TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。

6月8日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、様々な社会問題を分かりやすく面白く発信しているサイト「チャリツモ」を運営する船川諒(ふなかわ・りょう)さんをお迎えしました。

全国の選挙の街頭演説がネットで見られる「街頭演説まる見えマップ」を公開しています。「誰に投票していいか分からない」とか「政治に関心がわかない」という人は、一度、街頭演説の動画を見てみてください。「話しているところを見れば、ただ原稿を読んでいるだけか、それともすごく熱意を持っているかかというのがすぐ分かります。その人の人間性まで見えてきて、めちゃくちゃ面白いですよ!」と船川さんは言います。

全国の街頭演説をネットで公開
「街頭演説」から党の本音が見える 「チャリツモ」船川諒さんの画像はこちら >>

チャリツモが公開している「街頭演説動画まる見えマップ」は、2017年の衆議院選挙と今年春の統一地方選挙のときに、街頭演説が行われた場所に印がついています。その印をクリックすると実際の演説の動画が見られるという仕組みです。一般の人がスマートフォンなどで街頭演説を録画してユーチューブに投稿したものを、船川さんたちが検索して、日本地図に落とし込んでいます。

「2017年の衆院選のときは、チャリツモのサイトに街頭演説の情報を送ってくださいと呼びかけたんですが、めちゃくちゃたくさん送ってきたのが共産党。その次に多かったのは公明党。やっぱり支援組織が大きいところはすごいですね。ただ、共産党が送ってきた動画はクオリティがばらばら。よくできているものもあれば、できていないものもある。

その点、公明党はどの動画もクオリティがすごく高いんです」(船川さん)

街頭演説から党の本音も見える
「街頭演説」から党の本音が見える 「チャリツモ」船川諒さん

ほかの政党が30分、40分もある街頭演説をそのまま投稿していたのに対し、公明党は5分、10分といったコンパクトなサイズに編集して投稿してきたそうです。しかも、候補者が話している内容についてテロップを入れている動画も結構あるそうです。ITに強いというイメージがあまりない共産党や公明党が熱心に街頭演説の動画を投稿しているのは意外かもしれません。

「でもそれは、主にネットをよく見ているようない人たちや、体が不自由で外に出かけることが難しい人たちにも、自分たちのメッセージを届けたいという考えが、この2つの党にはあるんだと思いました。党のトップの人たちがそう思っているかどうかは分かりませんけど、少なくともそう考えている人たちが党の中にいるということだと思います」(船川さん)。

「ぼくたちが呼びかけても全然、動画を送ってこなかったのが自民党です。これは、主にネットから情報を得ているような若い人たちは全然意識していないのかもしれませんよね。自民党は、選挙が終わったあと街頭演説の動画をどんどん削除するというのも特徴的です。これなんか、もしかすると街頭演説でしゃべったことを、選挙後に実現できているかどうか検証されないようにしたいのかな…なんて思っちゃいますよね。だからチャリツモのサイトでは街頭演説の内容を書き起こしたものも公開して、あとで検証しようと思えばできるようにしています」(船川さん)

パネルを使った維新
「街頭演説」から党の本音が見える 「チャリツモ」船川諒さん

「4月の統一地方選では、大阪維新の会の候補者たちが街頭演説で大きなパネルを使いだしたんです。国会で使っているようなパネルをもっと大きくしたものなんですけど、この〝紙芝居型〟のやり方は、通りすがりの人たちにとってすごく分かりやすい。街頭演説って、途中から聞き始めた人には、いま何の話をしているのがすぐには分からないですよね。

話が分かるまでの時間がじれったいから、結局聞かずに行ってしまったりします。でもパネルがあれば、いま何の話をしているのかパッと見て分かります。通りすがりの、興味のない人たちにも自分たちの考えをアピールしようという意志が見えますよね。これはひとつ革命的でした。今後もしかするとこのやり方が広がるかもしれません」(船川さん)。

各候補者、各政党が訴える政策そのものと同じくらい、あるいはそれ以上に、有権者にちゃんと伝えようと工夫しているかどうかも大事なことですよね。

弱者がもっと交われる場が必要
「街頭演説」から党の本音が見える 「チャリツモ」船川諒さん

船川さんが運営している「チャリツモ」は、「チャリティを積もう」という意味が込められています。複雑で難しいと思われている様々な社会問題を分かりやすく伝えるメディアが必要だと考え、クリエイター(船川さんの本業はウェブデザイナー)である自分ならそれができると思って始めたそうです。若い人たちには社会に関心を持ってほしいと船川さんは言います。でも船川さんも学生の頃は社会にはほとんど無関心でした。

船川さんは1983年、埼玉県生まれ。高校生のときに岩井俊二監督や黒沢清監督の映画を見て影響を受け、早稲田大学で映画を自主制作していました。


大学を2年で辞め、映像制作会社でテレビ番組を作りながら自分の映画作品も作ろうとしました。ところが全然シナリオが書けなくなってしまったのです。

「結局、精神を病んでしまって何も手につかなくなってしまったんです。それで精神病院の閉鎖病棟で何ヵ月か過ごしました。そこで気づいたのは、何でシナリオが思い浮かばないかというと、結局ぼくには伝えたいことがなかったということなんです。あまりにも社会を知らなかったから」(船川さん)

