TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。
4月3日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、カップ式自動販売機の大手「株式会社アペックス」の商品開発室長・石原豊史(とよし)さんをお迎えしました。
カップ式自販機は何度も利用しているのに、アペックスという会社についてはあまり知らないのではないでしょうか? アペックスは飲料メーカーでも自販機メーカーでもありません。自販機の企画からドリンクの開発、設置、運営、メンテナンス、リサイクルまで一貫して手がけている会社です(自販機専門オペレーター業というそうです)。
アペックスの自販機は全国に7万台設置されています。カップ式42,000台、缶・ペットボトル23,000台、コーヒーマシン5,000台。特にカップ式自販機は日本最大手で、全国のオフィス、高速道路のサービスエリア、駅、病院などで多くに人に利用されています。いつも何気なく使っているカップ式自販機をよく見てみてください。「JVS / APEX」という青と赤ロゴマークがあったらアペックス社のものです(JVCは、旧社名「日本自動販売株式会社」Japan Vending Serviceの頭文字)。ドラマや映画のオフィスのワンシーンにもアペックスのカップ式自販機はよく登場するそうです。
ちなみに、カップ式自販機を設置するときには保健所から1台ずつ「喫茶店営業許可」を得ているのだそうです。つまりカップ式自販機は喫茶店と同じレベルで衛生管理されているということです。

さて今回のゲスト、石原豊史さんは1967年、東京都生まれ。大学卒業後、1993年にアペックスに入社。オペレーター業務、営業職を経て、カップ式自動販売機のドリンクの商品開発に携わって20年以上。全国各地に置かれているカップ式自販機のドリンクは、なんとすべて石原さんがレシピを担当しているのです。特にコーヒーに関しては「ブラジルサントス商工会認定珈琲鑑定士」「SCAA/CQI認定Qグレーダー」という国際的な資格を持つ本物のプロで、あの有名なコーヒーハンター、川島良彰さんともお知り合い。
「コーヒーの味を決めるのは、豆の品質、焙煎、抽出。この3つが大事でどれもおそろかにできません。この3つをトータルで扱う会社というのは実はあまりないんです。
コーヒー豆の種類によって挽く粉の量、お湯の量、蒸らす時間が違うのは当然。実は、同じ種類の豆でもホットとアイスではレシピが違いますし、ミルクの有り無し、砂糖の有り無しによってもレシピが違います。つまり、カップ式自販機についているボタン、全部レシピが違うのです。それはすべて石原さんがテイスティングして決めているそうです。

そして石原さんが去年(2018年)開発したのが、世界初!「とろみ」を付けられる自販機です。どうしてドリンクにとろみを付けるのでしょう?
「意外と知られていないんですけど、飲み込みにくい食品の代表が、実は『飲料』なんです。例えばお水、お茶、コーヒーといったものが飲み込みにくい食品なんです。喉の入り口には喉頭蓋(こうとうがい)という弁があって、ものがのどを通過する瞬間、この弁が気管にフタをして食道のほうに流れるような動きになります。これがわずか0.5秒ぐらいの瞬間的な動きで、ものが気管に入ることを防いでいるんです。
ものが飲み込みづらくなることは、決して「些細なこと」ではありません。むしろ大きな問題につながっていると石原さんは言います。
「医師の方から、高齢者が寝たきりになってしまういちばんの理由を聞いてショックを受けたんです。高齢の方はお友だちと楽しく暮らしているときはすごく元気なんですけど、嚥下機能の低下や嚥下障害が始まると、まず食べるのが遅くなります。そして誤嚥してゴホゴホ咳き込んでしまうようになる。

一方、こういった高齢の方たちをサポートする人たちの苦労も社会ではほとんど知られていません。
「老人介護の中で、いちばん時間がかかるのはご老人を持ち上げて介護すること。そして2番目が食事の介助だったんです。食事の介助に時間がかかるのは嚥下障害が関わってきます。規模が大きな介護施設では、大きなやかんで沸かして一人ひとりの飲み物やみそ汁にとろみをつけて、みなさんに配膳するまで何時間もかかる。場所によっては4時間かかっているというデータがあります。それだけ労働負担が大きいということです」(石原さん)
とろみ機能付き自販機は、嚥下機能の低下や嚥下障害に困っている人たちだけでなく、病院や介護施設の人手不足のサポートとしても期待されています。アペックスには大きな病院などから多くの問合せが寄せられているそうです。

