毎週金曜日にOAしている金曜ボイスログ(TBSラジオ・金曜あさ8時30分)。10月16日は特別企画。

先日亡くなった筒美京平さんの追悼企画をお送りしました。

いきものがかりやポルノグラフィティの作品で知られる音楽プロデューサー・作編曲家の本間昭光さんとお電話をつないでお話を伺いました。

『合いの手も歌える』筒美京平の凄さとは?本間昭光が語る。の画像はこちら >>

ミトン:本間さんは中川翔子さんの「綺麗ア・ラ・モード」(作詞:松本隆 作曲:筒美京平)の編曲を担当されているわけなんですけれども、実際に筒美さんとはお会いされたんですか?

本間:はい。打ち合わせだけじゃなくて、スタジオにもいらっしゃいます。そこでちょこっと喋って「じゃあ、帰るね」みたいな。

ミトン:筒美京平さんは滅多にメディアの前には姿を現さない方で、都市伝説的に「作家集団なんじゃないか」なんて噂が飛び交うほどに謎めいてる方ですよね笑。 実際にお会いするとどういう方なんですか?

本間:とにかくスマートかつダンディー。いつも打ち合わせは某ホテルのコーヒーショップで。お店の受付で「京平先生と…」って言ったら「あ、こちらでございます」って案内されて。一番、奥の方、さりげない席にお座りになられてて。そこでちょっと打ち合わせをして、「あとはよろしくね!」と。でもその短い会話の中にすべてのエッセンスが詰め込まれている感じなんですよね。

それがもう素敵で。

アレンジャー生活を経て作曲家になられているということもありまして、アレンジャーのことも全部お見通しなんだろうなって感じがするんですよね。だから「あとは分かるよね?」的な感じなんですよね笑

ミトン:逆に怖いですね笑

本間:プレッシャーですよ笑。世の中の音楽の動向とか、全部聞かれてるんですよ。本間くん、「最近これやってるよね」「あの曲のアレって何使ってるの?」とか。

ミトン:とにかく勉強されてると言うか、このアンテナを張り巡らしてるというか。

本間:そこがやっぱり凄いところですよ。

ミトン:中川翔子さんの「綺麗ア・ラ・モード」は2000年代のJ-POP の一番美味しいところがサウンドにものすごく詰まってるなって思うんですよ。ドラムの音の質感だったり、ストリングスの鳴り方であったり、メロトロン(※ミトン注:ビートルズなどでも多用されたレトロな音の鍵盤楽器)の使い方とか。筒美京平さんってすごく時代時代で本当にカメレオンのように作風と言うか音の感じが変わっていくじゃないですか。その時代の一番新しい一番フレッシュなものを追い求めると言うか。そういう意味で言うと2000年代の中川翔子さんのこの筒美京平作っていうのは、変な言い方ですけど筒美京平という作曲家のカタログに2000年代の楽曲として存在してるって事が単純にリスナーとしてすごく感動的なんですよね。

本間:筒美京平先生の訃報を聞いて、(綺麗ア・ラ・モードを)あらためて聴き返してみたんですけど。もうその(2000年代の)時代(の音)ですよね、そういうものがやっぱりあるんですけれども、設計図がしっかりしてるので、そこを含めて筒美京平ワールドなんだろうなって思うんですけど、でも、「音色は今の感じにしてちょうだい」っていうオーダーがくるんですね。

ミトン:60年代からメインのメロディーはもちろんなんだけれども、メロディに対するカウンター、合いの手として、女性のコーラスグループの声だったりとかホーンセクションだったりストリングスだったりって必ずセットですよね。

本間:そこの風景というか、全部見通した上で、、なので本当の意味での作曲家ですよね。作曲家というものが、編曲まですべて把握出来ているというのが、60年代から活躍されている作曲家の先生方の基本ですよね。

ミトン:そのカウンターメロディーなんかは譜面にあらかじめ指示されていた?

本間:絶対、ここは外さないでというところは譜面に指示されていました。

ミトン:ちなみになんですけど、業界の噂話程度で聞いた話なんですけど、筒美さんが書かれる譜面は物凄い絵画的で美しいみたいな話を聞いたことがあるんですけど、本当ですか?

