ゲストは、株式会社ベヒシュタイン・ジャパン代表取締役社長の加藤正人(かとう まさと)さん。古くから多くのピアニストたちに愛されてきたドイツのピアノメーカーです。
鮮やかに響き、弾くひとを語るピアノ
加藤 1853年、カール・ベヒシュタインがドイツのベルリンで創業したピアノメーカーの日本法人がベヒシュタイン・ジャパンです。ピアノの輸入・販売のほか、調律師さんの育成やフォローアップ研修をしたり、ヨーロッパからピアノの教授をお呼びして、ピアノの先生方にレクチャーコンサートやレッスンを展開したりしています。
西田 ベヒシュタインならではの調律の仕方があるのでしょうか。
加藤 調律というのは、「ラの音の440ヘルツ」を基準に、そこから段階を綺麗に揃える作業です。ベヒシュタインでは、「整音」や「整調」という作業も行います。メカニックの動きやハンマーの硬度を調整することで、指のタッチによって、いろいろな色彩感で表現できるようになるんです。
西田 「音の色彩」とは、どういうことでしょうか。
加藤 例えばドビュッシーの楽曲は、印象派の絵画のように、いろいろな旋律がモチーフのように浮かび上がってくる表現がされています。彼がつくりだした音を再現するためには、ピアニストの技術だけでなく、道具であるピアノが整っていなければなりません。ピアニストが持つ色彩の引き出しを開けてあげる必要があるんです。
西田 ベヒシュタインのピアノの特徴については、どのように表現しますか?
加藤 いろんな響きの層を、濁すことなく表現できる。
西田 「言葉のようなニュアンス」というと?
加藤 言葉には子音がありますよね。母音と音程だけでも音楽は成立しますが、素晴らしい楽曲には言葉が存在します。音のレイヤーや会話があるならば、そこに含まれる子音を表現できるピアノづくりをしています。
西田 ピアノは「弾くひとの感情を音に変える楽器」と表現されることがありますよね。
加藤 ベヒシュタインのピアノは、特にそれがわかりやすいんです。ガシャガシャ弾くとガシャガシャした印象になるし、やさしく弾くと音もやさしくなります。なにも考えずに弾くと「なにも考えてないな」とわかるんです。
じっくりゆっくりピアノを育てる
西田 加藤さんは工房に行かれたこともあるんですか?
加藤 工房でも勉強しました。すべて手作業でやっているんです。
西田 グランドピアノがひとつ出来上がるまでには、どれくらいかかるんでしょう?
ベヒシュタインホームページより引用
加藤 グランドピアノなどの高級品だと、1年から1年半ほどかかります。接着剤の水分をきちんと乾燥させたり、木を曲げるときにかけたテンションを安定させたりするためには、寝かせる時間に半年ほどかかるんです。
西田 工房はどんな様子ですか?
加藤 特徴的なのは、ひとりの職人が多くの工程をやることです。それぞれの作業ごとに違う人がやるのではなく、鍵盤を固定するところから調律するところまで幅広い工程を担います。
西田 一つひとつ育てるようにつくるんですね。さて、ベヒシュタインの今後の展望を教えてください。
加藤 ベヒシュタインは、アップライトピアノもグランドピアノも、同じように時間をかけてつくっています。日本のピアノファンのみなさまに、アップライトピアノの本質と魅力をさらに広げていきたいです。
(TBSラジオ『見事なお仕事』より抜粋)

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