TaiTanが選ぶ ”2025年マジで良かったものベスト10” 第8位～第7位

ラッパーのTaiTanと玉置周啓（MONO NO AWARE）がパーソナリティを務めるTBSラジオ「脳盗」。2025年も年の瀬に迫った12月13日の放送では、特別企画・TaiTanが選ぶ「2025年マジで良かったものベスト10」をお届け。

TaiTanが選ぶ「2025年マジで良かったものベスト10」第８位：「サイレントヒルの加藤小夏」

TaiTan： 続きまして。第8位。ジャジャジャジャジャン！『サイレントヒル』の加藤小夏。

玉置： んー！

TaiTan： ということで、ございまして。知ってる？ これ。

玉置： 知ってるよ。実況主となった人。

TaiTan： やっぱり周啓君が知ってるっていう時点で余程なぐらい。話題のスプレッド性があったと思うんですが。

玉置： いや本当だよ！

TaiTan： いろんな角度から喋れるんだけど。そもそもの前提から言うと、加藤小夏さんという女優さんがいます。その方が『サイレントヒル』っていうゲームの主人公の実写モデルをやったんだと。

玉置： いやー、すごい。

TaiTan： もう社会現象、社会現象っていうかネットの中で現象化するみたいなことが起きて。で、俺正直そんなに粒さに見てるわけじゃないんだけど、この現象自体がめちゃくちゃ面白いなと思って、8位に選ばしてもらいました。

玉置： おお。現象っちゅうのは？

TaiTan： 加藤小夏氏は前々から結構好きで、インスタとかフォローしてたの。「こういう人っていつかどっかで売れるだろうな」みたいなことを…おこがましいけどね。思ってた人なんですよ。加藤小夏さん。俺面識ないけど。で、どういう形になんのかなみたいな感じで思ってたら、まさかのゲーム実況っていう形でシュッて出てきて。

玉置： うんうん。

TaiTan： 何が面白いかっていうと、実際の動画を見ると分かるんだけど。ゲーム実況ってさ、「素」っていう体（てい）がある、例えば狩野英孝とかダイアンの津田氏とかも。全部そうだけど。「『素』でプレイしてますよ」っていうお決まりがありながらもゲーム内で起きた事象に対して大袈裟にリアクションを取ってみたり。あたかも「素」のように見せる。

玉置： 演技とか技術っていうか。

TaiTan： そういう技術を、共犯関係の中でめっちゃ面白がるっていうフィールドじゃないですか。もちろん、本当の「素」の部分もあると思うけど。それは流石に無理があると思うわけ。本当の「素」だけでいくっていうのは。

今まではリアリティショーとかから、役者みたいな人たちがリアリティショーで培ったインフルエンス力みたいなことを足場に女優として跳ねる。みたいな感じで文化が栄えていった。今回の「加藤小夏×サイレントヒル実況」でいうと、リアリティショー以降の体、演劇的な体みたいなことが、初めて花開いた瞬間として、すげえ面白いなと思った。

玉置： じゃあ加藤小夏さんも漏れなく、「素」かどうかはどうでもいいけれども、とにかくいい動きをするなみたいな風な感じってことだ。

TaiTan： そうそうそうそう。もちろん「素」の部分もあると思うんだけれども、演技的なところもあるに決まっている。だけれども、それをオーディエンスに突っ込まれない共犯関係を結びながら遂行しているという面白さ。そして加藤小夏さんが、自分が演じたゲームを自分でプレイしながら、さらにその本人自体が、「『素』ですよ」という体で演技をしているという。そしてその主体が女優という職業であるからにして、それをする必然性があるっていう。なんというのかな。あっちゃこっちゃになってるんだけど、必然性だけがそこにあるみたいな。

玉置： なるほど。

TaiTan： 女優がゲーム実況をして自分の演技力みたいなこととか、オーディエンスを掴んでいくのかっていうことをアピールする装置としてゲーム実況。こんなにも美しい形で遂行されたことが、めっちゃ2025年的っていうか、「すげえ…」と思ったっていうのが第8位です。

玉置： んー、なるほどね。

TaiTan： ちょっとこまっしゃくれた言い方になっちゃったけど、なんとなくわかる？

玉置： モキュメンタリー的だしね。その「演技です」っていうツッコミをもう避けられるような段階にあるからさ。もう一次元上にあるっていうか。だってそもそも女優だし。っていうのが一つでしょ？自分が演じたゲームを自分がゲーム実況やるっていうそこでしょ？何でもないゲームを普通にゲーム実況しだして、それでなんかリアクションっていう話だと、やっぱここまでなってなかったかもしれないみたいな話も含まれてるよね。

