川久保賜紀さん(Part 1)
1979年ロサンゼルス生まれのバイオリニスト。2001年にパブロ・サラサーテ国際バイオリンコンクールで優勝し、2002年にチャイコフスキー国際音楽コンクール・バイオリン部門で最高位を受賞。

クラシックから現代音楽まで幅広いデパートリーを手掛け、国内外でソリストとして演奏する他、近年はコンサートプロデューサーとしても活躍中です。

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JK:バイオリンの実績すごいですよね。何歳くらいから?

川久保:私は5歳の時からバイオリンを弾いているんですけど。

JK:一番小さいバイオリンですね。何回取り換えました? 全部買うんですか? 大変でしょう、高いじゃないですか、バイオリンって。

川久保:バイオリンとか弦楽器は腕の長さで楽器の大きさが決まるので・・・その時は先生が使っていた楽器を貸していただいて、1/2、3/4、そこからフルサイズ。フルサイズになる時は13~14歳ぐらいで、大きくて腕が長い人でしたら早めにフルサイズになるんですけど、弓のサイズや長さも変わります。そこがギターと違うんだなって思いますね。ギターは最初からあのサイズですけど、チェロとかも小さいサイズから始める。

JK:それこそチェロなんて持ち歩き大変じゃないですか! バイオリンはちょうど可愛いですね。

川久保:大人のランドセルですかね(笑)

出水:川久保さんはロサンゼルスで生まて、ニューヨークに引っ越し、その後16歳の時ドイツのリューベック音楽院に留学。

川久保:はい、そうです。

ザハール・ブロン先生っていう方がいらっしゃいまして。ロスにいた時にラジオを聴いてて、マクシム・ベンゲロブっていうバイオリニストが演奏するサラサーテの「カルメン幻想曲」が流れてて、もうびっくりしちゃって・・・その方の先生とかバイオグラフィーにいろいろ書いてたので、習ってみたいなって興味が湧いたんですね。

JK:いくつの時ですか?

川久保:14歳の時で、たまたまリューベックに知り合いの知り合いが住んでて、連絡を取ってくださったんですね。その時初めてドイツに行って、今までない指導の仕方っていうか・・・今考えればその当時必要にしてたものだったのかもしれないんですけど、チャイコスキーのコンチェルトを弾いた時に、45分のレッスンで2行しか進まなくて! 1つ1つの音符へのアプローチの仕方が初めてだった。全部の曲を練習するのにどれぐらいかかるんだろう?と思ったんですけど、それで興味が湧いて、高校2年生の時にルーベックに移ろうと思ったのがきっかけです。

JK:すごい挑戦ですね! 「どれぐらいかかるんだろう」→「これダメだわ」っていうのと、「だから行く」っていうのと、だいぶ違いますよね。

川久保:でもいろんな曲に使える表現の教え方をしてたので、1つの曲だけではないっていう面白さが引っかかったんでしょうね。

タクシー置き去り事件 バイオリニスト 川久保賜紀

出水:これまでいくつぐらいバイオリンを演奏してきたんでしょうか?

川久保:一番最初にストラリバリウスを触ったのが16歳ぐらいの時。ロスで指導してくださってた先生のご紹介でカセドラルという1707年のストラドを10年間ぐらい弾いてたんですけど、その中でいろいろ変えないといけないところもあるんですよね。

出水:というと?

川久保:10年間弾いた後、2ヶ月に1回とかいろいろ変えないといけなくて。何かあった時に1台ないと、いうことで、実はモダンの楽器を1台持ってるんです。

出水:名器を模して作った、現代版バイオリンということですね。

川久保:そうですね、当時ストラドが作ってた形をモダンで作るっていう。ストラドモデルとか、ガラネリモデルとか、何々モデルっていうのがあるんですよ。音はもちろん新しいので、若いっていう感じ。バナナがまだ緑みたいな(^^) そこがやっぱり時間の問題というか。

JK:でも古ければ古いほどいいわけではないでしょ?

川久保:相性もありますね。古い楽器でも、ちょっと弾いてないと閉まっちゃう。閉じちゃって、音が出なくなる。だから楽器ってやっぱり弾いてあげないと。

JK:難しいわね。弾いてあげないと伸びないんですね。

川久保:今モダンのタイプは知り合いに貸してて・・・やっぱり弾いてもらわないとあれなので。その間にいろんな楽器の出会いがありまして、1726年のクライスラーは3~4年くらい弾いてました。

JK:そういう世界なんですねえ。賜紀さん、いつか弓をタクシーに忘れてきたって大騒ぎだったじゃないですか。

川久保:そう~! 私もあの時はびっくりしました! 毛替えっていって1~2ヶ月に1回毛を変えるんですね。その日すごく雨が降ってて、傘と弓のケースとお土産を持ってタクシーに乗って、そのまま山手線に乗ったんですけど、1駅行ったら「あれ?! 弓がない!」 心臓が止まるって言うけど、本当に私止まりました! えっ? ど、ど、え?ってパニックですよね。毛替えに行ってるのに弓がないっていう・・・

JK:肝心なことですもんね。

川久保:その時なぜか領収書もらってなかったんですよ! 絶対領収書って必要なんだなって本当に思いましたね。でもタクシーの色は覚えてたんですよ。タクシー会社にお電話して、1日終わらないと分からないってことだったんですけど、タクシーの運転手さんも弓のケースってどういう感じか分かんないじゃないですか。1週間くらい経った時に警察官の方から電話かかってきて、「こういうのがあるんですけど」みたいな。

JK:日本って本当に正直で、平和ですよ。アメリカじゃもう無理ですよ、最初から諦めなきゃいけない。私も携帯忘れて、ちゃんと3日後に渋谷警察に届いてました。

川久保:本当に日本だったからって思います。日本ってそこが素晴らしい!

出水:当然非常に高価なものだったんですよね、その弓も。

川久保:コンクールで優勝した時の賞品なんです。

JK:その頃お会いしたんですよね。血相変えて「どうしよう?!」って時に(^^;)

川久保:聞いたことがあるんですよ、タクシーでチェロを忘れたとか、楽器忘れたとか。「絶対ないよね!」って言ってて、でも自分がやってしまって(笑) 懐かしいですね。

タクシー置き去り事件 バイオリニスト 川久保賜紀

TBSラジオ『コシノジュンコ MASACA』より抜粋)

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