TBSラジオ「マンスリーチャンネル 美村里江の本棚とんとん」7月の毎週日曜日夕方5時30分から放送中!

7月19日・日曜夕方5時30分から放送されたマンスリーチャンネル『美村里江の本棚とんとん』、第3回放送。

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7月のマンスリーチャンネル全4回を担当するのは、女優でエッセイストの美村里江さん。

1か月間に200冊もの本を読破することもある読書家として知られ、新聞や雑誌などで書評、エッセー、寄稿、詩歌集と執筆活動でも活躍中。
美村里江さんが独自の視点で本の世界をご案内。
美村里江「普遍的な価値を伝える本をご紹介」

皆さん、懐中時計見たことありますでしょうか?私の趣味の一つなんですけれども、懐中時計の世界は奥深いんです。今はもうみんな電池で動いてるクォーツの時計が主流ですけれども、そうなる前は機械式で手で巻いて、巻いたゼンマイの力で動いて時計をやっていたわけです。基本的にはとっても位の高い方とか、偉い方とかがオーダーして装飾と中身を作っていたということで、大変貴重なものが多い懐中時計。そんな宝物で、代々いろんな方が大事にしてきて、私の手元にあるものがあります。

懐中時計が好きな私ですが、これ実は「ひみつのアッコちゃん」が変身するときに指輪をつけて変身している時代があったみたいなんですが、30年前にクリスマスプレゼントでリクエストしたんです。ですが、全く違うものが届いて、それから30年経った今年の誕生日に夫にプレゼントしてもらいました。当時は3000円で子供向けに発売されたのに放送の関係で2,3ヶ月しか発売しなかったということで、いまだに価値あるものとして取引が行われています。この原理が懐中時計にもこういう子供のおもちゃにも発生しますよ。ということで、今回は普遍的な価値をテーマに本を選んでみました。

本棚とんとん「餓鬼と妖怪の本」
餓鬼と妖怪の本というのは、ちょっとまとめとしては大雑把なんですけど、変わらない価値といいますか、妖怪はもうずっと人気がありますけど、その中でもずっと脇役だった餓鬼にスポットを当てて主人公にした漫画でございます。

まず一冊目は、塵芥居士さんの漫画「丁寧な暮らしをする餓鬼」KADOKAWAから発売中。

いろんな妖怪とか地獄絵図とかって中でもマイナーな物ってまだあると思うんですよ。そんな中で「餓鬼」って言われて「飢えた鬼」って言われたらみんなにイメージが伝わるもので、丁寧な暮らしをするっていうのは誰しも憧れますし大変良いと思うんです。でも丁寧な暮らしって言い過ぎると、行き過ぎた感じになってやりすぎたみたいなのが世の中にちょっと出てきて、「はいはいはい。分かる分かる。」みたいになっちゃってる世の中に送り出してきたというのが、ちょっと皮肉として面白いんです。

餓鬼を主人公にするっていう時点で、ちょっと困難がありますよね。餓鬼っていうフォルムを保つには、ちゃんとした絵じゃないとあの感じって出ないんですよね。作中では愛称で「ガッキー」と言われているので「ガッキー」と呼びますが、ガッキーが可愛いの。丁寧な暮らしをするって言うタイトルの通り、お茶殻で畳の上をはいて最後拭き掃除したりだとか、重曹を水で薄めて、シュッシュとしたりとか。女性誌の中でもよく取り上げられるいいよねっていう良い感じの暮らしを餓鬼がやっているんです。このガッキーのフォルムが、全然漫画仕様にしてないんです。それなのに漫画として成立していて、世界観がお見事なんですよね。

塵芥居士さんは日本画を7年学んでいて、伝統工芸品関連会社にも勤めていたということなので、きちんと学ばれた方なんです。やっぱり基礎がしっかりされてる方なので文字とかも全てがその世界からなんですよね。ちょっと絵だけ見たら、いつの時代に書かれたものかなって。今書かれたってそんなにわからないような感じの絵です。餓鬼は可愛いし、愛しい。みたいに大好きになってしまったそんな漫画です。