本間:僕がいただいた譜面に関していうとほとんど殴り書きのような譜面でした笑 細かく指示、、ではなくて「もう分かるよね?」みたいな。なので、僕は京平先生のスコア(ミトン注:全パートが記載されている総譜)っていうものは見たこと無いんですよ。もうペラで、1枚でくるんですよ。それにデモテープが付け加えられてきてみたいな。

ミトン:そうするとコードとかは、既に結構ついている感じですが?

本間:いや、コード譜面は付いていないんですよ。シンセ一台で演奏されているデモテープだけを受け取る形で。

ミトン:簡単なアレンジデモみたいな感じですか?

『合いの手も歌える』筒美京平の凄さとは?本間昭光が語る。

本間:いや、もう弾いてるだけって感じで和音の中にメロディーが隠されているみたいな。メロディーと一緒にコードを弾いて、っていう感じですね。

ミトン:なんとなく、コード弾きなんだけどトップの音がメロディーになっているみたいな感じですかね。そういうものをいわゆる耳コピというか音取りつつ、コード当ては本間さんがご自身でされるところもあり、みたいな感じですかね。

本間:そうですね。細かいところは任せるからみたいな感じで。リハモ(※ミトン注:リハーモニゼーション、つまり和音・コードを別のものに変更すること)とかも「やって」って言われるんだけど…変えられないですよね笑 出来上がっちゃってて。

ミトン:完成されちゃってるわけですね笑

本間:そうなんですよ。アレンジャーとしては完成形がはっきり見えているから、ちょっとした音を入れたりすると…慎重にならないとバランスが崩れちゃうんで。答えがハッキリしてる分、やりやすいんですけどね。余計な装飾も必要ない。逆にそういう装飾があってこそ、というジャンルもあるんですが、2000年代においての80年代ポップスを求められたみたいで、あの曲(「綺麗ア・ラ・モード」)は。

そういう感じをサラッと出来ちゃうっていうのがね…それと、(筒美さんの曲は)息がちゃんとできるメロディなんですよ。ブレスがゆっくりできると、歌い手さんとしては表現に集中できるんですよね。

ミトン:歌いやすさみたいなものも考え抜かれているわけですね。

本間:経験値ですよね。それって。

ミトン:ちなみにこの曲、ちょっと筒美京平さんのお話という点で言うと、ずれちゃうかもしれないですけど、松本隆さんの作詞じゃないですか。この曲聞いて80年代のアイドル的なものが求められてるという話でしたけど、やっぱり松田聖子さんであったりとか、あるいは松本隆さんと筒美京平さんのコンビということで、太田裕美さんだったりとかそういう雰囲気っていうのがメロディにも表れていて。なんとなく勝手な想像ですけど、松本隆さんの言葉が呼んでいるメロディみたいなのもあったりするのかなぁなんて思ってるんですよ。

本間:僕が頂いたのはシンセメロだけのデモテープと譜面だったので、なんとも言えないんですが、やっぱりそこは長年のコンビネーションというか阿吽の呼吸があるんじゃないかなと思いますよ。こういう風に書いたら松本さんはこういう風に書いてくるだろうみたいな。あと、打ち合わせの中でも出来上がってるんだと思いますよ。お互いに連絡取り合って、「こんな感じにしようと思ってる」みたいな話をしてるんじゃないかな。

ミトン:ちなみに、サビ直前に半音で音が上がっていくところ、サビのコードの半音上のハーフ・ディミニッシュ(※ミトン注:マイナーコードの一種で、5度の音がフラットしている、かなり緊張感のある響きのコード)が入るじゃないですが。あれオシャレだなーって思って。誰のアイディアなんですか?

本間:あれはもともと入ってましたね。あそこで(ハーフ・ディミニッシュに)いくじゃないですか、あの発想はなかなかなくて。

ミトン:そうですよね。で、サビのメロディの頭がIV(四度)のコードじゃないですか。IVのコードに対して9th(※ミトン注:ナインス、コードの根音からみて9度の音で、コードにもともと含まれている音ではない)から始まるんですよね。歌のメロディが。

本間:京平先生、たまにそういう手法をとられることがあるんですけど。9thだったりSus4(※ミトン注:サスフォー、コードの長三度の代わりに四度を使うこと。例えば「ド・ミ・ソ」のコードだったら「ド・ファ・ソ」)の使い方だったりがやっぱり上手というか。

