今回は「色のバリアフリー」について、3月4日TBSラジオ「森本毅郎・スタンバイ!」(月~金、6:30~8:30)の「現場にアタック」で、レポーター田中ひとみが取材報告しました。

サッカー、イングランドプレミアリーグの試合で「敵と味方のユニフォームが区別しづらい」と苦情が殺到、日本でも一部話題になりました。

マンチェスターユナイテッドが深緑。リバプールが赤。個人の色覚の特性によっては、この緑と赤が区別しづらい。「同じ色に見える」という方が多く、苦情が殺到したんです。

こうした色の見え方の悩みは、なかなか気付かれにくく、つらい思いをしている人が多い状況。ですが今、改善していこうという取り組みが広がっています。

昨年、大学内の「あるもの」の色をリニューアルした、九州大学・芸術工学部の須長正治教授に聞きました。何をリニューアルしたのでしょう?

★色覚の多様性を考えたキャンパス案内図

九州大学・芸術工学部・教授 須長正治さん
「大学のキャンパス案内図です。九州大学の講堂の前に立ってる案内図をリニューアルしました。普通のデザインの色の扱い方は「色覚正常」と呼ばれている一般的な人の見え方で作るのが一般的ですが、それを「色覚異常の人たちがどういう風に見えているか?」という観点から、色決めをしていきました。「色覚異常」の特性を持っている人達は、見えてる色が、「赤」と「緑」が、一般的な「黄色」と「青」のように見える方がほとんど。なので、建物は青系統で、緑地とか自然物は黄色系統で、メインが建物は濃い青で、サブの建物は薄い青でと、こういう風にしてメリハリをつけました。」

▼新しいキャンパス案内図(九州大学伊那キャンパス)

LINE×Yahoo!も取り組む「色のバリアフリー」の画像はこちら >>

▼左がビフォー、右がアフター。
下段は「2色覚(色覚異常)」の人がどう見えているかの例
LINE×Yahoo!も取り組む「色のバリアフリー」

一般的には区別できる色を区別しづらかったり、違う見え方がする「色覚特性」の人がいます。かつて「色弱・色覚障害」などと呼ばれていましたが、現在は医学的に「色覚異常」と呼ばれ、割合としては男性は20人に1人、女性は500人に1人。クラスに1人はいる計算です。

こうした色覚以上は、一般のイメージでは、赤と緑が同じに見えると思われがちですが、実はそれだけではなく、さまざまな見え方があり、色に悩む当事者は多いようです。

先ほどの須長さんは色彩の研究者として、構内案内図が全ての人にとって見やすいものなのか疑問視してきたようです。

元々、建物は「ピンク」で、敷地は「濃い緑」で描かれていて、色が見分けられれば境界線がわかりますが、「色覚異常」の方には、一面同じ色に見えて、区別がつきにくい。

そこで、建物を「ピンク」→「淡い紫色」に。敷地は「濃い緑」→「黄緑色」に変えることで、誰もが見やすいデザインに作り替えました。

★ヤフーとラインの経営統合は考え抜かれた「色」だった

学生などからも「わかりやすくなった」と好評のようですが、こうした色覚の多様性に配慮した「色のバリアフリー」は、先日、話題になったばかりの、あの企業も取り入れていました。色の問題について『色のふしぎと不思議な社会』という著書もある作家の川端裕人さんに聞きました。

作家の川端裕人さん
「この前ヤフーとラインが経営統合して新しいロゴを作りましたが、「緑」と「赤」がテーマカラーですよね。ラインが「緑」でヤフーが「赤」。

あれは「色覚検証しました」と書いてあったので、見分けにくいといわれる緑と赤だけど、皆がわかるような緑と赤を選んでいる。変に選ぶと、ラインの緑とヤフーの赤が同じようになって、ロゴの継ぎ目の区別もわからなくなる。それを工夫した。すごく良い取り組みだと思ったけれど、こうした取り組みは、もはや「配慮」という言葉すら違う域だと僕は考えていて、多くの人に情報を届けるような企業としては、むしろ通常営業というか、そのレベルにならないといけないと思う。」

▼ヤフーとLINEの記念サイトを開くと、緑と赤の画面が大きく出てきます。

LINE×Yahoo!も取り組む「色のバリアフリー」

▼専用ツールを使って、4タイプの色覚特性でどう見えるのか?検証
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サッカーのユニフォームもそうでしたが、「緑」と「赤」は、人によって区別しづらい組み合わせの代表。まさに、ラインの「緑」と、ヤフーの「赤」は、気をつけなければいけません。

統合を記念した特設ウェブサイトでも、やはり、緑と赤を多用していますが、同時に、「本企画の色覚検証について」というページもまとめられていて、見え方に問題がないかどうか、チェックした結果が出ています。まず、どんな色覚特性の方にも、色の区別ができるかどうか、専用ツールを使って検証。さらに当事者による目視での検証も行っていると記載されていました。

他にも調べてみると、

・インキメーカー「東洋インキ」が、色の組み合わせをシミュレーションできるソフトを開発していたり、
・JRや東京メトロの路線図が色わけの工夫、
・ゲームメーカーが色の調整機能をつけて、色の濃さを自分の見え方に合わせられたり、

いろんな分野で色のバリアフリーが進んでいるようです。

★20世紀の当事者が負った傷跡

お話を聞いた川端さんも、色覚に特性のある当事者ですが、「色のバリアフリー」が広がる状況を歓迎しつつも、なぜ今まで普及しなかったのか、その理由を教えてくれました。

作家の川端裕人さん
「特に20世紀は「自分がそうだ」と言うこと自体、もの凄いリスクだった。

仕事を失うかもしれない、結婚できないかもしれない、そういう差別を恐れ、一生隠し通す人が普通にいた。孫が生まれて初めて「お父さんそうだったの」と娘に詰め寄られるとか、そういう風なことが平気であった時代。だからそのころの人たちは、今でも口を固く閉ざして言わない。20世紀はそれほどの経験だった。でも、もう時代は変わったので、いろんな人がこの世の中にいる。いろんな見え方があるんだということを、お互いの「違い」として楽しめちゃう位のことが、できればいいと思う。」

▼「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論(川端裕人 著)

LINE×Yahoo!も取り組む「色のバリアフリー」

以前は、学校などで行われる色覚検査によって判明すると、「医学部には進めない」など、進学に制限が出たり、職業選択の自由がなかったり、遺伝を理由とする差別もありました。

川端さんと、九州大学の須長さんが共通して仰っていたのは、「自分が見ている世界が全てではない。見え方の違いを許容することによって、色々なものを受け入れていけるのではないか」、ということでした。

もっと「色のふしぎ」について学びたい方は、川端さんの『「色のふしぎ」と不思議な社会』が分かりやすいですよ。

◆3月4日放送分より 番組名:「森本毅郎 スタンバイ!」
◆http://radiko.jp/share/?sid=TBS&t=20210304063000