TBSラジオで毎週土曜日、午後1時から放送している「久米宏 ラジオなんですけど」。

12月14日(土)放送のゲストコーナー「今週のスポットライト」では、ひきこもりの当事者や経験者が書き手となって自分たちの経験や思いを伝える雑誌『ひきポス』の編集長・石崎森人(いしざき・もりと)さんをお迎えしました。

『ひきポス』はひきこもり当事者の貴重な生の声が読めるということで、同じような悩みを抱える当事者やひきこもりの子供を持つ親たちに読まれています。

ひきこもり当事者が発信するメディア

ひきこもり当事者が作る雑誌『ひきポス』を創刊した石崎森人さん...の画像はこちら >>

石崎森人さん。1983年、東京都生まれ。小学2年生の頃からずっと生きづらさを抱えていたと言います。10代の終わりから心療内科に通うようになり、大学時代は毎日抗うつ剤を飲むような状態でした。なんとか就職先を見つけましたが、精神状態がひどく、3日で退職。それから2年半、引きこもり状態になりました。その後、徐々に社会に復帰していく中で石崎さんは、不登校・ひきこもりの専門紙『不登校新聞』(1998年創刊)で「ひきこもるキモチ」というコラムを1年間連載する機会を得ました。このとき読者から「いつも楽しみに読んでいます」という反響があり、これが石塚さんの大きな喜びになりました。また、文章を書くことで自分の気持ちを整理することができるようになったことも発見でした。これが後年、『ひきポス』へとつながっていきます。

石崎さんが『ひきポス』を作ったのは、マスメディアが伝える「ひきこもり」は一面的で大事な部分が欠けていると感じていたからです。

ひきこもりというと、カーテンを閉め切った部屋にとじこもって無気力に時を過ごしているイメージで伝えられることがほとんどです。でも実際にはもっといろいろなケースがあるのです。家から出ることができる人もいれば、メディアに出る人もいます。また、自分の家に寄り付かず海外へ出ていく「そとこもり」というケースもあります。実態は多様で複雑。石崎さんはひきこもりを脱してからインタビュー取材を受けましたが、すでに広まっているイメージに沿った部分は強調され、複雑な部分、分かりにくい部分は削られてしまいました。取材するメディアの人間は社会に適応できる人ですから、社会にうまく適応できずに生きづらさを抱えているひきこもりの人たちが大事だと感じていることが分からない。当事者の気持ちは当事者しか伝えられない。そんなふうに石崎さんは思ったのです。そして同じように感じていた人たちがたくさんいたのです。

ひきこもり当事者が発信するメディア

ひきこもり当事者が作る雑誌『ひきポス』を創刊した石崎森人さん

『ひきポス』は4ヵ月に1回発行。石崎さんを含めた編集スタッフ3人と、30~40人のライターで作っています。
ライターは20代から50代、全員ひきこもりの経験者です。月に1回編集会議を開いてテーマを決めます。テーマが決まると書ける人を募って原稿を依頼します。

「ひきこもりを経験した人や当事者たちは、ずっと自分の人生について考えているので、人と話す機会はないけれど心の中には言葉が溢れているんです。だから、こういう記事や原稿を書くのは初めてだという人がほとんどですけど、結構みんな、文章は完成されています」(石崎さん)

原稿に分かりにくい表現があった場合でも、石崎さんたち編集スタッフは分かりやすい表現に直すことはしません。文章を分かりやすくすることでその人が感じている大事な部分が欠けてしまうことがあるからです。

2018年2月に発行した創刊号の特集テーマは「なぜ、ひきこもったのか ひきこもり当事者が語る〝原因〟」。そこには様々な思いが当事者・経験者自身の言葉で綴られています。

石崎さんによると、何か決定的な出来事があってひきこもるようになったというよりも、ずっと生きづらさを抱えてきて、苦しい思いが積もっていく中で、それでも必死に耐えてきたけれど、とうとうエネルギーが切れたような状態になるという人が多いようです。ですから、社会に対する反発心とか強い決意があってひきこもったという人はどちらかといえば少なく、むしろ「気づいたらひきこもっていた」という状態なのだそうです。「自分がいまひきこもりの状態だと気づいていない人も多いと思います」と石崎さんは言います。