退院したあとの船川さんは、夜の仕事やホストクラブ、教材販売会社などいろいろな仕事を経験する中でたくさんの弱い立場の人たちを目の当たりにします。それが社会問題に向き合うきっかけになりました。

「浪人生のときには昼は予備校に行きながら渋谷で新聞配達をやってたんです。そうすると渋谷の街の人たちがいろいろ見えてきたんです。昼間はチャラチャラした大学生が遊んでいるんですけど、夜になると全く景色が変わってホームレスの人たちが多くなる。夏はまだいいんですけど、冬場になるとホームレスの人が夜中ずっと歩いてるんです。

先輩に『この人たちはなんでずっと歩いてるんですか』って聞いたら、寝たら死んじゃうんだと。

そういう人たちが夜中の2時や3時に歩いている街を、何時間後には若者たちが闊歩している。それを見たときに、普段見えないものってたくさんあるなと思って。たぶんぼくが知りたかったのはこういうことなんだなということをその当時から思っていました。精神病院の中でも弱い人や差別されている人をたくさん見てきました。

そういう人たちが社会には確実にいるのに、多くの人には見えていない。いろんなものを抱えて弱者と言われているような人たちと一般の人たちが交われるような場をもうちょっと作っていかないと、これからの社会って成り立たないんだろうなぁと思ったんです。そうしないと追い詰められていく人が出てくるだろうし、そういう人たちをちゃんと受け入れることができる社会にしていかないとまずいよって。そういうことを一回みんなで考えようよという気持ちというか、欲求というか、危機感みたいなものを『3.11』のときにすごく思って、それで、これはやらなきゃいけないという感じでチャリツモを始めました」(船川さん)

「若者は無関心」は本当か?
「街頭演説」から党の本音が見える 「チャリツモ」船川諒さん

船川さんは東日本大震災をきっかけにチャリティを支援する社団法人「チャリティジャパン」に参加し、様々な社会問題を「楽しく伝える」ことをテーマにしたサイト「チャリツモ」を2016年に開設しました。そして2017年、衆院選のときに、全国の街頭演説がネットで見られる「街頭演説動画まる見えマップ」を公開すると、20万を超えるアクセスがありました。

今年は夏に参議院選挙があります。この放送があった時点では衆議院選挙とのダブル選挙もあるかもしれないと言われています。選挙のたびに問題になるのが投票率の低さ。

今年4月の統一地方選挙では各地で「過去最低の投票率」の。東京特別区20区議選の平均投票率は42.63%でした。いまや投票に行く人のほうが少数派なんです。そうなるとやり玉に挙げられるのが若者たち。「政治に無関心な若者が多い。嘆かわしい」 でも、それって本当でしょうか。

「選挙で投票できる年齢が20歳から18歳に引き下げられてから初めての国政選挙となった2016年の参院選のとき、18歳と19歳の人たちにインタビューしまくったんですよ。明日選挙に行きますかって質問してみると、行きますと言う人と行かないと言う人が半々にきっぱりと分かれたんですね。行かないと言った人に、何で行かないんですか、政治に興味ないんですか、社会参加しないんですかと聞いたら、すごく怒られたんです。『私たちだって選挙が大事なのはめちゃくちゃ分かってるんです。学校でも主権者教育をやっています。でも、誰に投票したらいいのかが全くわからないんです』って。

もし自分が間違った選択をしてしまって、投票した人があとで問題を起こしたときに、自分がその選択に責任を持つのが怖い。だから過ちを犯しまうくらいだったら投票に行きません、と言う人が多かったんですよ。投票する材料になる情報があまりにもなさすぎるということなんです」(船川さん)。

船川諒さんのご感想
「街頭演説」から党の本音が見える 「チャリツモ」船川諒さん

緊張しましたねえ。前のコーナーでそばの話を聞いて「おなかがすいたなあ」と思いながらやってました(笑)。

選挙演説を見かけたら気軽に話しかけたり、質問を投げかけたりしてもいいと思うんです。本当はこれからを生きる中学生とか高校生たちに「私たちの時代をどう考えるの?」ってことをガンガン聞いてほしいんですけどね。だから、その年代(18歳未満)は選挙活動をやっちゃだめという変なルールもなんとかしてほしいなとは思いながらも、とりあえず今後も、彼らと政治の距離を近づけるということをやりたいなと思っています。

いま選挙になっても候補者がなかなかいないんです。政治家が2世、3世ばっかりになっているのは、要するに誰もやりたがらないということです。だから子供の頃からの主権者教育みたいなことは、若者の投票率を上げるだけじゃなくて、将来、政治家として社会参画していこうという意識も芽生えさせたり、いろんな効果があると思います。

今回は久米さんと堀井さんがお話をすごく楽しく聞いてくださって、「マジ感謝です!」という感じです。ありがとうございました。

◆6月8日放送分より 番組名:「久米宏 ラジオなんですけど」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20190608130000

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