TaiTan： そうそうそうそう。今ってさ、例えば『名探偵津田』の「1の世界と2の世界」みたいなことが一番面白いわけじゃん。去年の令和ロマンの『M-1』の決勝2本目の漫才・タイムワープ漫才みたいな。

ゲーム実況的なフィールドの身体の在り方みたいなことも俺は同じだと思っていて。そのフィールドのなかで、メディアの力学みたいなことを上手く使った事例みたいなものが、少なくとも他のジャンルと接続する形で生まれたことは…まあまああるか。狩野英孝とかそういう話か。だけど、俳優とかと接続したことって今まで無かったと思うんだよね。

玉置： そうだと思うよ。狩野英孝ってゲーム実況やる前からそもそも有名人だからさ。

TaiTan： それはそうなんだよね。加藤小夏さんが俺たちの界隈では名の知れた人だったけど、そのさらに先みたいな感じでギュって行くかっていうところのフェーズというところで、ゲーム実況から突き破るんだっていうことが、めっちゃ今っぽいっていう。

玉置： うんうんうん。確かに。てか、俺はその話聞くまでゲーム実況って「素」でやるものだと思ってたから、もうてっきりそういうことになってんだね。

TaiTan： もちろん「素」なんだけど、そんなことってありえんのっていうのが俺の中の、なんていうかこう、うーん、思ってること。

玉置： 確かに。あの何でもかんでもね、突き止める必要はないというか。でも俺も切り抜きみたいのしか見てないけど、なんか、いちいち気が利いてるというか、上手いこと言うとかじゃなくて、「ここで、このテンションの言葉言うんだ」とかの面白さがめっちゃある人だなと思ってたから。

TaiTan： とどのつまりはさ。客をどんだけ魅了できんのかっていうことなわけじゃん。全ての芸事っていうのは。とどのつまりは。だから演技が上手かろうが下手かろうが、それが大事なわけじゃん。

玉置： はいはい。

TaiTan： だからラップとかもさ、別に下手だろうが、キャラ的な魅力があれば、めちゃくちゃ人気になるわけじゃん。そういう面白さがあったというか。だから極めて有効なその自分のこうポートフォリオというか。何かの作品に出ますっていうこととか、インスタで変なバズるためのVlogを撮りますみたいなこととか、Twitterでなんか大喜利やりますみたいなこととか、いろいろな形で世に出る方法っていうのはあるわけだが。そんなことじゃなくもっともっとストレートに、世に出ていくみたいなことがゲーム実況っていうところから、極めて必然性のある形で発生したのが「おもろ！！」みたいな。

玉置： うんうんうん。確かに。

TaiTan： そしてなんか見ちゃうみたいな。

玉置： 確かにこれは確実に「素」のところもあってね。全部が全部「演技です」っていうので始めたプロジェクトではないんだけど。一人芝居とかでさオーディションって言ったらなんだけど…。公開オーディションみたいなことだとしてさ、「この人はどんな人なのかな」って見る機会がいっぱいあるわけじゃん。その一つ一つにTwitter大喜利とかインスタをどう運用してるかとかも含まれてるような時代に、舞台装置として…。

TaiTan： そう、まさにそう。一人芝居なんだよね。

玉置： そうだな。

TaiTan： 「ゲーム実況一人芝居」っていうジャンルになったっていうか。

玉置： いやそれは、確かにめっちゃすごい。うん。

TaiTan： それが100万人のオーディエンスが毎週のように見ているっていう。だから本当に高座だよね。みたいなことが、2025年とか、まあ25年に限らずここ数年間のムードは演劇的になってきているっていう風に捉えてるんだけど、なんかそれを象徴する出来事だったなと思って第8位が『サイレントヒルの加藤小夏氏』っていう風にしました。

玉置： 面白い。これは。

TaiTan： 脳盗も来てほしいです、だから。

玉置： ああ、いいな。

TaiTan： 来てくださいという気持ちを込めて、えー、あの第8位に選ばさせていただきました。

TaiTanが選ぶ「2025年マジで良かったものベスト10」第７位：『ワン・バトル・アフター・アナザー』

TaiTan： 第7位。ジャジャジャジャジャン。『ワン・バトル・アフター・アナザー』ポール・トーマス・アンダーソン監督。

玉置： おお！

TaiTan： はい。これ映画ですね。ようやくなんかこう、作品みたいなものが、いわゆるなものもね、ちゃんと入ってるんだよっていうのがTaiTanの「2025年マジで良かったものベスト10」なんですけど。

