TBSラジオ「ACTION」月~金曜日の15時30分から生放送。火曜パーソナリティはクリープハイプの尾崎世界観さん。

5月5日(火)のゲストは芥川賞作家の金原ひとみさん。先月、初のエッセイ本となる『パリの砂漠、東京の蜃気楼』を刊行されました。フランス在住生活最後の1年と、日本へ帰国してからの最初の1年を綴ったこちらのエッセイについて、尾崎世界観さんがお伺いします。

尾崎:金原さんがフランスに行ったきっかけは?
金原:やっぱり震災、原発事故があった中で「これまでとは違う場所で生活してみるのもいいかな?」と思って。結構軽い気持ちで海外生活を始めました。
尾崎:準備は大変でしたか?
金原:思いつきで行ってしまったので。最初は短期契約のアパートをとりあえず2ヶ月借りて。それで気が付いたら少しずつ延びていきましたね。

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尾崎:率直にフランスはどうでしたか?
金原:整っていないと思いました(笑)例えばエレベーターが動かないとか、時計が合ってないとか。日本で当たり前のことがフランスだと当たり前じゃないんですね。それが衝撃的でした。
尾崎:そこに救われる点もありましたか?
金原:「時計が合っていないから待ち合わせに遅れてもしょうがない」って思ったり(笑)自分もそこまでしっかりしなくて良かったりする気楽さはありましたね。

尾崎:人はどうでしたか?
金原:フランス人は心が広いですね。ルール守らない人もいて、全体的にゆるかったです(笑)
尾崎:気難しい人とかいませんでしたか?
金原:自分が被害を被ることに対してすごく厳しい人が多かったです(笑)「自分は被害を受けないぞ!」と構える人は多かったですね。
尾崎:あ~、日本はちょっと逆かもですね。なるべくそれを出さないように、じんわりとそれを遠ざけるというか。
金原:そうですね、その両極端な感じをフランスと日本で感じられたと思います。
尾崎:帰国してからは日本の同調圧力を感じることもありましたか?
金原:「ルールを守らないと」みたいな圧力を感じることは多くて。電車を並ぶのにも「この列で並ぶように!」みたいな。いるだけで圧力を感じることは多いですね。だからどちらの国も観光客のような気持ちでいれたらいいなと思いますね(笑)
尾崎:美味しいとこ取りですね(笑)
「自分の中の普通が変わった」芥川賞作家・金原ひとみが語るフランス生活

尾崎:あとエッセイで印象的だったのが、フランスで生活していると死の影を感じるんだなと思ったんですね。テロが起きたり。日本ではありえないようなことが起きる可能性があるんだなと思いました。
金原:そうですね。
パリの同時多発テロとか、新聞社襲撃とかがあったので、スーパー入るのにも手荷物検査や金属探知機をされたりとか。マシンガンを持った人が見回っていたり。そういうのを身をもって体験して。最初はとんでもないことと思うんですが、段々と日常にこま切れていって、普通になるんですね。もちろん恐ろしいことなんですけど、そこにいる中で少しずつ麻痺していく感覚というか。生活に馴染んでいこうとする自分自身もあるので。
尾崎:それは慣れというよりは麻痺なんですね。
金原:そうですね。今はコロナが蔓延していますが、段々とその生活に慣れてきちゃうじゃないですか。
尾崎:確かに、1ヶ月前とは感覚が変わってきていると思います。
「自分の中の普通が変わった」芥川賞作家・金原ひとみが語るフランス生活

金原:常識とか自分が思っている普通が変わっていく体験ができたのは大きいかなと思います。
尾崎:エッセイで「お店で警報が鳴って皆が慌てたけど、誤作動だった」という話があるじゃないですか。
日本だと「どうせ誤作動だろ」と思いますが、フランスだとその警報が現実味があるんですよね。
金原:そうですね。その瞬間は死を覚悟しました。「マシンガンを持った人が入ってくるのか?」と身構えました。周りの人もはっとして身を隠しかけてました。その瞬間は自分がこの生活に身を浸しているんだなと実感したときでした。
尾崎:”死”というものは作品にも影響を与えましたか?
金原:「いつ死ぬか分からない」って皆認識してるし、実感もしてると思うんですが、なかなか骨身に染みてまでは分からないと思うんです。どこか「明日はある」と思っているし。それが本当に「明日はないかもしれない」という気持ちになって。死に近づけられてしまったと。良いことではないんですが、そういう意識を持って生きられるということを受動的ですが体験したので、それは大きかったですね。

この後も『パリの砂漠、東京の蜃気楼』についてもお話をお伺いしました。

◆5月5日放送分より 番組名:「ACTION」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200505153000

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