では、とろみが付いたドリンクは実際どのような飲み心地なのでしょうか? スタジオに自販機を持ち込むことはできませんので、実際の自販機に使われているものと同じとろみ材で、ドリンクを作っていただきました。まずは久米さんが密かに試飲を熱望していたコーヒーから。堀井さんと2人で試飲タイム。
「ちょっとゆるゆるしてますね。(ひと口含んで…)あ、新しい食感(笑)。これおいしいかも!」(堀井さん)
「口の中でコーヒーの滞在時間が長いような気がする」(久米さん)
「喉に、とぅるんって入っていくのが分かります(笑)」(堀井さん)
「ぼく実は、誤嚥で肺炎になったことがあるんです。肺のレントゲン写真が真っ白で、それを見た僕が真っ青になったんです(笑)。(…と言いつつなかなか飲まない久米さん。ようやくひと口含んで…)これは、普通のコーヒーととろみ付きとどっちがおいしいというものではなくて、別物だね! このコーヒー、いいね」(久米さん)
「口に含んだときに、一回押さえるというか噛む感じの準備ができて喉に入っていくので、『ぐっ!』て喉に入っていかないですね。ひと呼吸あって流し込む感じ。(もう一度飲んで…)ゆっくり入っていきます、やっぱり」(堀井さん)
「でも、コーヒーの味はこっちのほうが…」(久米)
「おいしい(笑)」(堀井さん)
「素人考えですけどね、とろみを付けた場合、安いコーヒー豆のほうがうまいような気がします」(久米さん)
「雑味が消える可能性は十分ありますね」(石原)


コーヒーの次は、普通のお水にとろみを付けてみました。

「とろとろの葛湯みたい。(ひと口飲んで…)ゆっくり入っていって、お水の味がよ~く分かります。口に一回含むから」(堀井さん)
「はっきり言って、ぼく生まれて初めてとろみの付いた水を飲みます。こんなもの飲むチャンスないですもん」(久米さん)
「いや、これ新食感。
「(ゆっくり口に含んで…)これ、いいね! 若い人にもウケますよ」(久米)
石原さんたちが開発した「とろみボタン」付き自販機は、ココアや抹茶オレなど、すべてのドリンクにとろみが付けられるようになっています。この自販機、現在は東京都内の病院に1台設置されていて、今後は病院・介護施設、空港、スパ・温浴施設など、予約も含めて30台ほど稼働予定だそうです。
「団塊ジュニア世代の私たちが65歳になるときには東京都の人口よりも65歳人口のほうが多くなりますから、嚥下が難しくなるとか、飲み物にとろみを付けるということが決して特別なことではなくて、当たり前のことになると思うんです。そうすると、私たちとしては、それに合った清涼飲料水を開発するという時代が来ていると思うんです。ですから病院や介護施設だけでなく、もっといろいろなところに「とろみ」を広げて、公共機関の『手すり』のような存在にしたいと考えています」(石原さん)
石原豊史さんのご感想
「とろみ」ボタン付き自動販売機をどういった形で開発しているのか、どういったところに置きたいのか、そういった「とろみ」のプロジェクトのいちばんお伝えしたいところを久米さんから触れてくださって、とても嬉しかったです。特にとろみの食感に関してフォローしてくださったことが嬉しいです。
どうしても自動販売機ということで注目はされるんですけど、特別な人のためだけにあるんじゃないかと思われると世のなかになかなか浸透しないのではないかということが懸念されていたんです。でも、決して特別じゃなくて若い方が飲んでも面白いよという話をいただいり、アペックスが目指しているところでもありますが、清涼飲料水のカテゴリーのひとつとしての「とろみ」が広がっていくことにこのプロジェクトの意味があるというところを久米さんにフォローしていただいて、ありがとうございました。
◆4月6日放送分より 番組名:「久米宏 ラジオなんですけど」
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