落合 陽一さん(Part 1)
1987年、東京生まれ。日本を代表するメディア・アーティスト。

2025年大阪・関西万博では、ひときわ話題を集めたシグネチャーパビリオン「null²」のプロデューサーを務めました。

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出水:落合さん、まずは大阪・関西万博お疲れ様でした! 半年間の長丁場を終えられて、今の率直な気持ちいかがでしょう?

落合:ありがとうございます。僕も開幕後は100日くらい現場にいて、始まる前も2、3ヶ月くらいあそこにこもってたんで、久しぶりに東京に帰ってきたなって感じがします。

JK:始まる前に会いましたよね、万博会場で。それで直接の案内していただいて。最初に見たんじゃないかな?

落合:多分、テストの時くらいだと思います。

出水:半年間の会期で延べ何万人くらいの方が落谷さんのパビリオンに?

落合:多分60万くらいかな。60~70万人くらいだと思います。アテンダントまでいると2,900万人くらい多分いて、外観はきっと2,000万人くらい見に来てるんですけど。

JK:外観がいいですよ! 目立つ目立つ!

出水:表面に鏡状の膜みたいなのが張ってあって、しかもそれが動くという。

落合:鏡の巨大なモニュメントを作るというので、伸び縮みする鏡の素材でできていて。変形する素材で作りたいというのが最初にあって、それをどうやって作っていくかというのを建築チームを集めてやっていったという感じなんですよ。

JK:太陽がカンカンに当たると反射しますよね?

落合:集光点というんですけど、太陽光が集まって焼けちゃうところをどうやって潰していくかというのがあって・・・

出水:虫眼鏡の要領ですね。

落合:もちろん最初に計算して、ある程度は決めたんですけど、張ってみると予想外の集光点が結構あって、それを運用で潰していくのが結構大変でした。

出水:世界各国いろんなところで落合さんのパビリオの写真が拡散されていったんですが、どんな声が聞かれましたか?

落合:中東の国の人にウケがいいなって。中東は水がモチーフになっている建築とか、水面を感じるようなものっていうのが昔からアイコニックなんですよ。表面が水みたいにウニャウニャ動いてるので、UAEとかあの辺の人が結構よく見てくれて。

JK:水に憧れるんですかね。ヨルダンとか砂漠だし、まったく逆ですもんね。

落合:「null²(ヌルヌル)」って何ともふざけた名前のパビリオンなんですけど、コンピューター用語で「null=何もない」って意味なんですよ。何もないところから来て、何もないところに戻るっていうのが大きなテーマではあるんですけど、般若心経の「空即是色、色即是空」からきていて、パビリオンの外観も空に溶けているような見た目にもなってます。プログラミング用語のnullですね。ドイツ人は「ヌル」、アメリカ人は「ナル」、イタリア人は「ヌラ」、フランス人は「ニュール」って呼びます。般若心経の「空」をnullに置き換えると「無」ですね。

出水:アプリをインストールしていると、自分も参加できる体験型パビリオンになってました。

落合:自分をスキャンして出てくるんですけど、面白かったのは、確かコシノさんが来た回はコシノさんが3Dになって出てきたおかげで、全ての記憶がコシノさんになった!

JK:えっ、本当ですか? 知らなかった!

落合:Twitter見てたら、コシノ・ジュンコさんが来てる回の時にめちゃくちゃバズってました。「この回はコシノ・ジュンコしかない!」とか(笑)すげーみんな盛り上がってました。

JK:そんなの今初めて聞きましたよ! いやあ、それはうれしい。万博終わりましたけど、どうですか?

落合:万博自体は184日間のお祭りで、始めから終わりに向かってどんどん進んでいくわけですけど、1日に20数万人つねに来ていて、55年前の大阪万博から比べると最大のイベントなんですよ、多分。55年間の日本のイベントの中で一番でかいんですけど、すごくやってよかったなって。

JK:すごい大きな経済力とこれからの未来みたいな、「やったよ!」って感じですよね。大阪ってやっぱりすごい!

落合:大阪本当にすごいと思います。文化がちゃんとできたのが良かったなって。

JK:2度目の万博だけど、前の影響ないですよね。

落合:モチーフは一応結構引き付いたりするんですけど、前とは全然違う。

JK:違います! 未来が見えるというか、可能性というか。

勇気を持ちますよね。

落合:レガシーの中に固定化されたというよりは、新しいものを作った感じがしてすごい良かった。大阪には文化的な土壌があるなっていうのをすごく感じた。新しいものをちゃんと理解したり、ふざけたものをちゃんと笑ったりできるっていう。

JK:受け入れるというかね。前向きな土壌がありますからね。

落合:あれは重要です。ミャクミャクはふざけすぎですからね! 僕は最初から好きだった。ロゴを作った人と、キャラクターにした人と、デザイン展開した人はそれぞれ別の人なんです。僕はお土産にあったミャクミャクのさきイカが一番ウケました! さきイカが青と赤に着色されてて、ミャクミャクを食べよう!みたいなやつが売ってるんですよ。ミャクミャク食っていいんだ!って(笑)

JK:考えるもんですね~! でも不思議ですね、最初は「え? これ何?」と思っても、見てくるとだんだん愛着がわいて、だんだん可愛くなる。

落合:すごいのは新大阪駅を降りた後、駅がどんどんミャクミャクランドみたいになってきて、大阪に降りると全員の体にミャクミャクがついてる(^^)

JK:ミャクミャクっていう言葉も可愛いですよね。

2回繰り返すのが新しいと思うのよ。これがまた何十年先になるとレガシーになりますよ。

落合:確かに。やっぱりオノマトペって和語の中では重要で、つまり漢語の難しい言葉は中国から来て、「雷と神」とか「ぬばたまの黒」とか、枕言葉とかで使われる語感の象徴的な言葉だったり、ヌルヌルとかニュルニュルとかツルツルとかいうオノマトペって日本語に特徴的な言葉だと思うんですよね。昔の人が言ってきた和語の面白さみたいなところに、きっと多分ミャクミャクもきっといる。

出水:深いところに刺さるような、何か無意識的に設計されているものがあるのかもしれないですね。

落合陽一と振り返る大阪万博

JK:こういう言葉って残ると思うんですよ、将来的に。目玉だらけみたいな建築の発想はどなたが?

