという方も合わせて、8割近くの技工士さんが週休1日以下ということになって、一方、一年間の可処分所得が300万円以下という方が39%で、500万円以下を合わせると約65%という結果になりました。

それだけ受注単価が安いと、それで、たくさん作らなければいけないと。あと、昼間は営業に行って、納品に行って、それから夜中に技工物を作るという実態も分かりました。で、そういう過酷な実態を受けて、後継者がいないという歯科技工所が84%ということで、まさに高齢化、そして技術が途絶えるという危機にあると感じました。」

すごく厳しい労働環境です。36都道府県の技工所から2002件の回答があり、それをまとめたものを公表したもの。

歯科技工所によっては何百人も技工士を抱える大規模なところもありますが、今回の回答の技工所の65.4%が、技工士の人数は一人という、小さな技工所。一人で、休みも取れないまま、寝ないで技工物を作っている、と分かったのです。

しかも、84%の技工所が後継者はおらず、年齢的にも、5年後には辞めていると思うと答えた人は27.5%。

仕事は好きだけど、体力的にもう無理という声が非常に多かったと。

入れ歯を作る工程に、昔の倍以上の時間がかかるようになっている

その変化を実感している、という歯医者さんにお話を伺いました。保団連の副会長で、北区赤羽で歯科医院を開業している、森元主税先生のお話です。

全国保険医団体連合会(保団連)副会長 歯科医 森元主税先生

「最近ですね、じゃあ、特に入れ歯についてお話させていただきます。入れ歯を作る上で、何回か工程があるわけですね。例えば型を取って、さらに精密な型を取って、嚙み合わせをチェックして、その人に合った人工的な歯ですね、これを並べていく。昔は一つの工程でだいたい一週間くらいで返ってきてたんです。今は二週間、場合によっちゃ一つの工程で三週間くらいかかるようになって、あ~これはおかしいな、と。そしたら、まさか、こんなにひどいとは思わなかったんです。

昔、私も技工士だったんです、もともと。技工所っていうのは医療機関じゃないので、技工料金、自由競争ですよね。先生、私、技工所なんですけども、(注文)出してくれませんか?と。技工物をね。

ほいで、値段はこうですよ、と。「あ~そうなの?他のところはこの値段だけど」あ~そいじゃあ、それよりもちょっとだけ勉強しますわ・・・そういったことでダンピングが起きてくるし。困ってます。経営に困る。」

もうすでに、入れ歯作りに今までよりも時間がかかるように、昔よりも倍以上の時間がかかってしまっているんです。

ちなみに、これは保険で作る入れ歯のお話です。

技工所は医療機関じゃないから、技工料金は自由競争!注文を受けるために、値引きをせざるをえない状況になっているんです。実は今、歯科医も経営が大変で、年間100軒くらいの歯科医院が倒産・閉院しているのが現実。そうなると、当然、歯科医院側も、安く作れれば助かる、ということになりますよね。

保険で作る総入れ歯は上下で6万円の報酬 これを技工士さんと分けます

さらに、具体的に森元先生のお話は続きます。

全国保険医団体連合会(保団連)副会長 歯科医 森元主税先生

「例えば総入れ歯ありますよね。上下で、我々の診療報酬、国からもらえるものはだいたい6万円弱なんです。全部入れて。

型取ってから完成まで。その中から技工士さんにもあげないといけないんです。

例えば私のところは3万くらいです。だいたい半分くらい。でも今回のアンケートを見ると、(上下それぞれ)1万から1万5千くらいですか。さらにもっと安いところもあります。

じゃあ、保険の入れ歯は出来ないけど、自費の入れ歯だったら作りますよっていうの、当然出てきますよね。保険の入れ歯やってくれる技工所なんか、先生、もう無いんですよ、となってきますよね。一番あおりを受けるのは患者さんですよね。

さっき言った通り、6万でしょ、総入れ歯上下で。これ一人一人全部オリジナルですよ。コップがあって流し込んで作る流れ作業じゃないんですよ。

一人一人、一本一本、並べていくんです。あまりにも国が決めた公定価格、歯科の診療報酬自体があまりにも低すぎるってことなんですよね。」

高齢化社会が進む中、入れ歯作りがピンチ!の画像はこちら >>
こちらが森元先生が持ってきてくださった保険で作った入れ歯 まさにオーダーメイドですよね

総入れ歯を保険で作ると、歯医者さんに6万円入ります。それを技工士さんと分ける。

森元先生は技工士さんに上下で3万円あげていますが、アンケートでは上下で2万円くらいが平均で、もっと安いところもありました。

そうなると、たくさん作らないと稼げない。だから長時間労働になり休みもなくなる。結果的に、もっと高額な技工料が取れる自費診療だけしか作りませんよ、という技工所が多くなって、このままでは、保険で入れ歯を作ろうと思っても、作る技工所がない、という状況になってしまう可能性が非常に高い、と森元先生は心配していました。

高齢化社会が進む中、入れ歯作りがピンチ!
森元主税先生は、歯科医が設計して技工士さんが建てる お互いなくてはならない関係なんです、と。

アンケートを集計した治田さんは、自由記述欄への記入が本当に多かったことに驚いていました。厚労省ももうしたアンケートを取るが、全然改善されないことへの不満、そして、保団連はやってくれるよね、という期待を感じた、と。

その意味でも、このアンケート結果を受けて、今後は、技工物の値上げと、それに伴う国の予算の増額。これを訴えて動いていく、ということでした。

歯の健康は、健康寿命に大きな影響がありますよね。高齢化社会にとって非常に重要なものだけに、国にはしっかり対応してほしいですね。

(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:近堂かおり)

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