今日から12月ですが、先日、年末年始の渋滞の予想が発表になりました。これからの時期は、色々と車でのおでかけも増えますので、今日は、ある事故から改めて運転の注意点をお伝えしたいと思います。

この事故は、高齢者施設の送迎車が坂道を下って電柱に激突した、というもので、事故後の調べでシフトレバーがバックに入っていたにも関わらず、前進してしまったと分かりました。そして、運転者は下っている際はブレーキが効かなかったと言っています。

国交省は同様の現象は少なくない、とのことで注意喚起をしています。

AT車は進行方向と逆方向にギアが入っているとエンストするんです!

ギアがバックなのに前に進んでしまった、というのはどういうことなのか。自動車ジャーナリストの高根英幸さんに、お話を伺いました。

自動車ジャーナリストの高根英幸さん

「逆方向にギアが入ってたことも問題なんです。

オートマチック車というのは、ギアが入っていてもエンジンがアイドリングして、空回りできるように流体クラッチというものが、中に組み込まれてます。エンジンの回転をある程度吸収する力をもってるんですね。ですんで、信号待ちなどの時にD(ドライブ)に入れっぱなしでブレーキを踏んでれば、停止しながらエンジンは回転し続けることが出来るんです。

ところが、下り坂でバックギアに入っていると、下り坂の勢いで進んでしまって流体クラッチの吸収する力を超えてしまって、今度エンジンを止める方に力がかかってしまうんですね。

で、エンストしてしまうと何が起こるかというと、今度、ブレーキが効かなくなってしまうんですよ。まったく効かないんではなく、非常に効きにくい状況と言っていいんですね。大の大人でも、もう親の仇のように踏みつけなければブレーキは効かない状況になってしまうんですよ。

オートマチック車というのは簡単に運転できる反面、知識がないと使い方を誤ってパニックに陥りやすいんですね。ですんで、やはり基本的なことをある程度知識を得てから運転していただきたいと思うんですね。」

進む方向と逆向きにギアが入っていると、オートマ車もエンストしてしまうんですね。

高根さんによれば、今回の事故は4つの原因が考えられるそうです。
①坂道の傾斜が大きく、かつ長かった(傾斜が浅ければエンストは回避できた)
②傾斜と反対方向にギアが入っていた(Dレンジであればエンスト回避できた)
③車体が大きく重く坂道で勢いがつきやすい(エンジンを逆回転させエンストしやすい)
④エンジンが停止し、ブレーキの効きが悪くなると、今回の運転者のような70代女性では踏む力が足りなかった(しかし、非常に屈強な人でなければ難しいほど、エンスト時はブレーキは重くなる)

こうした条件が重なって大きな事故になったが、誰にでも起こりうるトラブルだと思うので、みなさんにぜひ知ってほしい、と高根さんはおっしゃっていました。

オートマでエンストするの?なんでだろう??

そこで、街のみなさんにも、この事故について、お話を聞いてみました。

「なんかブレーキを外すと後ろに下がって行っちゃって、後ろとぶつかったりしたのかなと思ったんですけど、そうではないんですよね。え~なんでだろう?」

「バックギアであっても、重力の方が、引っ張られて下に下りてきそうですね。そうですね、短時間だったらシフト変えずにブレーキ踏んだだけ、後ろから人が降りるようなときは、もうパーキング入れてサイドブレーキ入れちゃいますね、はい。あ~オートマでエンスト、ミッションならともかく、オートマでエンストってあんまりイメージつかないですね。」

「やっぱパーキングにしないからいけないってことですかね、停めるなら。坂道だから、いくらバックでも、アクセル踏んでればバックは行くけど、アクセル踏んでないんだから、やっぱ坂道にタイヤが転がっちゃうと。う~ん、とりあえずなんかね、慣れちゃうとついブレーキさえ踏んどけば大丈夫なのかな~って思っちゃいますよね。」

「バックギア入れてても坂がきついと前にちょっと動いちゃいますよね。オートマで?へ~。オートマでエンジン止まるってホントあんま無いですけどね。

経験があんま無いですよ、僕は。なんでエンストしちゃったんだろ。ちょっと分かんないですね。」

後ろに下がってぶつかったと思う人もいましたが、気持ちは分かります。そして、車に詳しそうな方も、オートマでエンスト?とビックリしていましたが、オートマでエンスト、というのは信じられない人が多かったです。オートマ車の仕組みや特徴を知っていてエンストもあり得る、と知っている方には会えませんでした。意外と知られていないのかもしれませんね。

いざという時に落ち着いて対応できるためにも知識は大事。

サイドブレーキを使いながら片側に寄せて減速を!

では最後に、こうした事態になってしまった時にはどうすればいいか。高根さんに教えていただきました。

自動車ジャーナリストの高根英幸さん

「できることというのは、運転してる方であればサイドブレーキ引くことは出来ると思うんです。ただ、サイドブレーキっていうのはフットブレーキよりも制御力が低いので、今回のような傾斜の強い坂道では効果が限定的ですよね。

もしそれで止まり切れないと思った時には、もう正面のガードレールにぶつかるよりも前に、横の壁、塀でも建物でもいいですから、車を擦り付けるように片側に寄せてしまう。

建物との摩擦によって速度を落としたり、停めたりする。こういうことがやっぱり効果的ですね。

そうですね、坂道に限らず、例えばドライバーが急病で体調が悪くなってしまった場合とか、助手席の方とか後部座席の方が、何か運転を手助けをして、やっぱり緊急停止しなければいけないっていう状況、これから出てくると思うんですね。ですんで、覚えておいていただけると役に立つかもしれません。」

まずはサイドブレーキ。今は足で踏むものやボタンタイプもあり、パーキングブレーキとも呼ばれます。これを使いながら、片側に寄せて、壁や建物に擦って速度を落とす。ぜひ覚えておいてください。

もちろん、それ以前に、停止するときは、パーキングかニュートラルに入れることも忘れずに!ギアが【R】ではなく、【D】であれば、エンストはせずブレーキは効いたわけですから、基本をしっかりやることが、やはり大切ですね。くれぐれも安全運転で!

(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:近堂かおり)

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