ミトン:正統派なメロディでも一瞬「あ!」ってひっかかるのはテンションにメロディがいってることによるオシャレさがありますよね。

本間:たぶん、右手をガッと開いてメジャー・セブンス、もしくはマイナー・セブンスのスタイルでやった時に、左手がどこを選んだかってことだと思うんですよ。普通にマイナーセブンスでもいいだけど、そこを3音下げることによって、メジャーナインスに変化するってのは、アレンジャー感覚があるってことですよね。(※ミトン注:鍵盤で、右手でマイナー・セブンスのコードを押さえた上で、左手で根音の長三度下の音を弾くと、メジャー・ナインスという別のコードになる。例えば、右手でド・ミ♭・ソ・シ♭を押さえるとCマイナー・セブンスというコードになるが、さらに左手で低いA♭を鳴らすと、そのコードはA♭メジャー・ナインスというコードに変化する。コードを構成する音を増やすことによって、より複雑な、Jazzyな響きを得ることが出来る。)

ミトン:ジャズピアニスト出身というところもあって、そういう風にメロでテンションにいくっていうことが抵抗なく歌謡の世界でやれていたって部分もあるのかもしれないですね。

本間:そうですね。だから一発弾きのデモなんですよ。一発で弾いててバァーンと鳴るんだけど、ジャズ・ピアニストっていうこともあるから、間違ったとかそういうことじゃない。わかりやすくメッセージが伝わってくる感じのデモなんですよね。

ミトン:本間さんが思い入れのある筒美さんの楽曲ってどれでしょうか?

本間:稲垣潤一さんのドラマティック・レインですね。秋元康さんが作詞で船山先生がアレンジされていて。どこにどういう風な会話があったのか想像するだけで楽しくて。これは京平先生の指示なのか、船山先生の発案なのか分からないし。それこそ、秋元さんと京平先生の間でどんな会話がされていたのかも分からないし。稲垣潤一さんがずっとオファーしてたんだけど、なかなか受けてくれなかったって話も聞いてて。でもようやく書いたのがこれ!っていうところも素敵なストーリーだなと。

ミトン:この船山基紀さんも、本当に70年代80年代を代表する編曲家ですよね。

本間:いやぁ、素晴らしいですよ、船山先生、萩田先生(※ミトン注:萩田光雄さん、同じく70~80年代に数多くの大ヒット曲を手掛けた編曲家。)その時代の先生がたは表には出ていらっしゃらないけど、僕らの耳のDNAに刻み込まれてるって感じですよね。全てにおいて言えるのは合いの手のフレーズも歌えちゃうってことですよね。メロディはあるけど、「チャッチャ」って入るとか。いちいちアレンジのことは話さなくても歌とセットになってる。それが一回り、二回り、今は四回り目だと思いますけど、80年代サウンドがリバイバルで流行ってますよね。その合いの手も含めたJ-POPのスタイルってのを、もう一回、みんな研究してもいいかなと思いますよね。

ミトン:曲の構成自体がキャッチーというか。お茶の間レベルで広がっちゃう。

本間:尾崎紀世彦さんのやつなんてイントロで一瞬で分かっちゃいますもんね。タッタッ・タラーララみたいな。

ミトン:最後に、かなり漠然とした質問になっちゃうんですけど笑、ヒットチャートど真ん中というか最前線で活躍される本間さんにとって、筒美京平さんとは?

本間:やっぱり、そこまで情報がなかった70年代、テレビでかかった曲で「あ、他の曲とはちょっと違ったテイストの曲だな」「引っかかるな」「普通じゃないな」と思ったのはだいたい京平先生の曲だったんですよね。で、そういう方といつかご一緒したい!という気持ちが自分のモチベーションになっていて。また次も呼んでもらえるように、必死で頑張ろうと最初にご一緒した時にやっぱり思いましたね。会ってるだけでもそうですし、雲の上の存在だし、見たことないですからね、表出てこない人だから、最初は「この方が筒美京平さんか~!」みたいな笑でも、だんだんセッションを重ねてゆくにつれて、理解してくださって。また京平先生も僕のことを研究してくれていて。これは身が引き締まる思いでしたね。お年を召されても、 研究熱心で前向きにいろんな若手とセッションを重ねていたっていうのは、自分も学ばなきゃいけないし、そうしなきゃいけないなって思いますね。

◆10月16日放送分より 番組名:「金曜ボイスログ」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20201016083000

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