ひきこもりへの偏見をなくしたい

ひきこもり当事者が作る雑誌『ひきポス』を創刊した石崎森人さん

『ひきポス』では2号以降、「こうして人とつながった 経験者が語る〝人とつながる方法〟」「ひきこもりと恋愛・結婚」「ひきこもりと『働く』 就労はゴールか?」「ひきこもりと幸福」「ひきこもりと父」といった特集テーマを組んできました。
最新7号のテーマは「ひきこもりと偏見」。

「ひきこもりはよくないこと、ひきこもり=悪というふうに思われているところがまだまだ強いと思います」(石崎さん)

親は自分の子供がひきこもりだと恥だと思って隠してしまう。そういう親の振る舞いをひきこもりの当事者は敏感に感じ取っているそうです。ひきこもりの人たちは、自己否定感が強い傾向があると石崎さんは言います。親や周りの人たちに分かってもらえないのは自分が悪いからだ。自分は何をやってもだめなんだ。そんなふうにますます自分を肯定的に考えられなくなってしまう。石崎さんは自分の経験からそう説明します。

「ひきこもりが批判の対象になったり、ばかにされたりすることがなくなるだけで、当事者の感じ方はだいぶ違ってくると思います。そういう偏見をなくすために、『ひきポス』ではいろんな当事者の声を載せています」(石崎さん)

『AERA』をイメージした表紙

ひきこもり当事者が作る雑誌『ひきポス』を創刊した石崎森人さん

「『ひきポス』は『AERA』をイメージしてデザインしました。こういう関連の雑誌はいかにも福祉っぽくて、お花畑が表紙になっていたりして、ぼくは全然読みたいと思わなかったんです。自分の気持ちとあまりにもギャップがあったんです。
だから自分が作るんだったら、福祉っぽくないものにしようと思っていました」(石塚さん)

裏表紙もアートな雰囲気にデザインしています。内容が分かるようにタイトルも入れています。石崎さんは電車の中で広げたときに「あの雑誌、なに? 何を読んでるの?」と思われるようにしたいと言います。
さらに石崎さんは、『ひきポス』は文芸誌のようなものだと考えていると言います。

太宰治も、自分を認めてもらいたくて、認められなくて、それで『人間失格』を書いたりして、文学があったから救われたという部分があると思うんです。『ひきポス』も文学に近いものを感じます。ひきこもりの当事者が書くことによって自分自身を受け入れられるようになるというか。そして文学は、自分の悩みを芸術にまで昇華したものです。『ひきポス』も、それまではただの悩みだと思っていたものが、書くことによって、同じような当事者に届くことで新しい価値感を持つようになるといいなと思っています。だからぼくは、『ひきポス』は社会問題としてだけではなくて、文芸誌だと思って読んでもらえたら嬉しいと思います」(石崎さん)

石崎森人さんのご感想

ひきこもり当事者が作る雑誌『ひきポス』を創刊した石崎森人さん

めっちゃ緊張して一瞬で終わりました(笑)。久米さんにいろんなふうに引き出していただいて、自分で何をしゃべっているのるか分からなくなっちゃって、ちゃんと伝わってるかなあ、大丈夫かなあと思いながら話してはいたんですけど。

自己肯定感とか自己否定感という部分に久米さんが着目されていましたけど、こういう取材でもそこに着目する方はあんまりいなんですよ。

そこをぐっと掴んでいただいたというのは、さすがだなあと思いました。そのときは久米さんのジャーナリストの顔が見えました。ぼくは『ニュースステーション』をよく見ていたので、あの鋭いツッコミを、自分がされる側になって、ああ、こういう感じだったんだんなあと思いました(笑)。ありがとうございました。

◆12月14日放送分より 番組名:「久米宏 ラジオなんですけど」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20191214130000

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