毎週土曜日「蓮見孝之 まとめて!土曜日」内で8時20分頃から放送している「人権トゥデイ」。様々な人権をめぐるホットな話題をお伝えしています。

障害のある人、ない人、アーティストの生の表現を世界に解き放つ

東京・千代田区外神田にあるイベントスペース「アーツ千代田3331」で開催されている独自の発想で表現されたアート作品を集めて展示する「ポコラート世界展」を取り上げます。 ポコラート(POCORART)とは「Place of “Core+Relation ART”」の略称で、既存の伝統・制度・美術教育に影響されてこなかった芸術表現を指す造語です。展覧会の企画、作品の収集・展示を担う、キュレーターの嘉納礼奈(かのう・れな)さんです。
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ポコラートとは、既存の概念に当てはまらないような創作物を見せる場所でもありますし、年齢、性別、経験、障害の有無にかかわらず、作品を見せ合ったり、刺激しあう場所という抽象的なもの。ポコラートという枠組みを利用して、そのなかであらゆる形を提案しています。当初は障害者支援事業としてスタートし、毎年、国内の障害のある人からの公募作品を展示してきたそうなんですが、徐々に垣根を取り払っていき、10年目となる今回、「美術とはこういうルールのもとに理解される」という一切の枠組みを取り外して、様々なバックグランドを持つ22か国・50人、240点の表現作品を集めました。
障害のある人も、ない人も…「ポコラート世界展」

様々なバックグランドを持つアーティストの作品

たとえば、ポーランドのトマシュ・マフチンスキさんという男性の写真作品を集めたもの。第二次世界大戦の戦災孤児として育った彼は、20歳を過ぎた頃、それまで母親だと思っていた人が、母親ではなく支援者の一人だったという事実を知り大きな衝撃を受けます。このアイデンティティの崩壊をきっかけに自分自身の写真を撮るセルフポートレートを開始。映画スターや様々な職業、時には女装など扮装した自身の姿を55年間、7万枚以上撮影し、「自分とは何者なのか?」を問い続けています。ほかには、マルク・モレさんというスイスの地方で農業に従事していた男性の作品。 亡くなった母親の存在をいつまでも心にとどめておきたいと考えた彼は、母親が使っていた裁縫道具や布の切れ端を糊で塗り固めてオブジェを作り上げます。一見おどろおどろしく見えるこのオブジェの前で、彼は毎晩、母親を思い出しながら、十字を切り、祈りを捧げていたそうです。
障害のある人も、ない人も…「ポコラート世界展」
もちろん、日本人の作品もあります。
武田拓(たけだ・ひらく)さんという男性の作品。カゴに突っ込んだ膨大な数の使用済み割り箸が、まるでサボテンのように群生している立体作品。彼は、福祉事業所で割り箸を牛乳パックに詰めて燃料材にする仕事に従事していました。パックいっぱいに詰め終わると完成なんですが、詰込み続けます。事業所のスタッフは彼のその行動を止めずに、衝動の赴くままに促したのがこの作品です。型にはめなかったからこそ生まれた作品でもあります。面白いのは、この割り箸を無限に詰める行為に熱中したのが僅か2か月間だったということ。その後、別のことに興味が移り、箸を挿す行為をやめてしまったそうです。

見せることを前提としていないからこそ本音が露呈

作者の置かれていた環境、想像力、その時の直観が独自の表現作品を生み出しています。 どの作品も、誰に頼まれたわけでもない、やむにやまれぬ行為の痕跡が現れています。人生のハードルを乗り越えるときの解決策だったり、励みとしたり、自分を救済するための手段であったり、自分の人生の変革期へ向き合う手法として創作が使われていて、そういったものを多く集めている。人に見せるためだけに創られたものではなく、自分という唯一のパブリックのために創られたものなので、本音が露呈している側面がある。
美術とは違う共感ができるのではないか。「他人に見せることを前提としない作品が多い」ということは、画材にも表れていました。段ボールや紙ナプキン、チラシの裏などに書かれたもの。高価な絵具ではなく、市販のボールペンやマジックで書かれたものが多いことにも気づかされました。
障害のある人も、ない人も…「ポコラート世界展」
展示されている50人・240点の作品は、知的障害や精神疾患、孤児院での生活、依存していた家族を亡くした喪失感など境遇は様々ですが、偶然のきっかけによって生まれたものであったり、内面から湧き上がる強い衝動によって必然的に生み出された作品が多いのが特徴です。作品の鑑賞について、キュレーターの嘉納礼奈(かのう・れな)さんはこのように話します。美術という建前ではなく、人間が生きていく中での本音のようなものを垣間見れるものとして身近に見て欲しい。皆さん、美術にかかわらず発明家なんですよね。ひとつの行為を発明されたりとか、ひとつの形を発明されたりとか、クリエイティビティの力を見て欲しいですね。それは実物作品がどんな言葉よりも物語るところがあります。
障害のある人も、ない人も…「ポコラート世界展」
「ポコラート世界展 ~偶然と、必然と、~」は、東京・千代田区外神田にある「アーツ千代田3331」で9月5日(日)まで開催されています。 新型コロナウイルスの感染予防対策や遠方で来場が難しい方のためにオンラインコンテンツも発しています。
詳しくは「ポコラート世界展」のホームページを参照ください。(担当:瀬尾崇信)
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