玉置： はいはい。

TaiTan： はい。これ映画ですね。はい。えー、なんだ。まあ、良かったです。うん。

玉置： おお。どう、何が刺さったんすか。

TaiTan： まあでもね、まあ今年いろんな映画を見ましたが、うん。まあ迷ったけど、一番映画館で見てよかったなって思ったのは『ワン・バトル・アフター・アナザー』。これはまあ作品の中身もそうなんだけど、まあ普通に面白い、ぜひ見た方がいいなと思うんですが、これを見た環境が良くて。東宝の日比谷で、「プレミアムラグジュアリーシート」っていうところで見た。

玉置： ああ、出た。はい。

TaiTan： でこれ何かっつったら、一般シートだと2000円とかで、えっとプレミアムシートだと3000円とかで追加料金払うよみたいな、感じで、まああるじゃん。で東宝の日比谷とかには、さらにその先があって、「プレミアムラグジュアリーシート」っていうのがあるんだよね。

玉置： いやあ。そんなものが。

TaiTan： これが5000円くらいするんで、もうめっちゃ高いなと思ったんだけど。正直このポール・トーマス・アンダーソンのこの『ワン・バトル・アフター・アラザー』が162分あると。

玉置： おお、長いね確かに。

TaiTan： まあ3時間弱あるっていうのは、今時珍しいっつーか、はいはい。もう公開前から聞いてたんで、俺も2時間40分の映画を、なんか普通のシートで見るの耐えらんないなと。しかも、公開の2日目とかに行ったんで、まあ混むだろうと。さすがにポール・トーマス・アンダーソンの最新作ってなったら。

だから、もうここはちょっと最高の環境で見てみたいなと思って、初めてプレミアムラグジュアリーシートでスポーンって見たら、もうフッカフカのソリッソリのシート。

玉置： ソリッソリ？

TaiTan： もう何？ まベッドだよね、ほとんど。

玉置： ああ、なるほどね。

TaiTan： ベッドみたいなシートで、なんかモフモフしたところで。多分モチハグと同じメーカーが作ってると思うんだけど。

玉置： なんでムーミンで作ってんだよ。歌川国芳みたいなね。はいはい。

TaiTan： ムーミンの形をしてたんですけど、みたいなところで、まあ見たっていうのもあって、「なんか最高の映画体験だな」みたいな。ことを思ったっていうのが、まあ『ワン・バトル・アフター・アナザー』でございますね。

玉置： すごいね。映画の内容に一つも触れずにここまで来たということで。

TaiTan： そう。

玉置： まあ面白いです。

TaiTan： 面白い。

玉置： うん。いや見てえこれ。ていうか、プレミアムなんとかシートですけども、あれはトイレはもう行き放題なんの？

TaiTan： なんで？

玉置： 一番気になるのそこじゃない？

TaiTan： トイレは行き放題ってどういうこと？

玉置： つまりこう、普通のシートで俺が一番嫌なのって、お手洗いに行く場合、こう結構「すみません」しなきゃいけないことが一番の問題なわけ。だから俺毎回、通路沿いの席取ったりするんだけど、見にくさを取ってでもだよ？うん。それでいうとそのプレミアムのやつだと、なんか全然離席とかできんのかなみたいな。どんな感じなんだろうみたいな。

TaiTan： もちろん劇場は同じだから。「すいません、トイレ行きますよ」のチャスチャスみたいなことは、中央の席に座ったら別に発生するよ。

玉置： あ, 発生すんだ。

TaiTan： それはする。だけど、まあその足元とかは結構ロングだから。前通る時に、座ってる人が足引っ込めたりする必要はないくらいの広さではある。

玉置： ああ、ポップコーン引っかけちゃったりとか、そういうのもないってことだ。

TaiTan： なんでポップコーン床に置いてんだよそいつ。帰れ！

玉置： いいだろお前。床で見る権利だってあるだろ。

TaiTan： 床に置く権利ね。まあなんか普通にそこのエリアだけもうこう、なんかなんつうの、独立しているというか、ああて感じではあるんで。本当煩わしさも全くない。すごく快適ですね。

玉置： いいなあ。

TaiTan： しかしだね、俺はね、一回それ体験しちゃうと、さらにその先とかっていうのもちょっとこうやってみたくなる。

玉置： どうなってくのその先は。

TaiTan： 香りとか。

玉置： うわ出た。

TaiTan： 足もみマッサージとか。

玉置： もう足もみマッサージ行けよそれは。iPhone持って。

TaiTan： いやでもさ、そういう需要ってめっちゃあると思うんだよね。

玉置： 本当のラグい、なんか花火のVIPみたいなやつだね。もうなんかそれでもいいやみたいな人が行くことみたいな。

TaiTan： そう、だって、例えば、例えばですよ。スーパー銭湯とかだって、もはや今さ、一日いたら5、6000円するよね。平気ですると思う。例えば六本木のじゃあ、あのほら、あるじゃん、テルマー湯とかってさ、休日に言ったら場ですよみたいな話になってくるわけよ。下手したらマジ4000円とかするよね。

