毎週土曜日「蓮見孝之 まとめて!土曜日」内で8時20分頃から放送している「人権トゥデイ」。

今回のテーマは…視覚障害のある方たちが行う将棋について

藤井聡太三冠(※放送時)の活躍で将棋ブームが続いていますが全盲や弱視など、ものの見え方にハンデのある方にも将棋愛好者が数多くいます。

視覚障害者が指す将棋の歴史はとても古く、日本に将棋が伝わった平安時代の頃から将棋を指していた記録があります。また江戸時代には盲目の棋士・石田検校が今日伝わる様々な戦法を考案しました。

視覚障害者の将棋は、頭の中に将棋盤を想定して、棋譜を記憶しながら対局する方法が基本です。駒が動いた位置を示すため対局する人が自ら「7六歩」などと棋譜を声に出しながら指します。

視覚障害者用の将棋盤や駒もあります。声に出された棋譜や局面を対局者が指で触って確認できるよう工夫され、将棋盤は升目の罫線が盛り上がって手で触れるとどこに升目があるか分かり、駒を触っても動かないように工夫されています。また駒は底の右側に点字のような印がピンで打たれ、駒の種類が判別でき、成って裏返っているとピンが左側になるので分かります。弱視の人が認識しやすいように、盤面を黒くして駒の色とのコントラストが強い将棋盤も開発されています。

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こうした視覚障害者の将棋愛好者の存在をうけて、社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合(日視連)は、年1回の「全国視覚障害者将棋大会」を開催しています。日視連は全国で600人程度将棋を指す視覚障害者がいると把握しているそうです。全国大会開催の経緯を日視連常務理事・後藤英信さんにうかがいました。

視覚障害者将棋の世界とリモート大会

「 視覚障害者が差すいわゆるボードゲームには囲碁、オセロ、トランプなどたくさんの種類がありますけれど、手軽にできたのが将棋だったと思います。

かつては盲学校などのクラブ活動でも非常に盛んに行なわれておりましたのでそれが普及のきっかけになったのでしょう。全国で県などブロック単位の将棋大会が行われるようになりやがて、全国での大会をぜひ開催してほしいと要望があがって来まして、昭和52年(1977年)第1回全国盲人将棋大会が広島市のNHKホールで開催されました。第1回大会の審判長は十五世名人・大山康晴先生がつとめました」(日視連常務理事・後藤英信さん)

視覚障害者将棋の世界とリモート大会

第1回大会は大山康晴 十五世名人が審判長をつとめた

第1回大会以降、2019年までリアル将棋の全国大会が43回行なわれました。1981年の第5回大会の76名参加を最高として毎年およそ50人の参加者があり、うち女性参加者も1割ぐらいいるそうです。「リアル将棋」と書いたのは 実は昨年、今年と2大会が、パソコンなどを介したリモート将棋大会になったからです。全国規模で行なわれる視覚障害者のゲーム大会で、リモート大会に移行したのはとても新しい取組みだそうです。

リモートでの将棋はどのように行うのでしょうか。採用されたのはパソコンのオンライン会議システムのZOOM(ズーム)でした。ZOOMのシステムを利用して対局者2名、審判員1名がオンライン上の会議室に入ります。自宅等にいる各対局者が目の前に将棋盤を置き、自分で駒を動かし棋譜を発声しながら指します。相手の棋譜の発声も聞いて、自分の盤上で駒を動かし対局を進めます。パソコン上で審判員がそれを復唱し棋譜ソフトに入力し間違いがないか確認します。

持ち時間の確認をするのも審判員の役割です。リモート大会での対局者の持ち時間は各20分、使い切ったあとは一手60秒で秒読みされます。60秒以降の考慮時間が5回まで許されます。 リモート開催の理由などを後藤常務理事に聞きました。

視覚障害者将棋の世界とリモート大会

「昨年、通常にリアル大会を開催しようと計画してましたが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、やむなく中止にしました。しかし以前の将棋大会参加者からオンラインでできないだろうかと声が上がって、それなら試行的にでもやってみようかということで 開催したのが去年ののリモート大会です。うちの職場(日視連)も会議がすべてリモートに切替ってましたし、将棋もリモートでできないかなと考えました。その中でZOOMというオンラインのシステムを使ってできるという提案があり、実施してみました。私どもがホストになって、あとは対局者をオンライン上の小さい会議室に振り分けていくだけなので、1回戦で最大8局の対戦が一斉に開始でき、とてもスムーズに進行できました。こちらのネット環境のせいで、いちど回線が切れるトラブルがありましたが、それ以外は問題はありませんでした。対局の間にはイベントとしてプロ棋士による将棋講座をZOOM上で開きました。私も初めての形式だったんですが、上手くできるもんだなと思いましたね。」(日視連常務理事・後藤英信さん)

視覚障害者の将棋ファンの中には、パソコンのテレビ電話システムSkype(スカイプ)を使った「Skype将棋」の愛好クラブがすでにあって、その方たちはオンラインの将棋に慣れていて、大会になじみやすかったそうです。

そのいっぽうでパソコンに慣れておらず大会出場をあきらめる方もいました。逆にリアル将棋大会だと会場が遠いなどの理由で参加できない方もリモートなら参加できるメリットもありました。また従来型の携帯電話、いわゆるガラケーでもZOOM会議に参加できるので電話の音声だけでリモート対局する人もいたそうです。リモート大会では、こうしたリアル大会にない特性の有効性や実効性を検証することもひとつの目的になっています。

昨年、第1回のリモート大会は主催する日視連のネット環境の制約から、有段者、級位者のふたつの部門で各16人出場で行なわれました。今年も2回目のリモート大会として行なわれますが、有段者、級位者それぞれ20名と参加者の数を増やしました。より多くの方に参加してほしいと後藤理事は言っていました。

リアル大会は障害者が将棋という共通の趣味を通して直接交流する場になるので来年、コロナ感染問題が終息したらリアルの全国将棋大会を復活させたいと後藤常務理事はおっしゃっていました。リモート大会との棲み分けも考えているそうです。

視覚障害者将棋の世界とリモート大会

後藤常務理事は今後の大会運営の課題についてこんなふうに話しています。

「今後の検討課題は国際大会を開催すること、それと視覚障害者の将棋愛好者も高齢化が進んでいますので、若い方の将棋人口を増やす取組みを積極的に進めています。また将棋大会ひとつ開催するには相当のボランティアが必要なんですね。

リアル大会での審判員さんは日本将棋連盟などからボランティアで来ていただいてますが役割は将棋の手伝いだけではないんです。参加者の中には地方から来られる方がかなりいますので最寄の駅から会場までの誘導、会場でのトイレなどへの誘導、それにお弁当等、食事のお手伝いなどやっていただいております。審判員の方には大会前、短時間ですが視覚障害者の誘導方法など、覚えていただくことになりますが、これからはあらかじめ講習会などを開いて本当の将棋ボランティアを作っていきたいと考えております。」(日視連常務理事・後藤英信さん)

こうした大会に目の見える人がボランティアで参加することは、視覚障害者と晴眼者が交流し理解を深められる場になるのではないでしょうか。将棋ファンにはぜひ視覚障害者将棋大会のことを知ってほしいと思います。

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