落合:NOIZっていうコンピューターを使ってやる設計事務所とコラボでやってたんですけど、特徴的なのはNOIZが基本設計をして、実設計は大和とフジタのジョイントベンチャーがやって、ロボットとか入ってきちゃうんでみんな総出で作るわけですよ。つまり建築のフレーム組んで、幕を構造解析して形作るだけじゃなくて、音を入れたら動くの?とか、ロボット入れたらひねれるの?とか、それに合わせて映像を動かすのは?っていうのはメディアーティストの特技なので、そっちは私がガッツリやった。

JK:いいチームですね! これは将来どういうふうになるんですか? 将来レガシーとして残していくわけでしょ?

落合:移設しようとはしてるんですけど、ただ形に残るレガシーにする必要があるのかどうかちょっとわかんなくて。「何もないところから始まって、何もないところに帰る」っていうところがコンセプトなんで、また違った形で作って、私が死ぬまでやっとけばいいのかなって。岡本太郎の「太陽の塔」が記憶に残るのに何が必要だったかというと、岡本太郎が作家を続けたことだと思うんですよね。

太郎の作品を見ていると、どれを見ても「太陽の塔」を思い出すじゃないですか。

JK:そうです! 青山通りにもあるし。でも本人がアートですよ。

落合:本人がモチーフを続けてきたからみんなの記憶に引っかかってるんで、私もモチーフを続けていけばそれでいいのかなって気がしますね。

出水:null²は一部移設がすでに発表されていて、クラウドファンディングであっという間に目標金額達成ということですよね。

落合:1stゴールは達成して、今2ndゴールをやっていて、これも多分達成して3rdゴールをやってるぐらいの感じなんですけど、思ったより早いなという印象があります。

JK:特徴があるし、皆さん興味あるし、残してもらいたいと思う人たちでしょうね。大阪のどこにですか?

落合:これは今いろいろ考えていて・・・まず重要なのは、このパビリオンって仮設じゃないと作れないんですよ。消防の認可とか、建築材として認可が下りてない新しい素材なので・・・あと耐光性、屋外環境に対して対応する時間がどうしても2年間ぐらいしか持たないんですよね。

出水:光を集めちゃったりしすぎる?

落合:紫外光で鏡が劣化するので、もちろん1~2年は持つように設計はされてるんですけど、長いことは持たないんですよ。生まれては死んで、生まれては死んで・・・をしばらく繰り返すんだと思います。もしくは屋内に置く。

っていうことを考えると、どこかに移設してまた見てもらえるようにしたいなというのはちょっとあり・・・期間限定かもしれないんですが。中のシアターはある程度長いこと置けるので、万博で入れなかった人が見れる施策としてシアターを置く、という形でやろうかなと思っているところです。

JK:屋内というと、かなり大きい?

落合:半分ぐらいのサイズにして屋内に置くっていうのはできなくはないし、高さ12mぐらいなので、高さ18mぐらいの吹き抜けがあれば入らなくはない。どうしても幕が動いているので、雨の劣化と紫外光の影響が大きいかなと思いますね。

出水:今回大阪は非常に暑かったじゃないですか。中にも巨大LEDパネルを引き詰めてあるので、そこの熱の管理も非常に大変だったと思うんですが?

落合:いいご質問ですね。実はLEDのシアターとロボットアームを動かすことを前提として作られているので、冷却機構が整っているんですよ。LEDで光を発しているんですけど、ミラーで半分を覆っちゃってるんで、残りは熱に変わっちゃうんです。その熱を引っ張って、冷却できるような建物として構造ができている。だからほぼ電気の缶詰みたいなものなんですよね。

JK:電気の缶詰か! じゃあ停電すると何もできない(^^;)

落合:おっしゃる通り。あれはほぼ電気です。

出水:でもその電気という特性を生かして、8月に鉄道トラブルで帰宅困難者が出た際には、遠隔でライトアップして音楽も流したという心温まる演出をしたんですよね。

落合:ほぼダンスミュージックですけどね(^^;)だいたい万博のパビリオンって運営が楽になるように、朝8~9時スタート、夜10時で電源が落ちるようになっているんですよ。うちのもそうなっているんですけど、基本的に全体で1個のコンピューターなので、リモートでログインして入ればこっちで音をかけたり光らせたり自由にできる。

JK:一番明るい話題でしたね! あの時は。

落合:良かったことは、次の日「ラブライブ!」のLIVEがあって、アイドルの棒とかを持って踊る若人たちがいっぱいいたんですよ。その人たちが帰宅困難になったおかげで、うちがクラブモードになったら「ウェーイ!」ってめっちゃ動いてた(笑)明るくて踊れる人類が集まって、光ってるから。

JK:結局は演出みたいに見えますね(^^)でも万博って本来そういうものですよね。みんながひとつになって、騒いで楽しんで。

落合:本当に雨が降らなくて良かった! 雨だったら大変だったと思う。

TBSラジオ『コシノジュンコ MASACA』より抜粋)

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