玉置： ああ、そうなんだ。結構いってるね。

TaiTan： そう。で、そこでなんかじゃあさ、館内でご飯でも食べましょっかなーとかってなってったら、もう余裕で6000円くらいするみたいな。だから一日こうリラクゼーションを受けるっていうことって、割ともうそういう話になってきちゃってる。東京はみたいな。

玉置： なるほど。

TaiTan： でさ、あとマッサージとかもさ、別に、なんかちょっとまともな整体とか言ったらさ、まあ別にもう8000、7000円くらい取られるわけだよね。であれば、そこにじゃ上映の料金2000円プラスして、じゃそこにプレミアムというじゃ付加価値1000円乗っけて、1万2000円でいかがでしょうかみたいなこと。「なんか、あるラインじゃね」みたいな。

玉置： 場合によってはあるかもしれない。オプションでね。嫌だけどね、隣でアロマ・マッサージされたら俺。

TaiTan： いや！俺はその方がいいけどね。

玉置： なんでだよ！揉まれてる人が横にいる状態で映画見たいやついない。

TaiTan： もちろんなんか、足だけとか。できるだけ目立たないような形ではあるけど。でもなんか、そんくらいのリラックスが許された環境で映画というものを見てみたいなという気持ちは、あるにはある。

玉置： んー、でもなんか言ってることは分かる。なんか今話してて思ったんだけど、あの東京でなんか天井が高いとこって、もう美術館か映画館、駅？それも東京駅の古いほうところとかね、ぐらいしかないっつうか。なんかそういう開放的な、あの室内でも開放的な気分になる空間が、結構映画館って唯一すごい点在してて、安値で入れる場所なのかもしれないってね、そう考えると、思ってきたわけ。それで言ったら結構ありえるかもね、なんか。映画見なくて読書してていい空間とかね。あの映画は流れてるけど。とかだったら確かに俺も、そういうことやってみたいかもってちょっと思った。

TaiTan： いや面白いね。いや今映画館ってね、多分めっちゃ面白くなっていくと思う。それこそだからワーナーをNetflixが買いますよみたいなこととかが起きたら、まちょっとやっぱりさすがに業界の再編の動きとか出てくるだろうし。あと最近ね、面白いなと思ったニュースとしては、こう映画館に行くクラスターがだんだん変わってきてるみたいな話をよく聞くわけ。

めっちゃ分かりやすく言うと、映画好きみたいな人は、だんだん映画館から離れていってるけれども、むしろ映画年間にそんなに見ないよみたいなタイプのビギナーの人たちはむしろ映画館がテーマパークというか、的なものとして認知してたりするみたいなデータとかちょっと出てて。

玉置： へえ、おもろ。

TaiTan： ってなってくると、映画館サイドもサービスの内容がちょっとずつ変わってくると思うんだよね。

玉置： んー確かに。それはそうかも。だからボールパーク化してるのと近いってことだよね、野球スタジアムの。

TaiTan： そう。だから映画なんて別に観なくてもいいという……判断がどこかで働くという説は全然ある。それは現に野球場で起きたことと全く一緒。

玉置： はいはい。

TaiTan： エスコンフィールドは「別に野球なんか見なくてもいいです」と。別にそうは謳わないけど、そういう思想が球場全体から漂う。要はだからおにぎり食べて美味しいじゃない、子供ちょっと連れてくだけで、なんていうか別に野球自体観なくてもいい、要はよく言われるピューリストとツーリストって言われるけど。外部からの観光客っぽい人が、入れ代わり立ち代わり入れるっていうことそのものが産業の豊かさを担保するんだみたいなことがよく言われる。それが映画館っていうフィールドで起こるんじゃないかなっていうことが最近のトレンド。2025年の第7位は『ワン・バトル・アフター・アナザー』です。

玉置： 関係ないけどね！

TaiTan： エスコンフィールドがボールパークになったから第7位は『ワン・バトル・アフター・アナザー』です。

玉置： なんだよそれ、マジで。まあ日ハム勝ってほしいよな来年は。

TaiTan： そう。そういう意味も含めて。あとハムが好きだから！

玉置： ふざけんな、マジで。

（TBSラジオ『脳盗』より抜粋）