TBSラジオで平日15時30分から放送中の「ACTION」。金曜パーソナリティは、武田砂鉄さん。

7月3日(金)のゲストは、恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表の清田隆之さん。20年間で1200人以上から恋バナを聞いてきた清田さん。今日は新刊『さよなら、俺たち』を中心に、男性特有の「俺たちノリ」から「私という個人」へ向かうことのお話を武田砂鉄さんが伺いしました。

武田:大学時代から始めて、1200人から恋バナを聞くことで、「男らしさの呪縛から緩和された」とお書きになっていますが、それは回を重ねていくなかで自覚されたのですか?

清田隆之×武田砂鉄、「俺たち」から「個人」へ向かうためにはの画像はこちら >>

清田:そうですね。最初は大学生の男だらけの集団なので、「笑わせてやろう!」と自分の話ばかりをして。それで失恋で傷ついているはずの女性が俺たちの話を聞いてくれる構造だったんですが、帰りの車の中だと話すことがないからシーンとしていて(笑)で、ドライバー役が我々の中で話がつまらないことで定評のある男だったのですが、帰りの車の中でもずっと会話をしているんですよ。「いつからそんなスキルをつけたんだ?」と思って聞く耳を立ててたら、「おにぎりの具は何が好き?」「しゃけ」と他愛もない話をしてるんです(笑)彼は質問を投げかけて、返ってきた答えに「いいよね、昆布」とか言ってて。その会話スタイルはすごかったですね。

武田:大学のサークルノリだと「俺の話を聞いてくれ!」合戦になりますよね。あれは芸人さんがやると面白いけど、大学生だと地獄ですよね(笑)でも「これじゃいけないな」と。

清田:元気になって帰ってほしいのに、疲れて帰るのはなにか違うなと(笑)で、彼のおにぎり会話スタイルを見て、その人が自分の話を目いっぱいして、俺たちはふんふん聞くことに徹するほうが上手くいくのかもと思いましたね。

清田隆之×武田砂鉄、「俺たち」から「個人」へ向かうためには

武田:新刊のタイトルが『さよなら、俺たち』ですが、どういう意図のタイトルですか?

清田:「俺たち」という言葉が象徴的だなと。

例えば「彼女に浮気された」という男の人の話を聞いてて、「それは辛かったですね」と返したら、「いやそういうことじゃなくて、浮気はダメでしょ」と言うんです。感情じゃなくて善悪で語りはするんですが、「あなたはどう思ったのですか?」という部分で言葉が出てこないんです。で一方で浮気や風俗に行ったという男の話を聞いたとき、「男ってそういうことあるよね」と同意を求めてくるんです。「俺たちってそういう生き物じゃん」という都合の良いときは「俺たち」という集合名詞に隠れて、自分自身の言葉を発しないですね。で、「社会の中の俺たち」は雄弁に使うみたいな。この「俺たち」という言葉の奇妙さがずっとありましたね。

武田:この本の中でbeingとdoingという言葉が印象的に出てきます。beingは存在でdoingは行為ですが、これは男女の差を表すのによく出る言葉です。この差はどういうものですか?

清田:beingは在るもの、どうしようもなく発生してしまうものでもあると思うんです。感情とか生理的反応とか。その総体として人間=human beingらしいです。それに対してhuman doingという言葉もあるらしいです。

これは行為、肩書、「何ができる」「何をしてきた」「何を持っている」とかでその人を示す言葉らしいです。で、社会では自分自身を表明するときやアピールするときはdoingの側面を無意識に想定しちゃいますよね。

武田:実績や能力ですね。

清田隆之×武田砂鉄、「俺たち」から「個人」へ向かうためには

清田:そういう側面を伸ばすことがこの社会では是とされているじゃないですか。でももっと「あなた」や「わたし」の個人の中に発生している感情や感覚が母体としてあって、その外側にdoingがあると思うんです。で、特に男の人と話しているとbeingの部分が全然見えてこないですね。「浮気されてどういう気持ちでしたか?」と聞いても、「いや、浮気はダメでしょ」と。「ダメはダメだけど、あなたはどう感じたの?」という部分が感じられないんです。そこを言語化しなくて済んでいたんでしょうね。

武田:僕が5~6年前に出版社を辞めるときに、いろんな先輩に「辞めます」と話に行くんですよ。男と女を分けて話すのは良くないんですけど、本当にくっきり分かれたのでよく覚えているんですが、男の人は「食っていけるの?奥さん大丈夫なの?」と言うんです。で、女性の先輩は「武田君はなにがやりたいの?」と言ってくれるんです。

で、独立のときの不安なときに、「なにをしようと思ってるの?」と言ってくれるのはすごく嬉しかったですね。そこで「こんなに違うものなのか」と思っちゃいましたね。

清田:「あなたはどう思ってるの?」をちゃんと注目しているから出てくる言葉ですよね。男社会だと「お前の感情はどうでもいいから、役割をこなせ」というのが当たり前ですけどね。

引き続き、脱皮するべき男性像の話をお伺いしました。

◆7月3日放送分より 番組名:「ACTION」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200703153000

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