今まで大真面目だった餓鬼という存在を、こんな風にポップに仕立て上げてっていうところで、ちょっと通じるものを感じる作品がありますのでご紹介致します。

九州国立博物館の貴重な書物なんですけど「針聞書」という本です。立派で価値のある専門書なんですが、実に面白いんですよ。内容は鍼灸師の先生が、人間が不調になった時にどこの臓器にどういう虫がいるのかっていうことを想像で書かれたというなかなかいい本なんです。
1658年頃の本で、九州国立博物館の開館以前の平成16年10月に愛媛県松山市で開かれた第16回全国生涯学習フェスティバルまなびピア愛媛2004で、この虫をデザインしたのぼりやエプロンやカードを配ったところ、子供達に人気がでたので九州国立博物館のメインキャラクターのようになっています。

九州国立博物館の絵本のシリーズで「はらのなかのはらっぱで」フレーベル館からの絵本では、「針聞書」のいろんな絵を引用していて、はらの虫を紹介しながら進んでいく物語になっています。

子供向けに書かれているから大変面白いんです。虫が案内に出てきて、僕たちの世界を紹介しますって、脾臓で働く虫ですよーとか耳で働く虫ですよーとか出てくるんです。最後に宴会みたいのをみんながやるんですけど、ここが凝っていて、たぶん他の巻物とかから持ってきてトリミングしてみんながご飯食べてるシーンを作ってるんですけど、これによってね世界観がすごく統一されていて可愛らしさもあるし現代調でもあるし、読んで面白いし中身も知れます。私、実は「針聞書」を最初に九州国立博物館に観に行った時に、ずっと勘違いをしていて「そっか、お医者様が一生懸命想像して書かれたけど、最先端の方とはいえ、やっぱり絵はそんなに得意じゃなかったんだな。だからこんなに隙間のある可愛い絵なんだな。」って思っていたら違うんですって。ちゃんと修行した絵師の手によるもので、絵も内容も本格的な医学書ということです。

独特の可愛らしさ、可愛らしさの再発見ですね。皆さんに知られていたものでも、ちょっと切り取り方を変えるとこんなふうに楽しめるよというところで「針聞書」も「はらのなかのはらっぱで」も読んで頂ければなぁと思います。

続いては、熊倉隆敏さんの漫画「もっけ」講談社から発売中。

好きなモノノケ漫画は熊倉隆敏さんが書かれた「もっけ」ですね。2009年に9刊が揃って終わってしまってるんですけど、何回読んでもこの世界が好きです。中学生のお姉ちゃん千鶴ちゃんと、小学生の妹のみずきちゃんの二人が出てきて、お姉ちゃんが不思議なものが見える人。

妹が疲れやすい人、触れられると影響を受けてしまったりとかする姉妹と、お祓いできるおじいちゃんとのお話。

このおじいちゃんが渋いんですよ。妖怪と仲良く暮らそうぜでも、妖怪と戦うぜでもなく、重要なとこで奴らとうまくやっていかんとダメだと。人が成長するにあたって必要な物みたいなものを、おじいちゃんの格言みたいなものたくさんあるんです。妖怪の面白い漫画っていうのはたくさんありますが、漫画家の方々すごいなと思うのが、一度見たことがあるものでも違う作品に登場すると違う性格だったりとか、別の要素が入ってたりというので本当に飽きないジャンルにしていることです。これからも妖怪の漫画は楽しみにしております。

妖怪とか餓鬼とか地獄とか、そういうものも飢饉とかで、やはり大変な辛い現実がある中で死後の世界はどうなっているんだろう。っていうことに思いを馳せていった時に誕生したのが地獄絵図だったということで。豊かなものに囲まれていると想像の余地ってだんだん狭くなってくると思うんですが、もちろん豊かで安全な世界がいいんですけど。その隙間に彼らがいると思うと、ちょっとこの先も楽しみですね。

(TBSラジオ『美村里江の本棚とんとん』2020年7月19日(日)放送より)

美村里江「普遍的な価値を伝える本をご紹介」

◆7月19日放送分より 番組名:「マンスリーチャンネル 美村里江の本棚とんとん」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20200719173000

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